後編
大きな木の上に一人の少年と小鳥が月を見ていた。少年の金色の髪と瞳は月明かりに反射され美しく輝いている。
「なぜ、お前が泣いている。」
何の感情もこもっていない声で少年は自信の相棒に尋ねる。
「泣いてんのはオレじゃねぇよ。お前なんだよ。」
相棒の言葉に少年は眉をひそめる。
「オレはお前の分身だからな。お前の本当の気持ちが分かるんだよ。」
少年はそれに答えることなく天を仰ぎ見る。
その姿は寂しげで、見ているものに悲しみを覚えさせるようだ。
金色の死神の相棒はため息をついた。
「昔は違ったのにな・・・」
少年が死神として生まれたばかりの頃、彼はよく泣いたり笑ったりしていた。しかし、今ではまるで感情を忘れ去ってしまったかのように無表情だ。
どうか・・・・
金色の死神の相棒は願う。本当は優しい少年が救ってくれる人が現れることを。
金色の少年と小鳥は無言のまま、ただ月を見続けた。
◆◆◆
祖父が死んで80年近く経った。
僕も成人し、結婚し、子供もできた。何度か、葬式も出た。死神も何人か見たことがあったが、祖父の時のようにあの金色の死神を見ることは無かった。
その死神達は顔かたちの違いはあるけれど皆黒い髪に黒い瞳をしており、鎌を振り下ろす際、何の躊躇もとまどいもなかった。ただ、淡々と自分の仕事をこなしている感じがした。
僕が死んだらあの金色の死神に迎えに来て欲しいな。そう、ずっと思っていた。
そして、今、僕のも枕元にはあの時の死神が立っている。
あの時と変わらない姿で。身の丈ほどありそうな大きな鎌を持ち、その肩には金色の小鳥が留まっている。
「やぁ、やっと来てくれたね。」
僕の言葉に少年は目を見開いた。
この少年がそんな表情もできるんだなぁと思うとなんだか笑ってしまう。
「ねぇ、君は他の死神達とは違うよね。僕はね、君の方がいいな。君の手で逝けた方がなんだか幸せになる気がするんだよね。」
金色の死神は何も答えない。だが、その表情が雄弁と彼の心を語っていた。
「君みたいな死神がもっと多くいればいいのに。」
鎌が振り下ろされる瞬間、そう小さな声で呟くと僕の意識は消えた。
しばらくして目を開けるとそこには懐かしい祖父の姿があった。
「よう、来たな。」
祖父は笑いながら僕の頭を撫でてくれた。
それが、どうしようもなく嬉しくて涙が溢れ出た。
幸せそうな死に顔を見て少年はいつもより心がどこか軽い気がしていた。
しかし、最後に彼が言っていた意味はどういう事なのだろうか。
だが、少年の疑問に答えることができる人物はすでに『あちら側』に渡ってしまっている。
「ま、いつかわかるっしょ。」
少年の相棒はそう笑う。
二人は今日も月を見上げる。
『僕』享年90歳




