一粒の雫
kuroneko012さん感想ありがとー
やっぱり次回楽しみにしていますとか言われると嬉しいよね。
これであと10年は戦える!
ってことで続きをどうぞ。
今回はロムサイドです。
”お前は人間じゃない。魔物だ。”
物心付いたときから言われ続けていた言葉がある。
”お前は人間じゃない。魔物だ。”
エサの時間も調教の時間も掃除の時間も繰り返し繰り返しそう教え込まされた。
最初は何を言っているのか分からなかったけど団長が言葉を話したほうが儲かるかもしれないと言葉を教えられてからはその意味が理解できてきた。
要は同じように檻に入れられている他の魔物達や、旅の途中に戦わされる魔物と私が同じ存在だと言いたいらしい・・・何をいまさらとしか思えない。
他の魔物と同じように裸で閉じ込められ、他の魔物と同じように鞭を振るわれ、他の魔物と同じようによく分からないべちゃっとしたも物を食べる。言葉が分からなかった時でも私が魔物であることに疑いは無かった。
でも、別にその事に不満は無い。不満に思うほど檻の外の世界を知らなかったからね。
そんなある日ふと檻の外に出てみたいと思った。たいした理由があった訳じゃない、単なる思い付き、好奇心だった。
でも私が入れられている檻はなんか特別製らしくてどれだけ力を入れても壊れなかったの。
だから最近使えるようになった火が出る魔法を使おうとした。その時はちっちゃな火しか出せないけどがんばって練習したの。
それで今日、私は始めて檻の外に出る!えーと、檻の棒の上と下を溶かせばいいんだよね?
「アチッアチチッ」
熱いっ!すごく熱い!でももうちょっとの我慢で・・・
「えいっ」
ガッシャーンと大きな音を立てて鉄格子が吹っ飛んだ。
「たっ、大変!」
サーカスの人が来ちゃう!
今更ながら悪いことをしているような気がしてきた私は急いでテントを飛び出そうとして・・・慌てて引き返して隅っこに落ちていたボロボロのローブを纏った。外の人はみんな布で体を隠しているからね。それにローブなら角も隠せるし私って頭いい!
追われているかもってことを完全に忘れた私は意気揚々と外の世界へと飛び出していった。
「「きゃっ!」」
「うおっ」
一世一代の大冒険へと飛び出した私は二回目の曲がり角で人にぶつかった。
「なんだ?」
私がぶつかったのは綺麗な茶髪の獣人のおねーさんと黒髪に黒眼のおにーさんだった。
「ごっ、ごめんなさい」
「いや別にいいけ・・・ど?」
ぶたれる!そう思って私は下を向いてきゅっと目を瞑って震えていました。
「・・・サーカスの鬼の子?」
「あっ」
「あら本当ですね」
大変!私が檻を壊して出てきたことがばれてる!
「まさかこんなに早く見つかるなんて・・・でもここで捕まるわけにはいかないなんとか切り抜けないと・・・」
「?」
とっとにかく説明を!
「えっえっと!これは違くて!べっ別に脱走してきたわけじゃ」
「今日は休暇なのか?」
「無くって・・・え?」
「ん?」
休暇。その言葉は知っている。確かサーカスの人のおやすみの事だったかな。
「あっいや、それで合ってます!きょ、今日はサーカスのお仕事はお休みなんです!」
「お、おう」
ふぅ、なんとかごまかせた。早く逃げよう。
「でっ、ではこれで・・・」
くきゅるるるるる
急いで立ち去ろうとした私のおなかが鳴り響く。そういえば昨日から何も食べていないんだった。
「つ~~~~」
私はおなかを押さえて蹲る。ぶたれるかもと思って男の人の顔を伺ったら困った顔をされた。
「あー俺たちこれから昼飯食べに行くけど一緒にいくか?」
「・・・私お金ないし・・・」
物を買うのにお金が必要なことぐらいは私も知っている。
「まあそれぐらいなら俺が奢ってもいいんだが・・・」
男の人が女の人の顔をちらちら見ながら言ってくる。
「でっ、でもいいんですか?」
「うん。サーカスでは俺も楽しませてもらったからな。チップだと思ってくれればいいよ」
ちっぷっていうのが何かは分からないけどこの人がご飯をくれるって言うのは分かった。
