prologue2
「ほんとだって!昨日の夜に死神を名乗る金髪のイケメンクール少年が来て私に向かって鎌を振ったんだよ。そんでしばらくして意識が戻ったら体は楽になってるし、死んでないし。あれ、絶対本物だよ!!」
昨日生死が決まる大手術を受けたばかりの友人を放課後見舞いに来た白木舞は予想以上に元気な友人の姿に目を丸くした。
「実はさ、手術も五分五分だったんだって。今日目が覚めなかったら死んでたかもしれないとか言われたんだよね。ほんと、信じらんない。なにが「手術が成功すれば助かる」よ。嘘つきじゃない!」
ぷりぷりと頬を膨らませて怒る杏の姿に舞は苦笑する。
「でも、本当に良かった。杏が元気になって。退院もすぐなんでしょ?」
「うーん、すぐってほどすぐじゃないけど、一週間ほど様子を見てからだってさ。ま、でも部活はすぐには戻れないだろうなぁ。筋肉も落ちてるし。大会、出たかったけど・・・・」
二人は陸上部に所属している。二人とも成績も高く、病気さえなければ杏も全国大会に出れたはずだった。
「でも、命があればなんぼだよ。足があるんだもの。足があればいつでもまた走れるよ。」
舞の言葉に杏は目を潤ませ、彼女に抱きつく。
「うわぁーん!舞、大好きーー」
「あはははは。私も大好きだよ、杏。」
「うわ、両思い!これはおつきあいが始まるか~」
「残念。私はノーマルです。異性にしか興味がありません。」
その後も女の子達の華やかな笑い声が病室に響き続けた。
「それじゃ、また明日お見舞いに来るね。」
「うん、いつもありがとう。愛してる。」
投げキッスを送ってくる杏に苦笑しながら舞も「はいはい、私もですよ~」と返し帰路についた。
病院から出て、もう一度杏の病室がある方を見上げる。
「やっぱり『死の気配』が消えてる・・・」
『死の気配』
いつの頃からか、舞は誰かの死を感じることができた。
いつ死ぬのかが分かるわけではない。ただ、気配が強いほどその人の「死」が近くなるのだ。
そして、その気配は杏にもあった。
つい先日まで杏から舞の顔色が変わってしまうほど強い『死の気配』が漂っていた。
しかし、それが今日には綺麗になくなっている。
「金色の・・・死神。」
その時、脳裏にあの日の出来事が浮かびあがる。
真っ赤に燃える炎。その中に立つ黒衣のマントを羽織った金色の髪を持つ青年。振り返り、自分を見つめるその金色の瞳には何の感情も浮かんでいない。
(あの人は、一体誰なの?)
会ったことがないはずなのに時々脳裏によぎる姿。もっと思い出そうとすると何故か頭が痛くなる。まるで、体が思い出すことを拒絶しているようだ・・・
ふと、奇妙な気配がし、歩を止める。
「これは・・・『死の気配』」
いつもは『死の気配』を感じても無視をしている。感じた方へ行ったところで自分は何もできないということが今までの経験上分かっているからだ。
しかし、何故だろう。こんなに気になるのは。無視したいのに無視できない。
いつも気配がする方に行っては結局何もできず、死んでいく姿をただ見ているだけしかできなかった。それが、苦しくて悲しくてもう関わらないようにしていたのに・・・
舞はしばらく立ちつくした後、何かを決意する顔になると気配のする方向へ走り出した。
◆◆◆
真っ暗な部屋。
その部屋の中心にひとつだけ光輝く球体が浮かんでいる。
そこには、必死に走っている一人の少女の姿があった。
「運命が動き出したか・・・・」
姿は見えない。しかし、確かにどこか諦めが含まれた声が闇の中に響く。
「今度も悲劇となるか、それとも・・・・」
球体の映像が少女から金色の髪の少年を映す。
「クルスよ、お前はどう行く?」
そう呟く声はどこか悲しげだった。




