破壊の化身
「さぁ俺達の戦闘を始めよう・・・!!」
剣を抜き放ちロムに向け宣言する。その言葉に、あるいは剣に反応しロムの髪と手足が燃え上がり、それに並行する要に角へと禍々しい魔力が吸い込まれているように見える。どうやらあの角から空気中の魔力を吸収しているようだ。となれば魔力の供給源である角を叩けば確かにロムの暴走もある程度は収まるかもしれないな。
目の前で苦しんでいる友達が居て俺にはその子を助ける手段があるなら後は実行するだけだ。なるべくロムに怪我をさせないように立ち回りつつ隙を見て角に衝撃を与える。破壊の化身となった今のロム相手には少々厳しいかもだがそんなことはロムを見捨てて逃げる理由にはならない。
俺が改めてロムを救う手段と決意の確認をしているとロムが動いた。ロムは炎の軌跡を残しながら弾丸のように一直線に俺へと突っ込んできた。
その速度は恐ろしく早い。地に着けた四足全てをばねのように使いさらに火魔法を推進力として使うことでAGL特化のセシルを直線速度では上回っているだろう。
だがそれはあくまでも直線軌道の話だ。攻撃が来ると分かっていたならば回避するのは不可能ではない。
「っつ!」
攻撃の予備動作を見てすぐに回避したのに結果ギリギリでの回避になり冷や汗だらだらだがこれはチャンスだ。目の前を通り過ぎるロムに剣を合わせようとし
「あっつ!熱い熱い!」
ロムから迸った炎に撒かれて飛びずさった。
幸い皮の鎧に燃え移ることは無かったが――そういう仕様っぽい――熱いものは熱い。自動の攻勢防御だったら厄介だけど攻撃の直前にロムはこっちを睨んでいたし違うだろう。
「グルルルルルルル」
必殺の突撃を回避されたロムは大したダメージも負っていない俺を見て悔しそうに唸る。
実際結構ギリギリだったんだがほぼ無傷なのは違いない。
突撃の勢いを殺すためにまた四足を着き地面を削りながら後退していく。そのロムに一足で接近し剣を振り下ろす。勿論峰打ちっていうか腹打ち?でだ。
斜めに振り下ろすように迫る剣の刃をロムは片手で握り締めるように受け止めた。
片手で止められたことも驚きだがロムは片手白羽取りの様な格好で指が刃に当たるように剣を掴んでいたのだ。それなのにロムの細い指からは一滴も血が流れておらずそれどころか・・・
ミシッ
おいおいウソだろ!?
ロムの手から炎が噴きだしたかと思うとそのままロムは俺の剣を握りつぶして先端をへし折ってしまった。
その通常ではありえぬ状況に俺の思考が一瞬停止しその思考の空白時間を狙うように同じく炎を纏ったロムの左手が俺のわき腹に迫る。
「っく!ぐぉお!」
はっ、と我に返り全力で後ろに飛んだが一瞬遅くロムの左手が俺のわき腹を浅く抉り取っていった。
い、今のは危なかった・・・。
ロムからある程度の距離をとって考える。今の攻撃で下手したら俺は死んでいた。
とりあえずわき腹は回復魔法で直しつつ、軽く剣を振ってまだ剣術の効果が出ていることを確認する。
もっとも剣の形状を保ってこそいるが殺傷能力は大きく落ちているだろうが俺はロムを殺す気も傷つける気も無いので問題は無いだろう。だがこれ以降ロムに打ち込むときは完全な防御不可の時かスラッシュによる耐久度上昇状態で無いと厳しいだろうな。
「ふぅー」
そんな感じで俺が自分の状態を確認している中ロムはゆらりと立ち上がり、右手を前に左手を後ろに構え指を曲げ腰を落とした構えをとった。それはロムがサーカスで使っていた虎爪の構え。暴走した破壊の化身ではなくロム本来の戦闘スタイルだった。
そしてそれはまだ俺が知るロムがアイツの中に残っていることの証明にもなる。
「来い!ロム!」
「ガアア!」
ロムは前に出した右足を軽くあげ地面を踏み抜きその反動でこちらに飛び掛りつつ右手で俺の肉を食いちぎろうと迫る。
