鬼人種
「ごめんなさい。私はこれを受け取る資格はありません」
ロムはそういうと手のひらごとヘアピンを俺の方へとつき返した。
「ん?なんだ?気に入らなかったのか?」
もともと女性へのプレゼントは身につけるものをあげたらいいって何かのラノベに書いてあったのをふと思い出したから衝動買いしただけなので特に思い入れは無いしな。
「ううん。そうじゃなくて・・・私にはリュージからの贈り物を受け取る資格は無いの」
「いや、今まで散々食ってたじゃん」
「それはおなかが空いていたからノーカン。でもこれ以上はもらえないよ」
「だからどうして?」
「だって私は・・・人種じゃ・・・ない、・・・から・・・」
ロムは下をむき目をきつく瞑り、肩を震わせながら搾り出すように告げる。その決死の告白を聞き俺は・・・
「は?」
アホみたいにポカンとしていた。
「だ、だから!私は人間種や獣人種と違って鬼・・・つまり、魔物なの!だ、だから・・・」
「いや、ロムは鬼人種っていう人種の人間だろ?」
「リュージ逹に優しくされる資格が・・・え?」
何かをまくし立てる様に叫んでいたロムは俺の言葉を聞いて硬直する。
「き・・・じん・・・種?」
「ああ。鬼の人と書いて鬼人だ。ロムはその鬼人種だな」
鑑定結果にそう書いてあったしな。
「私が・・・人間・・・い、いや。わ、私はま、魔物の化け物だから・・・」
「うーん・・・じゃぁ、ちょっと手を出して」
俺の言葉に少し怯えた様子をしながらもロムはそろそろとヘアピンが乗ったままの右手を差し出す。
「ん。じゃちょっと我慢してな」
「いつっ・・・!!」
「ご主人様!?」
俺は取り出した剣でロムの指先を浅く切る。
切られた指先からはじわぁっと血がにじみ出してきた。
「これがロムが魔物じゃない証拠だ。魔物はどんだけ切られても血は流れないんだろ?なら血が流れるロムは魔物じゃないってことだ」
「私は魔物じゃない・・・私は人間・・・」
ロムが伸ばしたまま凝視している指先を俺は両手で握り回復魔法を使う。
「そうだ。ロムは人間だ。だからもうそんな悲しいこと言うなよ。な?」
「はい・・・はい!ありがとうございます!!」
ロムは俺があげたヘアピンを胸に抱きながら大きな涙をポロポロとこぼしお礼を言う。
「あり、ありごどうございまう。いっじょう、一生大事にします」
「だからおおげさだってば」
泣き続けるロムの頭に手を置きよしよしとなでる。
しばらくそのままでいるとやっとロムは落ち着いてくれた。
「ふぇ・・・ありがと」
「もういいってば。んじゃ、次どこ行こっか?」
いつまでも引きずっていてもしょうがない。さくっと気持ちを切り替えて町を回ろうと一歩を踏み出し、
「いたぞ!そこの男止まれ!!」
盛大に出鼻を挫かれた。
「・・・なんか最近この展開多くない?」
ワンパターン化してきている気がする今日この頃。
「なにを訳を分からないことを!いいからそこの女をこっちへ渡せ!!」
「ああ?」
俺たちの前に現れたのは三人の見知らぬ男だった。
「どこの誰だか知らねえが俺の仲間に手を出そうってんなら切るぞ?」
「うっ・・・」
俺は鞘から剣を少しだけ引き、男達を睨む。男達はそれだけで怯み後ずさった。
・・・やけにあっさり怯む上によく見たら武器らしい武器も持ってないしもしかして人攫い系じゃない・・・?
「何をしているのです!あの鬼を見つけたのなら早く捕まえなさい!」
「い、いえ、しかし・・・」
「ん?」
男達への対応に困っていると後ろからもう1人男が歩いてきた。
そして俺はその男には心当たりがあった。
「・・・団長さん?」
「・・・ん?」
その男とはサーカスの団長だった。名前は確か・・・マクスウェル・・・だったっけ?
団長さんが出てきて、鬼がどうとかって言葉。つまり団長の仲間っぽいこの男達の女を渡せ発言は・・・
「・・・あぁ、ロムのお迎えですか。団長さん自らとはお疲れ様です」
「え?はい・・・え?」
俺は剣をしまい一転してにこやかに団長達に応じる。まだ完全には抜いていないけど難癖をつけられるのは嫌だからな。
「んじゃ、ロム。お迎えも来たし今日はこれでお別れだな」
「はい・・・」
ロムは体を縮こませ俯いている。別れるのが寂しいのかな?
