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その役職(な)は死神  作者: 亜里沙
第1奏 始まりの詩
21/30

運命は回る、廻る 1

  

「そ、そういえばここはどこなのかな?」

 だんだん自分がしていることが恥ずかしくなり、舞は少しクルスから体を離すと尋ねた。

 クルスは若干不服そうな顔をしながら、「分からない。」と答える。

「君が車にひかれそうになった瞬間、適当な場所に君と僕を飛ばしたからここがどこなのか僕も知らない。」

「飛ばす?」

「この世には様々な空間がある。死神はそこを行き来できるんだ。」

(死神って『神』が付くだけあるんだ)

 すごいなぁと内心で感心していると、クルスが舞を抱き上げながら立ち上がった。

「きゃっ!」

 突然のことに驚き、思わずクルスにつかまる。

 クルスは舞を抱き上げたまま歩き出した。

「え?ちょ、ちょっとクルス君!じ、自分で歩けるから降ろしてぇ~」

 羞恥で顔を真っ赤にさせる舞を無視してクルスは歩き続ける。



 しばらくの間、必死で降ろして欲しいと頼んだが全て無視されたため、諦めることにした。

「そういえばどこに向かって歩いているの?」

 確か、先ほどクルスはここがどこか分からないと言っていた。それなのに彼は迷いもなく前へ歩いている。

「分からない。だけどこっちへ向かわなくてはいけない気がする。」

 クルス自身も何か根拠があるわけではない。ただ、体がまるで引き寄せられるかのように勝手に進んでいくのだ。

(この先に何かがある)

 根拠など無い。だが、この先に何かがあることを知っているような気がするのだ。

 しかし、何故かそれと同時にこの先に行きたくないような気持ちもある。

 しばらく歩き続けると辺りに霧のようなものが出てきた。

「クルス君・・・」

 段々不安になりクルスの顔を見上げると彼はいつになく厳しい顔をしていた。

(この先に一体何があるんだろう?)

 先に進むにつれ舞を抱きしめる力が強くなる。それだけで、彼も不安なのだと言うことが伝わってくる。

「大丈夫だよ、クルス君。私、側にいるから。絶対、この手を離さないから。」

 クルスはちらりと舞の方に目をやると、そっと彼女の額に唇を置く。

「ああ。僕は大丈夫だ。」

(うう・・・クルス君。色々とずるいよ・・・)

 再び顔が赤くなっていくのが分かる。

 すると、突然クルスが足を止めた。

「クルス君?どうし・・・っ!」

 二人の目の前には金と黒の2色が混じり合った巨大な扉があった。

 その扉にはまるで開けさせないように鎖がからみついている。

 クルスはそっと舞を降ろすと、じっとその扉を見続ける。

「クル・・ス君?」

 様子がおかしい。名前を呼ぶが全く反応をしない。

「一体、これは・・・」

『よく来たな、アポロンの息子よ。』

 突然、重々しい声が頭に響いてきた。

『やはり、運命は変えられないか・・・お前もアポロンと同じ役割を果たすために来たのか?』

 その声が、何を言っているのか舞には分からない。

 だが、クルスが苦しそうに頭を抱えてうずくまる様子を見て、良くないことだけは分かった。

「あなたは誰!勝手な事、言わないで。」

 だが、声は舞に対し何も答えない。

「クルス君!しっかりして。」

 舞は必死に頭を抱えうずくまるクルスの名前を呼ぶが、彼は苦しそうに頭を振るだけだ。

『クルスよ』

 重々しい声に名前を呼ばれ、クルスの体がビクリとはねる。

『こうなれば、もう仕方がない。役割を果たすのだ。それがお前の存在意義なのだから。』




ここで出てくる神様の名前は某神話の神様とは全く関係ありません。

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