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その役職(な)は死神  作者: 亜里沙
第1話 動き出す運命
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後編

 一連の出来事に無表情のクルスの顔には珍しく驚きが浮かんでいる。

「おいおい、どういう事だ?アカシックレコードにこんなの予定にないぜ。」

 アカシックレコードとは、過去・現在・未来のありとあらゆる時間に存在する魂の活動記録が記載されたもののことである。神ですらそれに逆らうことができない、命の理。

 それがどのような形をしているのか知っているのはそれを管理する役を担う冥府の神のみ。

 死神には一人に1体、自身の分身を持つ。その分身達はアカシックレコードとつながっており、アカシックレコードから流れる情報をもとに相棒の死神と魂を刈っているのだ。

 アカシックレコードから与えられる情報は絶対だ。それに書かれていない出来事などあるはずがない。あるとすれば、それは世界の理から外れていることになる。

 例のない出来事にクルスがどうしたものかとしばし逡巡している間に、舞は携帯から警察に通報する。

 舞は女性の方を見て電話をしていたため気づかなかった。気を失い、当分は目覚めないだろうと高をくくっていた男が覚醒し始めたことに。

「よし、後はこの女の人を安全な場所に・・・」

「嬢ちゃん、後ろ!!」

 男が立ち上がり、まだ手に残っていたナイフを持って舞に向かって行くのが見え、クーは自分の声が少女に聞こえないことを忘れて叫んだ。

 自分の声が届くはずもないのに少女はまるで聞こえていたかのように後ろを振り返ると間一髪、避ける。

「くそ、なんなんだよ、お前。死ねよ。オレの邪魔する奴はみんな死んじまえばいいんだ。」 

 ぐひぇひぇひぇ、と奇妙な笑い声をあげる男に吐き気がする。

「なによ、もうすぐ警察が来るんだから。むしろ、死にたくなるのはあんたの方でしょ。どうせ、クスリかなんかやってるんでしょ。このヘンタイ!」

 そう、強がって叫んでみるが舞には武道の経験はない。

 彼女が唯一自信を持てるのは足の速さと身のこなしの素早さだけだ。

 完全に傍観者となっている一人と一羽はこの状況にどうしたものかと悩んでいた。

「おい、どうするんだよ、クルス。やっぱ何度確認しても彼女のことはアカシックレコードに書いてないぜ。」

 羽をばたばたさせながらクルスの目の前で叫ぶクーに彼はただ淡々と事態を見守る。

 やはり、少女はこういった手合いに経験がないらしく、壁に追いやられていた。

「ぐふふふふ。君はどんな声で鳴いてくれるのかなぁ。大丈夫。ゆっくり殺してあげる。まずは逃げれないように足を切らなくちゃ。」

「ふざけんじゃないわよ。足は私にとって命も同然なのよ!絶対に切られてなるものですか。」

 そう強気に叫ぶが、体は恐怖に震えている。

「さぁ、鳴いて見せてよ!」

 男は楽しそうな顔でナイフを振り上げ舞に向けて降ろす。

(嫌!!)

 その時、ナイフと舞の間に黒い影が入る。

「な、何だよ・・・何で、ナイフが止まるんだよ。」

 二人の間にクルスが入り込み、身の丈ほどある鎌でナイフを防いでいた。しかし、死神である彼の姿は常人には見えないため、男からすれば何もない空間でナイフが止まっているように見えるのだ。

