運命は詩を歌う 2
『君を支えてくれる子がいる。いつかきっと、あの子は君を救ってくれるよ。』
それは誰の言葉だっただろう。実際に自分がその人からその言葉を聞いたわけではない。ただ、それは、確かに自分の記憶にあるモノだった。
◆◆◆
舞は無我夢中で走り続けていた。あまりに必死すぎて自分が今どこを走っているのか分からない。
ただ、彼女は彼のために走り続ける。
舞が角を曲がろうとした時、車が自身に向かってくるのが見えた。
「舞!!」
何度も聞いたその声と車のブレーキ音が耳の奥で響く。
意識が闇に包まれる寸前、覚えのある温かい腕が自身を包み込んでくれたのを感じた。
夢と現実の狭間。
舞はぼんやりとした意識でそこにいた。
『もし、君が大きくなっても死神が見えて、ある日私と同じ金色の死神出会ったら・・・』
自分がよく見知る金色の死神とよく似た顔。彼の時を10年ほど進めたらきっとこんな姿になるだろうなぁ。
でも、雰囲気が全く違う。
他人を近づけさせない雰囲気を出している『彼』とは違いこの人はとても柔らかい感じがする。
『その子の力になってあげて欲しいんだ。』
(力になるって、どうしたらいいの?どうしたら彼の力になれるの?)
その問いに彼から答えは返ってこない。ただ、この金色の『彼』とよく似た人は舞の頭をなで続ける。
『忘れてくれても良いよ。でも、君はきっとあの子に出会う。そして、それは君にとってもあの子にとっても良い出会いになるよ。』
(本当にそうなの?ねぇ、あなたは一体誰なの?)
『・・・・ぁ・・・い・・・・・・・・・』
どこからか声が聞こえる。
とても必死で、どこか苦しげな声。
『ま・・・・・・・・・い・・・・・・・・・・お・・・・・・き・・・・ろ』
それは悲痛な響き。私は、この声を知っている。
『舞!起きろーーーー』
ああ、そうだ・・・この声は・・・・・・・・
次の瞬間、世界が暗転し、辺りが暗くなる。しかし、闇の奥に小さい光が見えた。
(行かなくちゃ。)
きっと『彼』はあそこにいる。今もなお、あの光の方から『彼』の声が聞こえてくる。
何度も何度も、必死に自分の名前を呼んで待っていてくれている。
舞は必死に光に向かって手を伸ばしながら進む。
(わたしなら大丈夫だよ。今、そこに行くから。)
そして、ついに光が手に触れると舞の体は光に包まれた。
「起きろ!舞。」
(うん。心配してくれたんだね。ごめんね。すぐ、起きるよ。)
今まで固く閉じられていた舞のまぶたがゆっくりと開く。
まだ、意識がはっきりしていない様子だが、彼女の瞳は誰かを捜すように辺りをさまよい、やがてようやく自身を抱きしめ、見つめる金色の光を見つけ微笑む。
「クル・・・・ス・・・・・・・・君」
名前を呼ぶといつもは無表情な『彼』の顔が僅かにゆがんだ。
そして、力強く舞の体を抱きしめる。
僅かに彼の体が震えている気がするのは気のせいではないだろう。
「ごめんね。心配かけちゃって。」
まだ、うまく体に力が入らないが、何とか両手をクルスの体に巻き付ける。
「・・・・・・・・・」
クルスは何も言わない。だが、言葉よりも彼の全てが気持ちを舞に伝えてくれる。
「クルス君・・・・・・私・・ね」
だから、舞は言葉を紡ぐ。彼のために・・・そして、自分のために。
「私、クルス君が好きなんだよ。」