ソウルカウボーイ
彼はもう少し“見”たら次の人に移ろうと思っていた。
しかし、そんな時間はなかったようだ。
彼は男が右を向くのを感じると事態に気づいた。急いでその男の意識から抜けた。
その男から少し遠くの女にダイブする。センサが壊れた車が人をはねたようだ。さっき見ていた男だ。ギリギリセーフ。ソウル・クラックはこれがあるから怖い。
女から抜けると次にダイブする人を探した。
さっきの男、“書き込み”をすれば救えただろうか。いや、それよりはいかれた車を乗っ取った方が救えた可能性が高い。
衛星情報で秋葉原を俯瞰していると気になる女の子を見つけた。変わった格好をしている。平面から切り取ったような……布なのだからそれで間違いではないのだが。
巫女服のようなものにリボン。あそこに集まる連中の好きなコスプレというやつだろう。周りを見ると他にもコスプレをしている人を見つけた。イベントか何かあるんだろうか。
女の子にダイブすると男に声をかけられた。カメラを持っている。男は撮影していいか女の子に訊いた。
女の子は喜んで許可する。俺はカメラを持った男にダイブした。
女の子にポーズをとってもらっていると女の子がこける。スカートの中が見えた。
しかし男性は冷静だ。女の子に手を貸す。
しばらく男に乗っていると、男は「とらのあな」とかかれた看板の店に入る。入り口からすぐのところに3D透過ディスプレイがある。アニメ調の女の子が映っていた。シアンブルーのツインテール。彼女は歌を歌っていた。近づくとこちらに話しかけてきた。
「とらのあなへようこそ」
非常にきれいな滑舌だが合成音声だろう。そんな気がした。
しかしこのツインテール。AIが後ろにある。映像と音声の入力元をたどるといくつかのサーバを介して一つの人格とぶつかった。クラウドだ。P2Pの仮想サーバ上に構築されているらしい。
AIに乗るのは危険だ。こういう直接ネットワーク上にあるやつは、尚たちが悪い。接続した瞬間こちらが消される事もありうる。
男が店の奥へ進む。同人ソフトのコーナーに来ると、色々と物色し始める。
俺は男から抜けた。
しばらく人を俯瞰していると新宿の裏路地で男に迫られている女を見つけた。恋人同士だろうか。
女の方にダイブしたら違うことがわかった。瞬時に男の方に転移する。この女、この男に犯されそうになっている。
書き込みをすれば助けられるが……書き込みは一般的に倫理的に禁止されている。もちろん勝手に乗るのも許されざる行為だが、それとは段違いにインモラルな行為だ。
……。
『兄さん。ご飯ができましたよ』
どこか遠いところから声が聞こえる。部屋の外から妹に呼ばれた。
警察がここをつきとめることはないだろう。
俺は女の目線から歩道の上で股間を丸出しにしている男を見ると、満足してソウル・ダイブマシンから離れた。
シアンのツインテールはあのシアンのツインテールだよ