フラン
「あ、あの~大丈夫ですか?」
群がるオオカミを全滅させ疲労で倒れる俺の元へ壊れた馬車から降りた女性が近づいてきた。
「俺の方はなんとか・・・そちらは怪我とかは?」
鑑定で調べたところフランというらしい女性に手を借りて上半身を起こし問いかける。
「え?あっはい。私は大丈夫です」
ふむ、さっと見た限り特に怪我などもしていないようだ。
「よっこらせっと」
年寄りくさいセリフを吐いて立ち上がる。HPポーションのおかげで体の傷などはほぼ完治し痛みも残ってない。
俺はさっきまでオオカミと戦っていた辺りを見渡す。オオカミはウサギと違い必ず何かしらのアイテムをドロップするようで、毛皮や牙や爪が20近く散乱していた。
さて、どうやって持ち帰るか。リュックは薬草で一杯になってるし抱えていくには量が多すぎる。装備を買ったせいで金欠気味なので全部持ち帰りたいのだが・・・
と考えていると頭の中にあのスキルの名前が浮かぶ。
こういときにこそ必要なスキルだしなと思いつつスキル名を呟く。
「アイテムボックス」
俺の手元に小さな木箱が出現する。中を覗くと真っ暗な空間が続いていて底が見えなかった。
「あっあの!すみません!」
とりあえず片っ端から拾って放り込んでいこうと思っていると。
隣から突然大声をかけられ、びっくりして振り向いた。
そこには、涙目の上目づかいで俺の顔色を伺うフランの姿があった。
遠目からか下から見上げるかしかなかったから気づかなかったが彼女けっこう小柄でもしかしたら俺と同い年か年下かもしれない。
そんな子に涙目の上目づかいで見られたらついこの間まで普通の高校生だった俺じゃどうすることもできずおろおろするしかない。
「えっ!ちょっと君大丈夫?やっぱりどこか怪我してたんじゃ・・・」
「いっいえ、大丈夫です。そうじゃなくって、えっと助けていただいてありがとうございました」
ぺこっと頭を下げるフラン。
俺はまだ若干動揺していてお、おうとだけ答えて彼女に頭を上げさせる。
顔を上げたフランはやはり涙目でかすかに震えており、何かを恐れているようだった。
「それでその、報酬金のことなのですが・・・」
「あー」
フランは覚悟を決めた瞳で俺を見据える。
それで分かったが彼女は俺が今回の報酬にいくら請求するのかと怖がっていたのだろう。
「命を助けていただいた上でこのような頼みごとをする権利が無いことは分かっています。ですがどうか支払いを待ってもらえませんか・・・?」
「いや、ちょっとまって俺は・・・」
確かに金欠気味ではあるが今日明日で所持金が尽きるわけではないし、金貨も取っておいてある。今回の仕事の報酬とオオカミのドロップアイテムも売ればそこそこの値段にはなるだろうから目の前で震えている女性からムリに報酬をもらう必要は無い。
そもそも俺が彼女を助けたのは助けたいと思ったからで報酬を狙ったわけではないのだが、そこらへんを伝えようとしたのにフランは俺の言葉を最後まで聞かずにさらに取り乱した。
「わっ私はこう見えても商人の端くれです。借りた物は必ずお返しします。ですからどうか、どうか少しの間待ってくだい!」
「いや、だからちょっと落ち着けって!」
フランは顔色をどんどん青くしていき、さらに取り乱していく。
俺は見かねて震える彼女の肩を掴んだ。
「ひぃっすみませんすみません、なんでもしますから奴隷商に売るのだけはやめてくださいぃ~」
ん?今何でもするって言ったよね?
