前編
二人が最初に出会ってから何ヶ月か経ってます。
闇が深まる。
あるマンションの屋上に闇色のマントを羽織った金色の髪と瞳の少年がまるで誰かを待つかのように立っている。
「おーい、もう少ししたら来るぜ。」
どこからか少年と同じ色を持つ小鳥が飛んできて少年の肩に留まった。
◆◆◆
この少年は死神である。
死神―それは生前罪を犯した者がなる冥界の職業だ。彼らは罪の証である黒を常に纏っている。
死神には必ず自身の一部から使い魔を生み出す。
使い魔の姿は多種多様で決まっていない。彼らの役目は全ての生き物の運命が記されているアカシックレコードに接続し、相棒がその日刈り取る命についてを報告することである。
死神は使い魔の示す命を刈り取るのが仕事なのだ。
そして、それはこの若い死神も例に漏れない。
ただ、この死神の少年は他の死神たちとは違う点がある。それは、彼が罪の証である『黒』色を持っていない点だ。
彼だけが何故か死神として生を受けたときから『金』色をしているのだ。
罪の証を持たない異端の死神―クルス。それが、少年に与えられた名だった。
◆◆◆
クルスはフードをかぶり、もうすぐ開くであろう屋上とマンションの部屋をつなぐ扉を見つめる。
「来たか。」
クルスが小さく呟くと同時に扉が開き、中から女性が出てきた。
以前までは美人だったのであろう面影があるが、顔はやつれ、背中まで届いた髪はつやを失っているため本来の年齢より老けて見える。
「あれで、25歳って詐欺だよなぁ。かわいそうに、仕事でさんざんこき使われて利用されて壊れたら捨てられて・・・いやぁ、ほんと、今の世の中ひどいもんだよなぁ。」
「上杉三奈、仕事で体を壊し、リストラをされ自殺する。よくある話だ。」
クルスはクーの哀れむ言葉をばっさりと切る。
クルス達の姿は三奈には見えていないため、クーが目の前で飛んでいようが、肩に乗って髪をひっぱていようが気がつかない。ただ、虚ろな目で靴を脱ぐと柵を乗り越え、柵の外に出る。
「さ、仕事だぜ、クルス。」
クルスはもう一度扉に顔を向けたが、すぐに頭を振ると手から身の丈ほどある鎌を出した。
女性の体がゆっくりと傾いていく。
その時、
「待って!死なないで。」




