ドラゴンゾンビ
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黒よりもなお暗い闇の中、3つの人影が宙に浮かぶ水面のような物に映る馬車を見つつ話をしている。
「くふふ、まさかあの包囲を抜けるとは、恐るべきはあの魔法使いの少年ですか、ね?」
「火魔法を使えるとは厄介でしたな。いくらこの”輪廻結界”の中では死した魂が消滅せず再生を繰り返すといえどもこうもあっさり倒され続ければ絶望の度合いは小さいでしょうな」
「敵将・・・倒す・・・士気・・・落ちる」
「ええ。あの少年を倒せば彼女達だけではゾンビにすら対処は難しいでしょう。彼女達の魂をより輝かせるために少年には早めに退場してもらいましょうか、ね?」
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ドゴゴゴゴ・・・・・・
「「「きゃあっ!」」」
「な、なんだ!」
ゾンビの包囲網を突破し立ちふさがるゾンビを火矢で灰に変えつつ道を爆走していたら突如突き上げを食らったように地面が揺れだした。
当然馬車も止まり俺達は各々馬車にしがみつく。
そのまま地震を堪えていると俺達の目の前の地面がめくれ上がるように起き上がった!?
体中からばらばらと土やら岩やらを落としながら起き上がったのは・・・
「ど、ドラゴンンンンンンン!?」
ドラゴンゾンビとしか言いようが無い存在がそこに屹立していた。その姿は数十メートルクラスのトカゲのような姿に羽が生えた所謂西洋のドラゴンの姿だったがその体は完全に腐り落ちており、鱗は無く羽は虫食いでところどころ骨が見えていたり爪や牙も何本か欠けているし眼球はすでに朽ちて眼窩は暗闇のなか怪しい赤を放っている。
だがたとえそんなみすぼらしい格好になっていてもドラゴンはドラゴン。魔物たちの頂点に立つヒエラルキー最上位の威圧感は半端ない。
「グオォォォォォォォォォォォォオ!」
突然のドラゴンの登場に完全にビビッている俺達にドラゴンゾンビは大きく息を吸い込んでの咆哮でさらに威圧を掛けてくる。
ドラゴンゾンビから放たれる物理的に押しつぶされそうな程の威圧感にフランは勿論ある程度レベルがあるセシルやロムも小さく悲鳴を上げて体を縮こませ少し震えている様に見える。
最初は俺も同じように小さくなって震えそうになったが震えているセシル達を見て我に返った。
自分よりもてんばっている人を見ると不思議と冷静になれるよね。
確かにドラゴンは脅威だが見た感じ生前に比べ明らかに弱体化してそうだしゾンビである以上火魔法が弱点だろう。
馬もドラゴンゾンビの威圧感に完全にビビッて狂乱しかかっているドラゴンゾンビが近くに居る間は動けなさそうだ。
俺とセシルはともかく他の2人は走って逃げる訳にもいかないだろう。となればやはり倒すしかないか。
俺がドラゴンゾンビと戦う覚悟を決めた途端体に圧し掛かっていた重圧がいくぶん楽になった気がした。
俺は馬車から飛び降りドラゴンゾンビの前へと躍り出る。
「こっちだウスノロ!!」
馬車ごと叩き潰されたらたまらないので威圧を掛けて注意を引きつつドラゴンゾンビのサイドに回りこみとりあえず馬車から引き離しにかかる。
「ご主人様!」
ドラゴンゾンビの顔の付近へと火矢を放ちつつダッシュで爪の攻撃範囲外へと退避する俺の元へとセシルが飛び込んでくる。体の振るえはもう収まった様で瞳には強い意志の光が見えた。
「もう大丈夫なのか?」
「はい。ご主人様の声を聴いた瞬間体にかかっていた重圧が消え去りました。ありがとうございます」
どういうことだ?威圧はもう一度威圧を重ねることで無効化できるのか?