「そ、それではさっそく向かっても?」
「おう、じゃ向かうか」
そこからの時間はまさしく夢のようだった。
男の人と女の人・・・リュージとセシルと一緒にこの町をまわりました。
食べた事もないようなおいしいものを食べて見たこともないような大勢の人が歩いている道を行った。
初めてお腹が一杯になるまでおいしいご飯を食べた後リュージさんはアクセサリーショップに入ってセシルさんと、なんと私にも可愛らしいヘアピンを買ってくれた。
セシルさんはとても喜んでいましたが私はあの言葉が頭を過ぎっていました。
”お前は人間じゃない。魔物だ。”
そう私は人間じゃない今日はリュージの言うところの休暇だけど必ず捕まってしまうと思っているしそこまでリュージ達に迷惑をかけるつもりはない。
そして捕まってしまえばヘアピンなんかは確実に取り上げられてしまうだろう。
だからヘアピンの受け取りは断ることにした。
「ごめんなさい。私はこれを受け取る資格はありません」
私はそう言って手のひらごとヘアピンをリュージの方へとつき返した。
「ん?なんだ?気に入らなかったのか?」
リュージは私の言いたいことが伝わらなかったみたいでへんなことを聞いてくる。
「ううん。そうじゃなくて・・・私にはリュージからの贈り物を受け取る資格は無いの」
「いや、今まで散々食ってたじゃん」
「それはおなかが空いていたからノーカン!でもこれ以上はもらえないよ」
「だからどうして?」
「だって私は・・・人種じゃ・・・ない、・・・から・・・」
私は下をむき目をきつく瞑り、震える声を自覚しながらもそう言葉を絞り出した。その私の告白を聞いたリュージは・・・
「は?」
アホみたいにポカンとしていた。
もう!どうして分かってくれないの!
「だ、だから!私は人間種や獣人種と違って鬼(魔獣)・・・つまり、魔物なの!だ、だから・・・」
「いや、ロムは鬼人種っていう人種の人間だろ?」
「リュージ逹に優しくされる資格が・・・え?」
きじんしゅ?にんげん?リュージは何を言っているの?
「き・・・じん・・・種?」
「ああ。鬼の人と書いて鬼人だ。ロムはその鬼人種だな」
「私が・・・人間・・・い、いや。わ、私はま、魔物の化け物だから・・・」
「うーん・・・じゃぁ、ちょっと手を出して」
私は私の中の何かが揺らいでいく乗り物酔いにも似た気持ち悪さに耐えながら震える手をリュージに伸ばす。
「ん。じゃちょっと我慢してな」
「いつっ・・・!!」
「ご主人様!?」
リュージがいきなり私の指を切った!
慌てて引いた指先からはじわぁっと血がにじみ出してきた。
「これがロムが魔物じゃない証拠だ。魔物はどんだけ切られても血は流れないんだろ?なら血が流れるロムは魔物じゃないってことだ」
「私は魔物じゃない・・・私は人間・・・」
旅の途中に襲われた馬車を守るためや新しい魔物を捕まえるために私もそこそこ戦闘をしているから魔物が血を流さないことは知っていた。でも今まで私が血を流しても疑問に思いもしなかった。
「そうだ。ロムは人間だ。だからもうそんな悲しいこと言うなよ。な?」
「はい・・・はい!ありがとうございます!!」
何かが決定的に変わった瞬間だった。気持ち悪かった気持ちも消えてなくなり今まで感じたことのない柔らかい思いが胸を埋めた。溢れる感情に行き場を求めるように私はヘアピンを強く抱き自然と零れ落ちる涙をそのままにリュージに・・・私を変えてくれた人にお礼を言う。
「あり、ありごどうございまう。いっじょう、一生大事にします」
「だからおおげさだってば」
泣き続ける私の頭に手を置きリュージはよしよしとなでる。
その大きな手の感触にまた涙が溢れてきたのは内緒ね。
さて、それからすぐに私は追ってきたサーカスの人たちに捕まってしまった。
リュージとは絶対また再開して、再開したときにはまたデートをする約束をした。
ヘアピンは取り上げられないように口の中に隠している。
これがあれば私はこれからがんばっていけそうだよ!