とかふざけている場合じゃなく、ついにしくしくと泣き出したフランに声をかける。
「俺は、君に報酬金を請求するつもりはないから。落ち着いて」
「え?」
俺の言葉を聞いたフランはうつむいていた顔を上げ俺の顔を見る。安心させようと少し笑いかけると、何を勘違いしたのか青かった顔を一気に真っ赤にして、ずざざっと俺から距離をとり自分の肩を抱きしめる。
突然の挙動にポカンとしているとフランは若干裏返った声で叫びを上げる。
「おっお金を請求するつもりはないってそれってつまり私の体を!!たっ確かになんでもとは言いましたが!そっそういうのはやっぱりお互いの気持ちがあってこそで!でも奴隷商に売られるよりは・・・でも!・・・」
「あー」
いらん誤解をして真っ赤な顔でわたわたしているフラン。
正直相手をするのが面倒くさくなってきたがこのまま放って置くわけにもいかないだろう。
「いいから落ち着けって、俺は君に手を出すつもりも無いから」
両手を肩の高さに掲げ危害を加えるつもりが無いことをアピールする。
「え?・・・それじゃどうして?」
「あー」
どうしてというのは、どうして助けてくれたのかということだろう。
「ええっと、それは成り行きという気づいたら体が動いていたというかなんというか・・・」
正直あのときの自分が何を考えていたのか、自分でもよく分からない。ただ目の前のこの女性を助けたいという気持ちだけだった。
俺は照れくさい気持ちをごまかすためにちょっと頬を掻きつつ答える。
フランはそんな俺を見てしばらくきょとんとしていたが、そのうち俺が本気で言っていると気づいたのかくすくすと楽しそうに笑い出した。
俺もフランの様子が落ち着いたことへの安堵と照れくささをごまかすために一緒に笑う。
二人しかいなくなった道にしばらく笑い声が響いていた。
「さて、フランはどうしてあんなにたくさんのオオカミに追いかけられていたんだ?」
二人で笑い合い気持ちも落ち着いてきたあたりで、オオカミのドロップ品を全てアイテムボックスに放り込み木に引っ掛けたままだったリュックを回収しフランの馬車に腰掛け話を聞いていた。
ちなみにフランの呼び方についてはフラン本人の希望だ。命の恩人にさん付けで呼ばれるのはどうもいやらしい。かわりに俺もフランにはリュージと呼び捨てで呼ぶように頼んでおいた。
フランの馬車は、壊れた場所は馬と馬車をつなぐ金具だけで直すのはそんなに難しくないようだが、さんざんオオカミに体当たりされたのでどこにどんなガタがきているか分からないと不安そうに呟いていた。
それと逃げた馬だが、フランが懐から出した笛を吹くとどこからともなく駆けつけた。どうやらたいした怪我はしていないようでフランがその背をなでるとうれしそうに嘶いていた。
ちなみにどうしてすぐに呼び戻さなかったのかと聞くと俺に借金のかたに差し押さえられるのを恐れたからだそうだ。
「えっと、それがよく分からないんです。」
俺の対面に座るフランからそんな答えが返ってくる。
「いつもどおり道を走っていたら突然遠吠えが聞こえてきて、嫌な予感がして速度を上げたらいつの間にか周りを囲まれていたんです」
それは妙な話だな。事前にノーラさんから聞いていた情報と食い違う。
「オオカミは昼間は襲ってこないんじゃなかったのか?」
「いつもはそうなんですが・・・。今日はたまたま運が悪かったんだと思います」
そういうものなのか?だとしたらギルドの情報も案外信用できないんだな。
フランもアストの町へ向かうということで、フランとフランの馬と一緒に町へと向かう。
壊れた馬車をどうやって運ぶかが問題だったが、ダメ元でアイテムボックスを馬車に押し付けると吸い込まれるように収納された。
馬車なんて大きなものまで収納できるのかと驚いたが。俺以上にフランの興奮のしようがすごくて、「あんなに強い上にこんなに便利なスキルまで持っているなんてずるい」と責め立てられた。
実際俺のは、ずるみたいなものなので言い返せない。俺は適当にあしらって町へと足を進めた。
さすがのアイテムボックスも馬車を収納すると、もう草1本も入る余地も無く、薬草はこのままリュックに詰めて背負っていくことにする。
道の途中でフランの話をいろいろと聞いた。フランは町から町へと移動する行商人で、今も近くの村からアストの町へ野菜を運んでいる途中だったらしい。
が、オオカミに追われている途中に少しでも軽くするために積荷はほとんど捨ててしまったらしい。
ギルドマスターに怒られる。と言ってフランはまた青い顔で震えていた。
かわいそうだとは思うが、俺にはどうしようもできないので。命があっただけ良かったと慰めておいた。
そんな感じでフランと雑談しつつアストの町まで戻ってきた。俺はギルドカードを、フランはギルドカードと銀貨を門番に渡し町に入りとりあえず商人ギルドへ向かう。
「ここまでで大丈夫です。リュージさん本当にありがとうございました」
またぺこっと勢いよく頭を下げるフラン。俺はそんなフランの様子に苦笑いしつつ頭を上げさせ、アイテムボックスから馬車を取り出した。
その光景に周りの通行人が若干どよめいていたが気にせずフランにフランに別れの挨拶をする。
「それじゃ、またなフラン」
「はい。またいつか」
小さく手を振り、フランに背を向けて歩き出す。
とりあえず依頼達成の報告と間違っていた情報の愚痴をノーラさんに言うためにギルドへと向かった。




