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その役職(な)は死神  作者: 亜里沙
第1奏 始まりの詩
25/30

運命は回る、廻る 5

「え・・・つまり、クルス君のお父さんはこの扉の向こうに封印されている神様の力を押さえる役割を持っていた神様で、クルス君もその役目を持っているっていうこと?」

『そうだ。クルスはアポロンが最後に残した言葉通り『大切なモノ』に出会った。それと同時期に扉の鎖が弱まり始めた。なるべく時を延ばそうとしたがそれももう叶わない。今も少しずつクロノスの力が扉の向こうからあふれ出している。このままにするわけにはいかないのだ。』


 どこか苦しげな声音でハデスが答える。彼としても実父であるアポロンの代わりに長い間目をかけてきたクルスを失うのは辛いことだった。

 しかし、彼はこの世界を守る神の一神。世界かクルスかで天秤をかけらたならば世界を選ばざる得ない。


「『大切なモノ』?それって・・・」

「君のことだ、舞。君が父の言っていた僕にとって『大切なモノ』。ようやく思い出した。父は僕が僕として生きていけれるよう時が来るまで記憶を封じたんだ。」


 そう話すクルスの目はどこか遠いところを見ているようで、舞の不安がさらに大きくなる。


「君は僕を救ってくれた。今度は僕の番だ。」


 穏やかな笑みを浮かべながらそっと両手で舞の頬を包む。


「守るよ、君を。そして、君のいる世界を。」


 舞の両目が大きく見開かれる。


「だめだよ!だって、それってクルス君が扉の中に入るって事でしょ?そしたら・・・そしたら、クルス君は・・・・!」


 クルスは無言のままそっと彼女の唇と自身のモノを合わせる。

 何度も何度も、最初は啄むようにしていた口づけが段々深くなっていく。


「いやだよ・・・クルス君。」


 舞の目から涙が溢れ出る。

 名残惜しげにクルスは舞の顔から離れると優しく彼女の涙をぬぐう。


「僕の父は人の娘に恋をし、僕をこの世に生み出し、初めて世界を守りたいと強く思ったらしい。きっと、この想いがクロノスに対抗する力になる。」

「でも、そしたらクルス君は消えちゃうんでしょ!そんなの嫌だよ。」


 クルスは少し困った顔をしながらも舞を優しく抱きしめた。


「僕も消えたくはない。だけど、僕が行かないことで舞が消えてしまうのはもっと嫌だ。」


(ああ、彼はもう決意をしたんだなぁ。)

 これ以上は、きっと何を言っても無駄だ。

 もう、クルスは決めたのだ。自分が進む道を。ならば、舞がすべきことはただひとつ。


「なら、私はここで待ってる。」


 自身を抱きしめる手がゆるんだのを感じ、クルスか少し離れる。

 顔を上ると彼は驚いた顔で舞を見つめていた。

 舞はまだ出てくる涙を自身の手でぬぐいながら微笑む。


「私、クルス君が戻ってくることを信じてここで待ってる。だから、お願い。必ず帰ってきて。」


 しばらくの間二人は無言で見つめ合っていたが、やがてクルスが深くため息をつくと頷いた。


「君には本当に勝てないな。わかった。努力はする。」

「努力じゃないの!絶対帰ってきて。」


 約束なんてできない。だが、舞の強い意志のこもった瞳に押され、「わかった。約束だ。」と頷いた。


『クルスよ。確かにアルテミスもアポロンも帰っては来なかった。だが、お前まで帰ることができないとは決まっていないのも確か。この娘は我が守ろう。だから、どうかクロノスを破り、こちらへ帰ってきてくれ。』


 クルスは顔を天に向け、大きく頷いた。


「それじゃ、行ってくる。」


 光の神の息子は彼にとって『大切なモノ』に見送られながら扉の向こう側へと消えていく。


「待ってるから。」


 例え、どれほど時が経とうとしても・・・





                 ◇◇◇





 その昔、太陽の化身アポロンが人間界で変わった人間の娘を見つけた。人でありながら神である自分を見ることができる少女。強い意志を持ち、常に前を見続けていた。

 いつしか、彼はその娘に恋をし、子を成す。しかし、娘は彼と違い人。時の流れに逆らうことはできなかった。

 彼は自身の手で愛する妻の魂を刈り、冥界へ送ると彼女の愛した世界と子供を守るため扉の向こう側へ向かい、戻ることはなかった。


 運命は回る、廻る。


 アポロンの息子もまた変わった人間の娘と出会い、想いを通じ合わせる。

 そして、彼もまた、愛する娘を守るため扉の向こう側へと向かった。


 運命は回る、廻る。


 未来を知るものは誰もいない。





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