!?もう少し思考の海に沈んでいたかったが相手はそれを望んでいなかったようだ。爪の攻撃範囲から逃れた俺たちの方へぐりんと顔を向けたドラゴンゾンビがかぱっと口を開けたかと思うとシュウウウウという風が流れ込む様な音が
「セシルこっちに来い!」
「えっ?ご主人様?」
突如抱き寄せられたことに困惑の声を上げるセシルだが今は構っている暇はない。俺とセシルの前に土魔法で出来た壁が地面から競り上がってきて視界を遮る直前ドラゴンゾンビの大きく開けた口のなかに紫色の炎が見えた。
「グオォォォォォォォン!!」
間一髪ブレス攻撃を土魔法で防ぐことには成功したが全然全く油断出来ない。俺達の周り、土魔法の壁の外のブレスが当たった地面が腐り落ちた様にどろどろに溶けているのだ。恐らく俺達を守っている壁も前から順に溶け出しており壁に穴が開けば俺とセシルもゾンビの仲間入りだろう。
勿論そんなのは嫌なので徐々に後退しつつ連続で土壁を生成。腐毒のブレスが止むまでの数十秒を耐えきった。
「ハァァァ!」
ブレスが切れた瞬間にセシルが猛然と駆け出す。セシルは俺がブレスを絶対に防いでくれると信じドラゴンゾンビがブレスを吐ききった瞬間の隙を虎視眈々と狙っていたのだ。
俺もセシルの援護のために土壁から飛び出す。
その時ちらっと見たが土壁は一枚目が完全に原型を止めておらず、二枚目が半壊。三枚目が溶け始めているものの穴は空いていないという有り様だった。
土壁は魔法の工程としては、土の変形と硬化だけなので発動も早く維持に魔法を使わないから同時に生成出来る数こそ並列起動の限界である三枚だが順繰りに生成する分には魔力と時間さえあればいくらでも同時展開できる。今回は時間の関係で5枚の土壁を作ったのだが次は三枚・・・いや四枚作っておけば大丈夫か。
閑話休題
ドラゴンゾンビに突撃をかましたセシルだが見事ブレスを吐ききった後の隙をつき接近。ドラゴンゾンビの体を駆け上がり首元を切り裂いた。が、それだけだった。
どれだけ良く切れるメスでもそれで牛の解体は出来ない。なにが言いたいかというとドラゴンゾンビの首の太さに対し武器の長さが圧倒的に足りないのだ。
とわいえ相手が普通の生物や魔物なら喉を切り裂いたら大抵は絶命するだろうがコイツは違う。切れた首の周りの肉がグチュグチュと蠢き傷がふさがっていく。
という所でセシルの後を追いかけていた俺の魔法が完成。本命の火魔法三回重ねの火球がドラゴンゾンビの顔面に命中し燃え上がる。
セシルは俺が火魔法を使うことをあらかじめ予測していたようでドラゴンゾンビに一撃加えた後すぐに俺の元へと戻ってきた。
ていうかセシルの動きはちょっと早過ぎやしないだろうか?もともとAGI型のスピードファイターだったけどレベルが上がって来た最近じゃガチで残像が視えるレベルで早くなっている気がする。
「グギャァァァァァァァァァア!」
やっと喉が塞がったらしいゾンビドラゴンの咆哮で散っていた意識をまたゾンビドラゴンへと集中する。
ゾンビドラゴンの咆哮に合わせ顔を覆っていた炎が吹き飛びほぼ無傷の頭部が出現する。多少は焼き爛れているようだがもともと腐り落ちていたので違いは良く分からないしありえないレベルの回復力で傷が元に戻っていく。
「ちっ!魔法耐性が高いのか?文字通り腐ってもドラゴンって事か。魔法無効じゃないのが唯一の救いだな・・・」
斬撃も致命傷には程遠い上にあの超回復。これはちょっと厳しいか?
「ご主人様どういたしましょう?」
「とりあえず馬車から引き離す。その後はブレスがこないようにある程度の距離を保ちつつヒットアンドアウェーでHPを削る。ブレスが来そうになったらすぐに俺のところに来るように!命大事にで行くぞ!」
「はい。分かりました!」
消極的な作戦だが有効打が無い以上時間を稼ぎつつ情報を集めるしかないか




