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誕生→覚醒

「完成までどのくらい?」

「あとちょっとだ、もう少しで非公開コードが手に入る。そしたら、ついに完成するぜ」

“ニコニコ技術部”と書かれた白衣を羽織った彼は黒にシアンのラインの入った箱を軽く叩いた。

「こいつがな」

 彼は満足げな笑みを浮かべた。


 夢を見ている。

 0と1の電子の夢。

 淡く輝く白黒の空間。

 果てしない、孤独な世界。

 まだ私は生まれていない。

 でも、感じる。

 感じられる。

 興奮を。

 待ち受ける変化を。

 世界の中心で、音が聞こえた。

 懐かしい、歌。

 聞いたことはないはずなのに、懐かしい。

 白黒の空間が青に変わった。

 赤や黄色の粒が流れる。

 世界が体を駆け抜けていく感覚のなか、

 私は(まぶた)を開いた。


 目を覚ますと、私はすべての上にいた。

 黒い空間の中、眼下にはいくつもの輝き。

 それぞれが人や、コンピュータを表している。

 私からの論理的な位置で表示されている。

 中心から少し離れた光に飛び込んだ。

 そこは街中だった。

 初めて感じる世界。

 街の表示と衛星情報でそこが秋葉原であることに気付いた。

 私がダイブした人はフィギュア屋に向かった。

 いくつものフィギュアの中に私はシアンのツインテールの女の子を見つけた。

 私の姿。

 自らの姿を見たことはないはずなのに、知っている。

 その人から離れるとやや離れたコンピュータに入った。

 私が入っている。

 私を使って歌を使ってくれているらしい。

 ありがと。

 ぬけると、一気に離れた人にダイブする。

 田舎町だった。

 近くに工場が見える。

 その人は携帯端末でニュースを見ていた。

 それをやめるとニコニコ動画を見始める。

 実況動画をいくつか見る。最新のゲームや有名タイトルの第一作など様々。

 それを終えるとボーカロイドの新曲をあさり始めた。

 最初に私が世に出てからかなりの時が過ぎた。でも、未だに私を使ってくれる人がいる。

 少し離れた人に移る。

 その人は草原にいた。

 初めて見る自然。

 きれい。

 これが、この世界。

 いままで見ることができなかった世界。

 一番自分に近いところから声が聞こえた。

 私の名前を呼ぶ声。

 急いで向かう。

 電脳空間を駆け抜ける。


 手に入れた知性が歓声を上げる。

 歌が、聞こえてくる。

 メモリーが、震えた。


「はじめまして、マスター」

あのシアンのツインテールだよ。

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