その速度はさっきの突撃とは比べるまでも無いが当たれば重症を負うのは免れない必殺の一撃には変わりない。
俺は慌てずロムの右側へと左手での追撃を恐れて回り込む。
スラッシュで腹打ち?して弾いても良かったんだが一度スラッシュを使ってしまうとスキル後硬直にならないように距離をとるまでずっと連続剣を使い続けなければならない。もしも今のロムの前で硬直してしまったらそれは死を意味するだろ。連続剣は諸刃の剣なのだ。
・・・もっとも普通の冒険者は連続剣など無く一回スキルを使うごとに硬直しているのだろうが俺には関係ない。
さて、ロムの攻撃を余裕をもってかわしがら空きになった角へ今度こそ一撃を加えようとしたのだが予想外の事が起きた。突如ロムの頭が沈んだと思ったら上から踵が降ってきたのだ。ロムは俺が剣を振り下ろす前に地面を蹴り火魔法の推進力も加えてその場で無理やりバク宙して見せたのだ。
無論その足も炎に包まれブーストされておりバク宙の回転力と体重を乗せた必殺の威力を秘めていた。対する俺は回避した直後の攻撃モーションに入った直前でありかいひは不可。辛うじて振り上げていた剣で受けることは出来るだろうがあの威力では剣ごとへし折られ俺の頭をトマトのように叩き潰すだろう。
「っちぃ!」
仕方なく俺はスラッシュを発動。水色の煌く剣にてロムの足を弾き飛ばす。
だがロムはそれすら読んでいたように――おそらく直感的な行動だろうが――俺の剣を踏み台にするようにしてまるで逆回しのようにもとの体制に戻っていく。そして、今度は下から上へと爪が駆け上がって行く。
「っく!」
それを俺はバックステップしながら連続剣で迎え撃った。こうなった以上は一旦仕切り直さなければ連続剣を止められない。俺のMPも最初に比べれば格段に増えスラッシュの20回や30回でMP切れを起こすことは無いがそれでも無限では無い以上いつかは切れるそしてMPが切れたときが俺の最後だ。だが当たり前だがロムも早々俺を離してくれない。こうなるとロムを倒すしかないわけだがロムはありえない膂力と火魔法の推進力のあわせ技で四肢全てを使い全方位攻撃をしてくる。
対する俺はスラッシュを発動している剣でしかロムの攻撃を受けることが出来ず今も時々一閃を交えつつ全力でロムの攻撃を捌き続けるので精一杯なのだ。とてもじゃないがロムの攻撃を防ぎを防ぎながらでは攻撃に転じる暇など――
ん?防ぎながらでは?
・・・・・・おいおい俺よ。神楽坂竜司よ。お前は今とんでもないほど馬鹿なことを考えているぜ?成功するかも分からない上に失敗すれば確実に死。成功しても死ぬほど痛いだろうにそれでもやるってのか?
「・・・それこそ考えるまでも無いかそれで目の前で泣いていた友達を助けられるってんなら安いもんよ!!」
俺を食いちぎろうと伸びてくるロムの右手。それを俺は左手で受ける。
「ぐっ、おおおおぉ!」
ジューという肉が焼ける不快な音。ベキバキと人体から聞こえてはいけない音を意図的に無視して俺は剣を握り締める右手に力を込める。
「いっせえええええええええん!!!」
「!!!」
俺の剣が自身の頭部に向けて駆けてくることに気付いたロムが後ろへ跳んで逃げようとするが弾かれず受け止められた所為で一度停止した状況から再び動き出すよりも一閃のほうが遥かに早い。
青く輝く剣は必死で頭を後ろにそらすロムの額から伸びる角へと吸い込まれるように命中し、
キーーーン
という透き通る音を響かせロムを後方へと吹っ飛ばした。
「ロム・・・」
肘の少し先から千切れてしまった左腕の断面を右手で握り締め回復魔法を掛けつつロムの様子を確認しに行きその額から伸びている角が5センチ程まで縮んでいるのを確認した。
「ロム・・・よかっ・・・」
そこでまたも俺の意識は闇に飲まれていった。