次の日の朝。私はボロボロの体でへたり込みながらも心は折れずに檻の外に立つ団長達を睨みつけていた。
「ロムの様子は?」
「ダメです。やはりあの冒険者に何かされたのでしょう」
「そうですか」
「・・・」
団長達が言っているのは急に反抗的になった私の態度の事だ。私は魔物じゃない。団長が言うことを聞かせられるのは魔物だけ。今までは疑問を持ったことがなかったけど私が人間だと信じている今ならば団長の言葉にも歯向かえる。人間になった今ほかの魔物と同じ。いや、今にして思えば他の魔物以下の扱いを受けている現状は耐え難かった。
「”お前は人間じゃない。魔物だ。”私の言うことを聞きなさい」
「・・・」
「・・・やっぱり効きませんか」
そう。もう私にその言葉は効かない!
「じゃあ昨日お前と一緒に居た冒険者共の話でもしましょうか」
「・・・!」
「お?やっぱり興味があるようで」
昨日の冒険者?まさかリュージ達に何かしたんじゃ!?
「彼らね、死んだよ」
「え!?」
リュージさん達が死んだ?一体どういうこと!?
「いや正確にはこれから死ぬのかな?暗殺ギルドに依頼を出したから今日中には必ず死ぬだろうね」
「そんな!なんで!・・・あっ」
うっかり叫んだ瞬間ぽろっと口のかに隠していたヘアピンが転がり落ちた。
「おや?これは・・・安物ですね」
「返せ!それは私のだ!」
「ふん。あの冒険者にでも貰ったのですかね」
団長はリュージに貰ったヘアピンを手の中で転がして弄んでいる。
「返せ!」
「さて、何故殺したのかだったな。それはお前のせいだ。ロム」
「え!?」
こいつは一体何を言っているんだ?
「お前は大事なうちの目玉商品なんだ。その商品をダメにしたんだ相当の報いは受けてもらわなきゃな」
「そんな理由で!」
「勿論それだけじゃないぞ奴らを殺せばまたいい具合にお前が壊れるかもしれないからな。要はあの冒険者どもはお前のせいで死んだわけだ、な!」
ぐしゃりと団長が片手で弄んでいたヘアピンを握り締める。元ヘアピンだったものを私の方へ投げ捨てた。
「あ、ああ・・・」
「これでこの世界にお前の事を人間だなんていうバカなやつはいなくなった訳だ」
団長の言葉はすでに私の耳には入っていなかった。
「あ、ああ・・・」
胸に渦巻く激情。怒りとも悲しみとも憎しみとも後悔とも違うあるいはそれらを全て混ぜたような感情の波が私の小さな体を駆け巡り肉体を食いちぎって外に出ようと暴れだす。
「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああ・・・あっ」
行き場を失い暴れていた感情が1つの所に集まりだす。
「・・・」
「壊れたか?」
唐突に黙った私に団長が声を掛けるが耳に入らない。
私の中に溢れる不の感情は私の一部。鬼が尾に足る由縁。角に吸収されていく。
コワセ、コロセ、ウバエ。
「ぐっ、がっ」
「おい!何をしている!やめろ!」
角が私の感情を吸い取ったと思ったら今度はその角から黒い感情が流れてくる。
それは抗いがたい甘い誘惑として私の心にするりと進入し・・・。
「あっ」
いとも簡単に意識を手放した。
「ロム!」
急速に浮上する意識。突然開ける視界。目に見える景色は瓦礫と火炎に包まれた崩壊した町。血と人が焼ける不快な匂い。
そこは間違いなく廃墟だった。
「ロム!目を覚ませ!」
黒い感情に塗りつぶされそうになる心に滑り込んでくるやさしい音。好きになった声。私はその声がした方へと首を向ける。
あっ・・・
そこに立っていたのは1人の男。黒い髪に黒い瞳を持った1人の冒険者。
よかった生きてたんだ・・・
今すぐ声をあげて抱きつきたい。生きててくれてありがとうと、また会えて嬉しいと。
だが、その願いは叶わない。私の体はもう私の意志では指1つ動かせない。一言すらも喋れない。
胸に湧き上がった柔らかな感情も無限に湧き上がる黒い感情にどんどん塗りつぶされていく。
デートの約束、守れそうにないや・・・リュージ、ごめんね・・・
再び消え去る意識の中で最後に思った贖罪でさえ言葉にならず伝わることは無い。
ただ、一粒の雫が少女の頬を伝い焼けた大地へと落ちていった。




