火球
「う、ぉおおおおおおお!」
ゾンビに囲まれた馬車の前セシルと共に前に出た俺は土魔法を連続して発動させる。
馬車で急接近しつつ狙撃したさっきと違い、詠唱の時間があるためもっと大掛かりな魔法を発動できる。
俺は馬車をぐるりと取り囲むように一気に穴を堀り、出た土で穴の馬車側に山を作った。これでゾンビ共の襲撃をある程度は防げるだろう。ノロノロ歩いているゾンビが急に超ジャンプで穴を飛び越えられるとも思えないし穴の中に落ちたら土魔法で埋葬してしまおう。
またこのバリケードは俺達の正面だけは塞がずに開けてある。これでゾンビたちは数に物を言わせて俺達を取り囲むことが出来ず少数ずつで相手するしかない訳だ。
こちらの戦力もガタ落ち中だがゾンビ共は数が多いだけで個々の戦闘力は低い。土魔法一発で倒せるレベルだ。だから各個撃破さえ出来れば十分満足分戦えるだろう。
「いっ!つつ・・・」
規模の大きな魔法を連続使用した負荷で頭のなかにガンガン響く様な鈍痛が走る。
額を押さえつつ首を振って痛みをやり過ごしていると壁の隙間からさっそく一体ゾンビが入り込んできた。
「っ!セシル!相手をしてくれ。俺は火魔法で援護する!」
「はい!」
俺の言葉を聞き終わるかどうかのタイミングでセシルが一陣の風となってゾンビへと駆ける。
「ハァッ!」
気合一閃セシルが突き出したレイピアが狙いたがわずゾンビの喉を刺し貫く。
相手が普通の人間や魔物なら一撃で命を刈り取れたであろう一撃だがそもそも命があるのかすら分からないゾンビは自分の首に突き立っているレイピアをまったく気にした様子も無く無理やりセシルに掴みかかろうと前進する。
「あ゛ー」
「ひぃっ」
自分の喉にレイピアをメリメリ沈めながら虚ろな眼でセシルの首へと手をのばしてくる姿に生理的嫌悪を感じたのかビクッっと体を跳ねさせた後硬直してしまった。
「セシル!」
頭痛がもう少し収まらなければ詠唱には集中できないしそもそも魔法の発動速度じゃゾンビがセシルに届くほうが早いかもしれない。こうなったら素手でも殴り倒してやると思いこぶしを固めたが、
「ハァッ!」
一足先に硬直が解けたセシルが剣を真横に振りぬきバックステップで距離をとる。
首が半ばから千切れたゾンビだが一滴の血も流れず首をカタカタさせながらそれでも接近してくる。
「だぁらっしゃー!」
ここでやっと追いついた俺がハイキックをかましてゾンビの首を完全に吹っ飛ばす。
首が完全に飛んだ段階でゾンビの体は砂になってさらさらと消えていった。
「はぁ・・・危なかった」
「すみませんご主人様・・・」
セシルが顔を伏せしゅんとした態度を取る。
また自分の所為で俺の手を煩わせたとか思ってんだろうがそんなことを気にする必要はないしする余裕も無い。
「気にすんな。セシルが怪我無かったんならそれでいいよ」
「ご主人様・・・はい!がんばります!」
よしこれでいい。
頭痛も治まってきたしゾンビもぞくぞく出てきた。さて頭痛とMP残量に注意しつつサクッと殲滅するか。
数十分後。
ゾンビを何百体か砂に返し分かったことがいくつかある。
まず、俺達がゾンビとは相性が悪いということだ。まずはセシル。彼女の得意技はレイピアによる刺突だ。だがこれがゾンビと決定的に相性が悪かった。ゾンビは喉を突こうが額に風穴を開けようが心臓を貫こうが死なない。殺すには最初にやったみたいに頭を完全に切り離すか燃やすしかない。剣術ならば動きの遅いゾンビの首を切り落とすのは容易いし鈍器で頭をぶっ潰してもいいだろうが刺突では厳しい。セシルは今レイピアを剣のように使って戦いつつ俺の詠唱の時間稼ぎというか盾役をしてもらっている感じだ。
そして俺。根本的に魔法自体が苦手な上今はレベルが低い火魔法で戦っている。
というのも最初はまた土弾を打ったんだがゾンビの額に穴を開けて後ろに吹っ飛ばしただけでまたすぐに起き上がってきたのだ。