「なに、これで一生の別れって訳でもないだろう?またどこかであったらデートしようぜ」
「でー・・・と?」
「ああそうだ今日みたいに男女で・・・いや、友達と町を遊び歩くことだな」
「ともだち・・・」
「ああそうだ。だから約束な」
「うん。約束」
最後にロムの頭をポンポンとなでた後団長さんのほうに引き渡した。
「・・・今日はロムの相手をしていただいたようでありがとうございました。それでお名前をお尋ねしてもよろしいでしょうか」
最初以降ずっと無言を貫いていた団長が俺に尋ねてくる。お礼でもくれるんだろうか?でも俺も楽しかったから気にしなくていいんだよね。
「なに、ただの冒険者ですよ。名乗るほどでもありません」
「・・・そうですか。ではこれで」
「おう。じゃーな、ロム」
「また合いましょう」
「うん。またいつか」
団長達に連れられ人混みに消えていくロム。ロムは完全に見えなくなるまでちらちらと何度も何度も振り返っていた。
ロムが見えなくなった後俺とセシルの間にはどことなくしんみりした空気が流れていた。
「・・・俺達も帰るか」
「はい、そうしましょう」
俺達は宿に戻り早めに体を休めることにした。ロム、また合えたらいいな。
翌日。フランとの約束の日。俺とセシルは町を出て少し歩いたところにある森の小道を歩いていた。
「ご主人様」
「ちっ、しゃーないか。・・・おい!さっきから俺らをつけているヤツ!隠れてないで姿を現せ!」
俺達がフランとの約束があるのに町の外に出ていたのはそう言う理由があった。今日こそ武器屋へ行こうかと思っていたら何者かに尾行されている気配がありその相手を釣り、存分に懲らしめるためにわざわざ町の外まで来たのだ。
「へっへっへー」
木々の隙間から続々と出てきたのはぼろい服を着てシミターをぶら下げた盗賊っぽい連中だった。
さっと鑑定をしたが全員レベルは10台。戦闘になったとしても問題ないだろう。
「で?何か用か?」
「おまえらに恨みは無いがこっちも仕事なんだ。死んでもらうが恨むなよ」
いや、殺されれば恨むだろう。
「で?誰に依頼されたんだ?」
殺人を依頼されるようなことをした覚えはないんだがな。
「お前が知る必要は無い。なぜならお前はここで死ぬからだ!野郎共かかれ!」
「「「おおおおおおおおおお!!」」」
俺と話していたリーダーっぽいヤツが指示を出し道を塞ぐように広がっていた20人ばかしの盗賊モドキが一斉に駆け出す。
それに一泊遅れるように森に隠れていた伏兵から矢が放たれた。
俺達の注意が雄たけびを上げて突っ込んでくる盗賊モドキに向く瞬間を狙ったいい攻撃だが索敵で存在を察知していた俺は特に動じず飛んできた矢を片手で掴みそのまま握りつぶした。
「んなっ!」
その行動を見て絶句する盗賊モドキ共。かわされるのならまだしもまったく動じず掴まれるとは思わなかったのだろ。
「セシルは森のヤツを頼む」
「はい、お任せください」
セシルは直立姿勢から急加速して今さっき矢が飛んでいた方へと突っ込んでいった。
「怯むな!やつは1人こっちは20人だ!囲んで叩けば負けは無い!全員突撃!」
「「「う、うおおおおおお」」」
「さて、セシルが帰ってくるまでにかたずけられるかな?」
自分と味方を鼓舞するように叫ぶ盗賊モドキに対し俺はあくまで自然体で待ち構えていた。
5分後。
そこには倒れる20人の男と返り血で真っ赤に染まった剣をぶら下げる1人の男。そしてその男に切り落とされた男達の四肢が散らばっていた。
「う、あがぁ」
「ご主人様ただいま戻りました」
「おかえりー」
ずるずると気絶した男を引きずってセシルが帰ってきた。
「さすがご主人様です。もう終わってしまってましたか」
「まぁこのぐらいならな」
ぶっちゃけオオカミの方が強かったな。
「ば、化け物だ・・・」
「なんださっきのは俺達は何をされたんだ・・・」
「・・・茶髪の獣人を連れた黒髪黒目の冒険者・・・それにさっきのスキル・・・あ、あにき!コイツ剣舞のリュ-ジですぜ!?」
「な、なんだと!?アストを襲ったオオカミどもを1人で殲滅し魔獣すら一撃で殺したというあの怪物か!?」
いやさすがにそこまではしていないが・・・
「まぁいい。お前らを雇ったやつを教えろ」
「ひぃっ。な、何でも喋りますから殺さないで・・・」
「殺さないからはやくしゃべれ」
「ひぃぃ、お、俺達を雇ったのは今町に居るサーカスの団長だ」
「なに?」
昨日もあったあの人か?一体どうなってるんだ?
「本当だろうな?」
「あ、あぁ勿論だ!こんな状況で嘘をつくほど間抜けじゃねぇよ!」
どうやら本当のことっぽいな。
「セシル、なんか嫌な予感がする急いで町へ戻るぞ!」
「はい、ご主人様!」
俺とセシルは倒れる盗賊モドキを無視し風にとなってルーセルへと戻る。
速攻で戻ってきた俺達を派手な爆発音と燃え盛る炎が待ち構えていた。
「お、おい。こりゃあどうなってるんだ?」
「わかりません・・・」
ルーセルの町が燃えていた・・・・・・。




