危険域
この話でひとまず第一章完って感じですね。
予想では10話ぐらいで終わるつもりだったんですがなかなか進まないものですね・・・
感想をくれてもいいんだよ?|ω・`)チラッ
南通りは人とオオカミの入り混じる混戦となっていた。あたり一面血のにおいが充満し怒号と悲鳴とうなり声が飛び交う。
そんな戦場で一際馬鹿でかい声で指示を出している人がいた。
「おら!気合入れろ野郎共!犬っころなんぞにこの町を渡すんじゃねぇぞ!」
「おおおおおお!!」
・・・訂正。やっぱり叫んでいるだけで指示は出していないかもしれない。
さてそんな馬鹿でかい声のギルドマスターだが、!一回につきオオカミ一体をどでかいハンマーの通常攻撃で叩き潰しさらに地面にでかでかとクレーターを作っている。半端じゃねー攻撃力だ。その剛毅な姿に触発され戦場の士気も高い、あの人がいればここを抜かれることはそう無いだろう。
「セシル、ここは任せて魔獣のところへ行くぞ!」
「はい、ご主人様!」
「ちょっ、お前ら待て!」
冒険者の静止する声を無視して足を止めずにオオカミの群れに突っ込む。
「ザコどもに用はねえ!」
バッサバッさとオオカミ達を切り捨てながら突き進む。打ちもらしたりやつの攻撃はセシルがサポートしてくれる。
何十かオオカミを切り捨て包囲網を突破した俺たちは南通りを駆け抜け南門付近でついにやつを見付けた。
「見付けたぜ!魔獣さんよぉ!」
魔獣は何体かのリーダーブラッディーウルフで自分の周りを固め悠々と歩いていた。
「ガウッ」
俺を見付けたのだろう魔獣は仲間に向けて短くほえた。すると魔獣の取り巻きのオオカミが傍を離れ順に消えていき魔獣だけが残りこちらを挑発的に見つめている。
「一対一でやろうってか?上等!セシルちょっと下がっててくれ」
「はい、お気をつけて」
セシルが1歩引き代わりに俺が前に出て魔獣と相対する。
「よう魔獣さんよ、今度は前みたいにはいかないぜ?」
魔獣との距離は約十メートル。俺はその距離を詰めるために魔獣へとダッシュする。
「アォーーン」
自分へと接近する俺を見た魔獣は高く遠吠えをあげる。途端魔獣の足元を残し、半径5メートルほどの地面が泥状に溶けた。
おそらくあの泥に足を突っ込むと底なし沼のようにもう抜け出すことが出来ないだろう。
俺は急に泥状になった地面に足を止め・・・ずにそのまま泥に突っ込む。
「固まれ!」
俺は泥状になった地面の上を普通に走り魔獣へと接近する。
さすがの魔獣もこれには驚いたようで目を見開いている・・・様な気がする。
実際俺がやっていることは泥の上を走っているわけではない。魔獣が土魔法で泥状にした地面を同じ土魔法で固めその上を走っているのだ。
これが俺の用意した秘策。昨日ステータスを確認した時に見付けた対魔獣用のとっておきの一撃だ!
「一閃!!!」
スラッシュよりもなお青く輝く剣で魔獣の首を落としにかかる。
が、さすが魔獣というべきかとっておきの魔法をかわされたショックから立ち直り、俺の剣の剣先がギリギリ当たらない距離まで飛び退る。
残念ながらそれじゃ足りないぜ魔獣さんよぉ!
飛び退った魔獣の胸へスキルによって拡張された不可視の刃がめり込む。
前回毛皮に弾かれたあのときとは違う確かな手ごたえ。
「・・・っけぇぇええええええ!」
ズバァァァァン!!!
