緊急討伐依頼
「ノーラさん、ただいま戻りました」
「あら、リュージさんお帰りなさ・・・どうしたんですかその格好?」
?
ノーラさんが何を言っているのか分からず自分の姿を見下ろす。
するとそこにはオオカミ達に散々噛み付かれた結果ぼろぞうきんの様になった自分の姿があった。
ポーションのおかげで痛みが完全に消えていたのですっかり忘れていた。
「ああ、これは採取の途中にオオカミ達に襲われたんですよ」
俺は若干嫌味っぽくそう告げる。
「それは、森の奥に入ったからですか?」
ノーラさんの反応は俺の予想とは違い、かなり真剣な瞳で俺を見据えて問いかけてくる。
俺はそのガチな様子に戸惑いつつも答えた。
「い、いえオオカミに襲われている商人と偶然鉢合わせまして、そのまま戦闘になったんです」
「その話もっと詳しく教えてください!」
ノーラさんの余りの食いつきっぷりに若干引きつつ、オオカミ達との戦闘と、フランから聞いたことを話す。俺のスキルについては言及しなかったので戦闘についてはさらっと流したが、そんなことも気にならないほどにノーラさんは何かを真剣に考えているようだった。
「すみませんが、リュージさんのギルドカードをお借りしてもいいですか?」
ノーラさんにそう言われギルドカードを渡すとそのまま奥に引っ込んでしまい、なかなか戻ってこない。
まだ依頼の完了報告もしてないし、報酬も受け取っていないので帰るわけにもいかずカウンターの前でぼけーとしてるとやっとノーラさんが戻ってきた。
「おまたせしてすみません」
「いえ、それは構わないんですが・・・何かあったんですか?」
さすがの俺もここまであからさまに変な行動をとられると気になってしょうがない。
「ええまあ・・・それは明日になれば分かると思います」
はぐらかされてしまった。が別にどうしても今知らなければならないわけでもないので、明日分かるというのならその時でもいいだろう。
「それじゃ、今回の依頼の報告をしますね」
リュックにぎっしり詰まった薬草を全て納品し代わりに数枚の銀貨をもらった。
こんな簡単な依頼でこんなに報酬がもらえるのかと驚いていたらさっきのオオカミの話の情報料がかなり上乗せされていたらしい。さっきの話にどんな価値があったのかは聞いてもまたはぐらかされてしまったので、さっきも言っていた明日にまた聞いてみることにしよう。
そのあと、アイテムボックスに入ってたオオカミのドロップアイテムも全て売りもう一枚銀貨をもらったあとギルドを出た。
今日だけで財布にかなりゆとりができたので午後は町を見て回った。
食べ歩きをしながら出店を冷やかしたり、道行く住人の観察をしているだけでも結構楽しくあっというまに日が沈んでしまったのでその日は宿に帰って休むことにした。
翌朝ギルドはものすごい騒ぎになっていた。
今までは朝はギルドへ行っても人が少なく静かなイメージがあったが、今日は大勢の人がひしめき、叫び声が飛び、人が駆けずり回っていた。
俺はギルドのそんな阿鼻叫喚な様子に中に入ることもできず入り口の外から中の様子をうかがうことしかできなかった。
俺と同じように中に入れず遠巻きに眺めている冒険者も何人かいたのでその内の1人に一体何が起こっているのかと聞いた。
彼が言うには昨日の夜の段階でこの町にいるCランク以上の冒険者全員に召集命令がかけられたらしい。
だが肝心の召集内容が通知されていなかったためいろいろな憶測が飛び交い、しっちゃかめっちゃかな様子になっているそうだ。
彼は王都の方から盗賊団でも向かってくるんじゃないかと心配していたが、俺には1つ心当たりがあった。というかおそらくあのオオカミの事で間違いないだろう。
そのまま冒険者と話をしていると中から馬鹿でかい声が響いてきた。
「野郎ども!静まりやがれ!」
途端、水を打ったように静まりかえるギルド。
何が起こったのか分からず隣で硬直している冒険者に聞くと、今叫び声を上げていたのはこのギルドのマスターらしい。
んでもってそのギルドマスターがもともと冒険者で、冒険者ならその名を知らない人はいないってぐらい有名な人だったらしい。なんでも素手でドラゴンを殴り殺したとかなんとか・・・
そんなわけでギルドマスターの武勇伝を知っている冒険者は彼に頭が上がらないらしい。
人垣に阻まれて姿は見えないが、辺りが静まり返ったからかその声は不思議とよく通った。
「今日おまえらに集まってもらったのは他でもない。昨日町の南の森でブラッディーウルフが大量発生していることが確認された」
ギルドマスターがそう告げると辺りが一斉にざわつき始めた。