 男の顔に恐怖が浮かぶ。

「うわぁー!な、何だよ。オレが何したって言うんだよ!」

 男はがむしゃらにナイフを振り回す。クルスはため息をつくと鎌でナイフをはじき飛ばした。

「ひゃあああああああああ」

 動揺して逃げようとする男に向かって、舞は再び鞄で・・・・今度は垂直に男の頭を殴った。

「ぐぎゃ。」

 カエルが潰れた音のような声をあげ、男は再び倒れた。

 舞は急いで近くにおいてあったガムテープで男の足と腕を縛り上げた。

 その様子をクルスはただじっと見つめている。

「おいおい、やってくれたじゃん。どうすんのさ、これ。人間の女の子助けちゃうし、魂は捕れそうにないし、もう、始末書もんだよなぁ。」

 盛大なため息をつくクーとは対照的にクルスは何も答えない。

 彼は無言のまま翻し消えようとした。

「待って!あなた、死神でしょ。」

 その言葉にクルスの動きが止まる。彼は、舞の方を向き「僕らが見えるのか?」と尋ねる。

「ええ、見えるわ。」

 大きく頷く舞にクーは驚いた様子で彼女の顔を見る。

「お嬢さん、名前はなんて言うんだ?」

「白木舞よ。」

 しらきまい・・・・しかし、何度アカシックレコードにつなげても彼女がここに現れることは書かれていない。

「なぜ、僕らが死神だと分かった。」

 クルスの問いに舞はどこか悲しげな顔で答える。

「何度も、人が死ぬときにあなたみたいに真っ黒なマントを羽織った人を見たことがあるから。」

 だが、すぐ舞の顔が笑顔に変わり、クルスに向かって頭を下げた。

「助けてくれて、ありがとう。」

  この少女は何を言っているのだろうか?自分は決して善意で間に入ったわけではないのに・・・・それなのに、少女は自分に礼を言う。理解できない。

「う・・・ん。一体、何が・・・・」

 それまで気を失っていた昌子が目を覚ましたらしく、ゆっくり頭を上げその目が舞を見た瞬間、彼女はかなりき声をあげて近くに置いてあったゴミ箱を投げる。

 しかし、投げられたゴミ箱は舞には当たらず、彼女を庇ったクルスに当たった。

 ゴミ箱が当たった衝撃でフードが脱げ、隠していた金色の髪が露わになる。

 クルスは無言のまま昌子に近づくと、右手で彼女の両目を覆い隠した。すると、昌子の体から力が抜け、再び倒れる。

「あ・・・」

「心配ない。眠らせただけだ。」

 そう話しながら自分の方を見る死神に舞は思わず見とれてしまった。

 顔には何の感情も浮かんでいないが、その金色こんじきの髪と瞳はまるで・・・・

「まるで、暗闇を照らす希望の光みたい。」

 思わず、思っていた事が声に出てしまい。慌てて口を押さえる。

 一方、クルスは驚いた顔で彼女を見つめた。

「そんなことを言われたのは・・・・・初めてだ。」

 同胞の死神達は自分を厭う。

 死神の色は黒。絶対的な黒。それは罪の証。生前に犯した罪を償うために彼らは死神として生きとし生けるもの達の魂を刈る業を持つ。

 それなのにクルスだけが金色をしている。

「そうなの?そういえば、私が見たことある死神さん達は黒髪の人ばっかりだったなぁ。」

 その言葉に何故か胸が痛む。こんな痛みはとっくの昔に乗り越えたはずなのに。

「死神は皆黒髪で黒い瞳を持っている。黒は罪の証だ。死神は罪を犯したものがなる。なのに僕だけは違う色・・・」

 舞は右手をそっとクルスの頬に置く。

「違うのは、いけないの?私にはあなたが暗闇を照らす光に見えるわ。」

 なんだ、それは・・・そんな言葉は初めて言われた。

 何故だろう。この少女とはよほどの理由がない限り、もう二度と会わないはずだ。

 なのに、何故この少女の言葉が自分の中にスッと入ってくるのだろうか・・・

「あー、うん、そのだなぁ。二人の世界に入ってるとこ悪いんだが、そろそろオレ等戻らないとやばいんだよね。」

 突然二人の間に金色の小鳥が入ってきて慌てて二人は飛び退く。

「いや、うん。まぁ、時間の都合というものがあるんですよ、お嬢ちゃん。警察も来るみたいだし。」

 確かに遠くの方からパトカーのサイレンが聞こえてくる。

「ああ、一応自己紹介。オレ様の名前はクー。こっちが相棒で死神のクルス。いっつも無表情で何考えているかわかんねぇんだよなぁ。」

 クルスは無言のまま舞の目の前で飛びながら話すクーを思いっきりはたき落とした。

「おい!何するんだよ。」

 それには答えず、彼は舞に背を向けた。

「あ、あの。また、会える?」

 クルスは振り返ることなく「知らん。」と呟くように言うと今度こそ姿を消した。

「あ、おい、待てよ!」

 おいて行かれたクーは急いで相棒の後を追おうとする。

「それじゃあな、嬢ちゃん。また、機会がありゃいつか。」

 ウィンクをすると彼もまた消えてしまった。

「あ、私も急いで逃げなくちゃ。」

 サイレンの音が近づいてくる。もし、警察に見つかって状況説明を求められるとやっかいだ。逃げるに限る。

「また、会おうね。」

 予感があった。

 自分の日常だと思っていた世界が壊れていく予感が。

 そして、自分の中で何かが生まれていくようなそんな予感が・・・・


誤字・脱字・文が変などがありましたらお知らせください。

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