剣が魔獣の反対側から抜ける。
俺の剣は今度こそ確実に魔獣を切り裂いていた。
レイモンド・・・ジン・・・お前らの仇ちゃんとうったからな・・・。
一閃の輝きが剣から消えるまでの一瞬の間に妙にゆっくり流れる時間の中レイモンドとジンに祈りを捧げる。
「ガルルァッ」
メキッバキッ
突如体の左側から衝撃が駆け抜ける。スキル後硬直で身動きの取れない体はなす術も無く宙を舞い壁に叩きつけられた。
ドゴッ・・・どさ
「ガッ、ハッ・・・な、何が・・・」
俺は壁に背を付け倒れこんだまま顔を上げそれを・・・こちらを睨みつけるデビルブラッディーウルフの姿を見た。
デビルブラッディーウルフは血を滴らせる右前足を真横に振り払った姿勢でこちらを見ている。俺が切った胸には一文字に赤い線が走っているがそれだけだ。
「はっ・・・ははっ」
その光景には見覚えがある。最初にウサギを狩ったときやフランを助けたときに見た。なんてことは無いdダメージを受けた時に残る傷跡みたいなものだ。
つまり一閃の一撃では体力を削りきれなかったということだ。というか魔獣を見る限りまだまだ余力がありそうだし最大体力の半分も削れていないかもしれない。
こうなる可能性もちょっと考えれば思いついただろうが、ここまでオオカミは全てスラッシュ一発で倒せるようになっていたし一閃で倒せない敵とは出会ったことがなかったから無意識に一閃なら一撃で倒せると思いこんでしまっていた。
「はははっ・・・マジかよ・・・」
今回は不意打ちでもなんでもない。完璧なタイミングで完璧な攻撃を当てた。勝利を確信した。だが負けた。完璧なまでに俺が敗北したんだ。
「くっそ・・・いけたと思ったのになぁ」
俺が声を上げるたびに貫かれ大穴が開いた腹から血がゴポッっと零れる。俺の下にはすでに大きな血だまりができていた。
左腕は魔獣の攻撃をモロに喰らったのか肘の辺りで曲がりあらぬ方向を向いており力も入らない。
俺は唯一動く右手で腹の傷を握り締めて塞ぎ一緒に覚えていた回復魔法で治療をする。
「ぐっ・・・がっ」
だが回復魔法Lv1じゃ回復量も高が知れている。襲い来る激痛に反して溢れる血は殆ど減っていない。
「ガルルルルル」
その間にも魔獣は目に強い敵意を宿し死に掛けている俺の元へと近づいてくる。
圧倒的な死の存在に今度こそ死を覚悟したが、
「ご主人様にそれ以上近づかないでください!!」
ガッ
俺に近づく魔獣の背後からセシルがレイピアを突き刺す。が、その刃は魔獣の毛皮を貫通できずに弾かれる。
「ガゥ」
ダメージが無くとも自分に攻撃をしたセシルのほうへ魔獣が振り向く。
一閃でも倒せなかったんだ。セシルにあいつが倒せるとはとても思えない。
「セシル・・・逃げろ・・・」
「嫌です!もうあいつに私の大切な人を1人も殺させません!」
瀕死でかすれた声での俺の命令をセシルが始めて拒否した。昨日はレイモンド達の事をもう気にしていないと言っていたがやはり思うところはあったのだろうその声は少し湿っていた。
「さぁ来なさい魔獣!私が相手です!」
セシルが戦っても魔獣に勝てないどころか確実に殺されるであろう事はセシルが一番良く分かっているだろう。だがそれでも立ち向かっているのだ。俺のために。あの圧倒的な死の存在に。
だというのに俺は何をしているのだろう?
こんなところに転がって、セシルが俺のために戦うのをただ見ていることしかできないのか?
・・・いやそれは違う、体がバラバラになりそうなほどの痛みはあるが俺はまだ生きている。危険域に入っていようが俺のHPはまだゼロにはなっていない。俺にはまだ戦える力が残っている!
セシルも言っていたあいつにこれ以上大切な人を殺させやしないと俺も同じ気持ちだ。セシルを殺させやしない!
だから・・・!
「・・・まだ・・・立ち上がれる・・・」
ふらつく足を無理やり踏ん張り立ち上がる。
腹を押さえていた手を離し代わりに剣を握った。
「・・・まだ・・・がんばれる・・・」
魔獣の後ろでこちらを見て目を見開いているセシルが見える。
俺は魔獣へ向けさらに一歩を踏み出す。これで一閃なら剣が届く範囲だ。
「・・・まだ・・・戦える!!!」
自分を鼓舞するようなその叫びに魔獣も気づき首をめぐらせこちらを見た。
一閃なら届く距離だが一閃ではやつにとどめはさせない。おそらくこれが俺の最後の攻撃となるだろう。だからこの一撃で全てを決めなくてはならない。ならばどうするか?答えは簡単だ。
「一閃!!!」
通常のスラッシュより青く輝く一閃。その一閃よりさらに蒼く輝いた剣が不可避の速度で魔獣の体に振り下ろされる。
「ガアアアアァァァァ」
ガッ!ドォガアアアアアアァァン
振り下ろされた剣は魔獣に触れた瞬間多少の抵抗があったがそのまま通過し地面までも大きく切り裂く。
スラッシュ&スラッシュ&スラッシュ。スラッシュの三回重ね。スキルの三回同時使用。
勝算はあった。さっき北通りでオオカミを殲滅したときに俺は硬直キャンセルを使いながら威圧のスキルを発動させた。あの時は特に気にもしていなかったがあれもスキルの三回同時使用だ。
と言っても絶対にうまくいく確信は無くぶっつけ本番だった訳だが。
「ガアアァァァ・・・」
一閃で縦に両断された魔獣はそのまま左右に別れるように倒れていき・・・地面に付く寸前で宙に溶けて消える。
「ぐふっ」
「ご主人様!!」
やつが消え去るのを見届けた俺は一気に全身から力が抜けその場に崩れ落ちる。
やつに貫かれた腹からドクドクと血が溢れ続ける。
「ご主人様!いや!目を開けてください!ご主人様!」
ちょっ、セシル!そんなに揺すったら、あぁ意識が・・・
「おい!お前ら生きてるか!」
俺の意識はそんな馬鹿でかい声を最後に闇の中に沈んでいった・・・