対して火魔法はやはり弱点だったらしく体に火がつくと一気に燃え広がり灰となった。だがレベル1だとちっちゃな火矢しかできず飛距離もせいぜい一メートル程度だったので使い勝手は悪かったが並列起動で威力と飛距離両方がブースト出来た。代わりにMP消費も上がるとはいえレベルが低い火魔法を二倍で使っても土弾1回よりも消費は低かったのでスキルとリアルのレベル上げも兼ねて火魔法を使いまくっている。そしたらスキルレベルは2つ上がって土魔法と同じ3になった。魔法の扱いにも多少は慣れてきた。土魔法はちょこちょことこんなにも違うものか命がけの戦闘で得る経験値。
次に分かったことはこのゾンビが魔物では無いということだ。魔物ならば倒した後宙に溶ける様に消えるはずだ。だがこのゾンビたちは体を砂に変えて消えてゆく。つまりこいつらは魔物以外の何か、体が砂で出来ているのを考えるとゾンビというよりゴーレムっぽいかな?まあ見た目も弱点もゾンビだが。
最後に悪い知らせ。何匹首を刎ねようが、火魔法で火葬しようが堀に落ちたやつを土葬しようが一向に数が減らない。減った端から増えてるっぽいのは分かるんだがそれなら何故絶対数が増えないのか?ゾンビ共の最大数が決まっているのかも知れないが、こっちのスタミナも魔力も有限である以上無限に出てくる敵を相手していればいくら雑魚とはいえいずれは押し切られる。
それを危惧した俺はフランたちに指示を出し馬車の出発の準備をさせた。
このままここに残っていても状況は変化しない。それぐらいならゾンビ共を無視して駆け抜け近くの町なり村なりに逃げ込むか最悪朝になるまで逃げきればなんとかなるだろうと踏んだのだ。もっともこの決断にはレベル3に上がった火魔法の存在も大きい。レベル3になったことで十分に走る馬車上から前方のゾンビを焼き払えるだけの火力と飛距離を確保できるようになったのだ。
「フラン!行けるか!?」
「はい!いつでもどうぞ!」
後ろから頼もしい返事が返ってくる。
ニヤっと口の端で笑った俺はこの状況を打破するための指示を出す。
「カウント3で行くぞ。セシル、3つ数えたらその場から退避しろ」
「「はい!」」
「1・・・」
数を数えつつ土魔法で馬車が通れるまで壁を崩す。
「2・・・」
崩れ行く壁を前に火魔法を多重詠唱。イメージを練る。
「3・・・!行け!」
俺の合図と共に動いた影が3つ
1つ目は馬車。フランの操る馬車が開けた入り口へ向け加速し始める。
2つ目はセシル。俺の命令どおり3つ数えた後入り口を開けるように横にずれた。
3つ目は俺の頭上に出現した直径2メートルはありそうな巨大な火球だ。この火球は出現するやいなや入り口前のゾンビ共へ突撃。ある程度敵陣に食い込んだ所で、
「拡散!」
火球が爆発。内に秘めた熱量を辺りのゾンビ共に浴びせ、燃やし、逃走経路を確保する。
途端、眼前にできた道へと馬車が突っ込んでいく。多重詠唱の反動でとっさに動く馬車に飛び乗れる程の動作は出来ない。だが、
「リュージ!」
咄嗟に手を伸ばすぐらいの事は出来る。
そして俺が伸ばして手を掴んでくれる子も・・・
「ロム・・・」
「絶対離さない!」
馬車はゾンビ共を振り切るためにどんどん加速する。力を制限され見た目どおりの女の子ぐらいの力しか出ないロムは顔を真っ赤にしつつも必死に踏ん張って俺の手を掴んでいる。が、
「あっ・・・」
いかんせん女の子の筋力で大の男を支え続けることは出来ない。でもそれでもロムは決して俺の手を離さずに俺と一緒に馬車の外に放り出され・・・
「よくがんばりましたねロム」
ロムの体と俺の手を後から飛び乗ってきたセシルが掴み一気に引き上げてくれた。
「おう、ありがとうなセシル・・・ロムも」
お礼を言うとセシルは少しはにかみ、ロムも嬉しそうに顔をほころばせた。
「いえ、ご主人様のためですから」
「うん。私もリュージには傷ついて欲しくないから・・・私も戦えたら良かったのに・・・」
ロムは可愛らしく微笑んでいた顔を翳らせしゅんとする。
「気にすんなってば、次の町に着いたらバリバリ戦ってもらうから覚悟しろよ?」
「リュージ・・・うん。がんばるからね!」
ロムは胸の前で小さくガッツポーズを取りよしっとか言ってる。その様子を俺とセシルはほほえま~と見ていた。




