運命は詩を歌う 1
「おい、クルス。良いのか?ここ最近まともに向こうへ帰ってないぜ。」
クーの言葉にクルスは何も応えない。否、答えられないのだ。
なぜ、自分が向こうへ戻りたくないのか。その答えが全く分からない。
ただひとつ自分の中で確かな事は、今ここを離れてはいけないという予感がある事だけ。
ふと、近くに見知った死神の気配が現れたことを感じた。
「・・・僕を連れ戻しに来たのか?」
その気配を追うが、気配は自分とは別の方向に向かっている。その方向を探ると・・・
「舞!!」
どうしたのか?と尋ねるクーを無視して彼女のもとへ向かう。
「クルス!ちょっと待てよ。」
しかし、クルスの姿はあっという間に消えてしまった。
残されたクーはもう、ここ最近何度目か分からないため息をついた。
「これもあのお嬢さん効果か?」
何があったのか自分には分からないが、あのクルスが顔を真っ青にして慌てて消えるなど今まで無かったことだ。
果たして、これがクルスにとって良いことなのかどうかは分からない。
だが、確かにクルスの中で何かが変わり始めているのだ。
舞という少女の影響を受けて・・・
◆◆◆
本日、授業は半日で終わり若干るんるん気分で舞は帰路についていた。
ふと、辺りの気配がゆがんでいくような気配がし、足を止める。
辺りを見回すが、特に異変は見あたらない。しかし、誰かに見られているような気配がする。
「誰か・・・いるの?」
返事は返ってこない。しかし、突然目の前の景気がゆがみ、そこからクルスと同じ黒衣のフード付きマントを羽織ったヒトが現れた。
そのヒトがフードを脱ぐと、黒衣の髪と瞳を持つ女性の顔が現れた。
「初めまして、白木舞。私はペルセポーネ。死神であり、クルスの上司。」
その言葉に舞は目を見開いた。
その無機質で淡々とした口調は確かにクルスと似たものを感じる。しかし、彼とは違い彼女からは恐怖しか感じられない。
「あなたに恨みなど無い。しかし、あの子のため、そしてアカシックレコードの導きにより死んでもらう。」
言い終わると同時に手からクルスと同じ身の丈ほどある鎌を出すと、舞に向かって振り上げた。
舞は間一髪避けることができたが、僅かに頬が切れたらしく血がぽとぽとと流れ落ちていく。
ペルセポーネは驚いた顔で血の付いた鎌を見つめる。その隙を逃さず舞は全速力でその場を走り去った。
我に返ったペルセポーネは急いで後を追おうとしたが、すでに舞の姿はどこにも見あたらない。
「ずいぶんと足の速い子ですね。」
空を見上げると、漆黒のカラスがペルセポーネのもとまで降りてきた。
彼女の使い魔コレーだ。
「追わなくてもよろしいのですか?」
コレーの問いにペルセポーネは首を振った。
「アカシックレコードによるリスト内に彼女の名前があった。私が何もしなくても彼女は運命により今日、命を落とす。」
「ならば、別に接触する必要は無かったのでは?」
「・・・クルスをたぶらかした人間をこの目で見たかったんだ。」
だが・・・と再び舞の血が付いた鎌を見つめる。
本来、死神の鎌で切れるのは魂だけ。実体など切れるはずがない。それなのに舞の体を鎌は切った。
これが指す意味は何なのか・・・
「白木舞・・・一体何物なんだ?」