魔物の大量発生は定期的に起こることらしい。だが普通はウサギなどの比較的弱い魔物ばかりで、オオカミのように積極的に人を襲う魔物が大量発生することは珍しいらしい。
「すでに昼間に商人が襲われたという報告も入っている」
フランのことだろう。
「これらの事を踏まえここにブラッディーウルフの緊急討伐依頼を発令する。
Cランク以下の冒険者はこの依頼を受けるときに最低4人以上のパーティを組んでもらうことになるのでそのつもりでいてくれ。
以上、健闘を祈る」
言うだけ言うとギルドマスターはギルドの奥へと引っ込んでいった。
しばらくざわついていた冒険者達も各々依頼を受けるために受け付けに並んだりパーティーメンバーを探したりし始めていた。
一方で俺はただぼんやりと騒ぎが落ち着くのを待っていた。
俺は今回のオオカミ討伐依頼に参加するつもりが無い。Dランクの俺が依頼を受けるためにはパーティーを組むしかなく、パーティを組んで狩りをするとなると、どうしても俺の硬直キャンセルを見る機会があるだろう。
バレたからってどうというわけでもないが、やはり目立たないに越した事は無いだろう。
というわけで俺はオオカミ討伐依頼を受けるための行列が無くなるまで待っていた。
途中何組かの冒険者にパーティに誘われたが、戦力不足を理由に断った。俺の見た目が卸したての皮の鎧を来た新米冒険者だからだろう。みんな納得して去っていった。
「リュージさん!パーティメンバーは見つかりましたか?」
受付に近づくとノーラさんが声をかけてきた。
「俺は今回の依頼は受けないつもりです」
「え?」
ノーラさんは俺が何を言っているか分からないとでも言いたそうな顔で見てきたが、そんな顔をされる理由の方が分からない。
「リュージさんは今回の依頼を受けなければなりませんよ?」
「え?」
今度は俺の方が何を言っているか分からないと言う顔をした。
俺のその顔を見てノーラさんは何が食い違っているのか理解したのか1つ頷くと説明を始めた。
「えっとですね・・・まず冒険者は、ほとんどの町や国への通行税が基本的に免除されています。それはリュージさんもご存知ですね?」
「はい」
国同士の移動にかかる税まで免除されているのは知らなかったが、まあ今は関係ないだろう。
「その代わりに冒険者にはある義務が課せられています。今回のように魔物の大量発生やその他の要因で現在いる町や国に危機が発生した場合、率先してその排除に努めなければならないというものです。」
「なるほど」
つまり、ただで町に入れる代わりに何かあった場合は真っ先に戦いに行けということか。
「もちろん例外もあります。訪れた危機に対して自分の能力が明らかに劣っていると判断したときや、怪我や病気などで戦えない場合は参加しないこともできますが、これはかなり不名誉なこととされています」
それはそうだろう。町のために戦うという義務を放棄し、通行税免除という権利だけを使う。これではただの税金泥棒だ。
俺をパーティに誘ってきた冒険者達が実力不足を理由に断ったとき、あっさり引き上げたのもこれを知っていて俺に気を使ってくれたのかもしれない。
「リュージさんの場合、リーダーブラッディーウルフとブラッディーウルフ23頭の群れを単騎で撃破し、襲われていた商人を助け出し、たいした怪我もせず帰還した、という実績があります。ですから何か別に理由が無い限り今回の依頼を受けてもらうことになりますね」
改めて羅列されると確かに冒険者になって3日目の新米冒険者の実績では無いな。
「分かりました。オオカミ討伐の依頼受けましょう」
硬直キャンセルはなるべく使わないようにするしかないだろう。問題があるとすれば
「今からでパーティメンバーが集まりますかね?」
もうほとんどの冒険者はギルドから去ってしまっている。今から探すのは大変だろう。
「それは大丈夫です。リュージさん以外にもまだパーティを組んでいない冒険者の方は何名かいらっしゃいますので、そちらの方達と組んでもらうことになるかと思います」
「ではそれでお願いします」
ノーラさんにギルドカードを渡して依頼を受けたあと売店で使った分のポーションを買い足し、しばらく依頼を見たりして時間をつぶしているとギルドの職員に声をかけられた。
「リュージカグラザカさんですね?パーティメンバーが決定しました」
「はい分かりました」
職員の話では他のパーティメンバーは奥のテーブルで待っているらしい。さっそくそこへ向かうと椅子に座る一人の男とその後ろに立つ二人の獣人の姿があった。
おそらくあの人達だろうとあたりをつけ近づく。
椅子に座っていた男が俺が近づいてきた気配に気づき顔を上げ
「・・・ちっ」
いきなり舌打ちしてきやがった!ホントに大丈夫なのかこのパーティー・・・




