闇との邂逅 1
遅くなりました・・・
11/6 闇との邂逅1と2をひとつにしました。内容に変更は全くありません。
声が聞こえる・・・・
クロノスが扉の向こう側へ封じられる前まで呑み込んだ負の魂の叫びが。
それはあまりにも暗く、濁った声。少しでも気を抜けば自分もこの闇にのまれてしまうだろう。
「それ以前に気が狂いそうだな。」
クルスはため息混じりに呟く。
目を開けていても見える景色は闇。
段々自分がどこへ向かっているのか、そもそも自分が誰なのかすら分からなくなってくる。
気が狂いそうな負の世界。その世界で彼は独りだ。
「僕は何故ここにいる?」
それは大切なモノを守るためだ。
「大切なモノはなんだ?」
脳裏に浮かぶのは自分に向かって微笑む少女の笑顔。
「っ!負けるわけにはいかない。」
約束したのだ。彼女の下へ帰ると。
その約束を果たすためにも負けるわけにはいかない。
その時、脳裏に金色の猫の姿が浮かんできた。
『ルナは私の一部なんだよ。』
『もし、私が闇に呑まれたとしてもルナがいれば道を見つけてくれるんだよ。』
『いつかお前も得るだろうね。自分の分身、自分の相棒を。』
そうだ。あの人はたくさんのことを自分に残してくれた。
もう、ほとんどその顔を思い出すことはできないけれど、確かに自分はその『人』が大好きだった。
「こうなることをきっと知っていたんだな。」
だから、あの頃にはよく分からない内容の言葉を何度も口にしていたのだろう。
「ありがとう。父さん・・・」
目を閉じて顔を思い出そうとしてもおぼろげで、はっきりと形が思い出せない。だが、確かに自分と同じ金色の髪をした男の人と栗色の長い髪を持つ女の人が寄り添い合いながら自分を見つめる姿があった。
自分は生まれたときから独りだと思っていた。だが、それは違ったのだ。
「僕は独りじゃなかった。」
最初から。そして、今も。
そして、彼は名前を呼ぶ。生まれたときから側にいる自分の半身の名前を。
「来てくれ、クー。」
『相棒はね、自分が闇に呑み込まれそうになったとき、光を放ち、道を作ってくれるんだよ。』
『なぜなら、相棒は自分自身の光から生まれるのだから。』
『どんなモノにも闇がある。そして同時に光もある。闇があるから闇に呑まれてしまうし、光があるから闇と対抗できる。相棒はね、自分の光の部分から生まれてくるんだよ。だから。どんなに闇が深くても、きっと導いてくれる。』
「クー、僕はここにいる!」
天に向け大きな声で名前を呼ぶ。自分から生まれた『光』の名前を。
すると、闇の中から一点の光が現れ、猛スピードでクルスの方に向かってくる。そして、光はそのままクルスに突進するかのような勢いで彼の胸に飛び込んだ。
クルスはそれを抱きしめるように受け止めたが、やはり勢いが強かったため数歩後退する。
「ったく!呼ぶのが遅いんだよ。てか、お前、絶対オレ様のこと忘れてただろ、絶対。このヤロー」
そう文句を吐きながらくちばしでつついてくる相棒に苦笑しながら彼の頭を撫でる。
「ちゃんと、思い出しただろ。そんなに怒るな。」
その言葉にクーは攻撃を止め、じっとクルスの瞳を見つめる。
「全部思い出した。両親のこと、僕のこと、そしてお前のこと。全部だ。」
ふたりの間に沈黙が落ちる。それを最初に破ったのはクーだった。
クーはどこか諦めたようなため息をつく。
「その様子じゃ、もう決めたんだな。戦うって道をよ。」
「ああ、決めたんだ。僕は大切な人を守る・・・必ず。」
脳裏に移るのは舞がクルスの名を呼び微笑む姿。それを守るためならどんなことでもしよう。
「そして、必ず帰る。彼女の下に。」
約束したから。
必ず帰ると。
でなければ、彼女はあの暗い闇の近くでずっと待ち続けてしまうだろう。
あんな場所に彼女を置いておきたくはない。舞がいるべき場所は明るい光の下なのだから。
「ふーん、ちゃんと生きて帰る気はあるんだな。じゃ、まぁ、しょうがないか。お前、舞ちゃんの事になるとなりふり構ってられねぇもんな。」
そう笑うクーの目はとても穏やかで優しい。
「がんばれよ、クルス。」
クーは金色の翼を広げると辺りに金色の粒が現れ、クルスの体を包む。
粒が増えるごとにクーの体が消えていく。
「クー・・・・」
『オレが出来るのはお前を導く道を作ること。後はお前次第だ。負けんんじゃねぇーぞ。』
「ああ、負けないよ。必ずだ。」
その言葉にクーは『くくく』と笑う。
『楽しかったぜ。またな、クルス。』
そしてクーが消えた瞬間、クルスは金色の光に包まれ消えた。




