ある日のクーの一日日記
タイトル通りの話です。
○月×日 天気 晴れ(たぶん)
今日の仕事もあの嬢ちゃんのおかげで魂を回収し損ねた。
これで、ここ最近のクルス成功(失敗)回数は10を超えたみたいだ。
おかげで、意気揚々と(本人がしてたかどうかはわからないが)帰ってきたら上司のペルセポーネに呼び出されちまった。
◆◆◆
「何ですか、これは?」
部屋に入って開口一番の言葉がこれなんだよ。部屋中の温度がマイナスまで下がったんじゃないかと思うくらい冷たくて恐ろしい声だったぜ。
どうやらかなり怒っていたようだなぁ。
「何、とはどういう事ですか?」
こいつもこいつで重苦しい声。
まぁ、こいつを育てたのはこのペルセポーネだから似ちまったのはしょうがないかもしれんが・・・・オレとしちゃ、もう少しこの部屋の空気を軽くして欲しかったね。
まぁ、そんなことこいつに求めてもしょうがないんだけどさ。
「13回目です。」
どうやらあくまで平静を保つつもりだったんだろうなぁ。でも、気配にだんだん殺気が帯びてきてたぜ。
微妙になんか怒りのマークが顔に浮かんでるぞ。もう、若くねぇんだから。そこら辺、気をつけた方がいいと思うね。男にもてないぜ。まぁ、死神は年なんかくわねぇけど。
とにかく、空気が重いったらありゃしね。
早くここから出たいぜ、とオレは思ってるんだけどなぁ。こいつの口べたじゃ無理だよなぁ。
全く、こんなに空気が重いって言うのにこいつは涼しい顔でしらばっくれやがった。
「いったい何の回数ですか?」
さすがの冷徹な仮面を持つペルセポーネがついに切れた。
切れたペルセポーネって結構おもしろいんだよねぇー、何度見てもさ。
いつもつけてる冷静沈着な鉄仮面がはがれたって感じで。
せっかくけっこい美人な顔が怒りでゆがんでるぜ。
「最近、人間の娘とよく接触しているみたいですね。」
その言葉にわずかだがクルスの顔に険しさが浮かんだんだ。
ああ、やっぱりあの子が大切な訳ねって再確認させられたよ。
「それが何か問題でも?」
クルスのやつ、開き直ったか?と思いきやこのやろー、話は済んだとでも言うようにドアのノブを回して部屋から出て行こうとしやがった。
「この世は運命に縛られているのでしょう?ならば、死を司る僕が彼女と出会ったのも運命。すべては運命の女神の御心だと言ったのはあなたですよ。ならば、何の問題もないでしょう。」
それだけ言うとそのまま礼もせずにオレを置いて部屋からでていきやがった。
ひどくねぇ!あいつ!!
◆◆◆
ペルセポーネのやつ、相当に怒ったみたいだ。
おかげで仕事の量がいつもの倍に増やされちまった。
さすがのオレらももうくたくた。
最後の仕事である交通事故で死んじまった夫婦の魂を送り届け、オレたちは一息つくためにちょっと近くのベンチに座って休憩をすることにした。
「あ、やっぱりここにいた。」
その声は最近よく聞く少女の声だ。
そう、現在進行形でクルスの奴がぞっこんの少女、または、クルスを少しずつ変えてくれた少女、その名も・・・・舞ーーー
ってオレはなにを書いてんだか。
まぁ、どっから来たのか知らないがなぜか舞ちゃんは浴衣を着ていた。
「何だ、その格好は?」
さすがの鈍感クルスもちゃんと舞ちゃんの変化に気づいているようだ。
「今日はこの辺りの河原で花火がやるんだ。これは私の死んだ母さんのお古なの。」
そう明るく話してくれたけど実際は結構辛いんだろうなぁ。
「何となく、ここに来れば2人に会えると思ったの。ねぇ、ちょっと来て!」
有無を言わさず舞ちゃんはクルスの手を引っ張って走り出した。
クルスは驚いた顔でそれでもその手を振り払わずついて行く。
尻に敷かれてるねぇ。
◆◆◆
ついた先は大きくて結構綺麗な家。どうやら舞ちゃんの家のようだ。
舞ちゃんはそのままクルスを家の中に連れ込む。とりあえずオレは2人の邪魔をしないよう、外で待つことにした。
しばらくしてから2人が家から出てきた。
「なんじゃその格好・・・」
オレが驚くのも無理がない。
なぜなら、2人の服装がっていうかクルスの服装がさっきまで着ていた黒色一色とうってかわり、濃い青色の浴衣を着ていた。
クルスは珍しくそっぽを向いている。照れてやがるな、こいつ。
本当、この嬢ちゃんの前だとよく感情が出てくるようになるんだからよ。
「ねぇねぇ、クー君。これ、似合うと思わない?私が趣味で作ったの。」
楽しいそうに話す舞ちゃん。てか、趣味って・・・・
「私、学校で家庭科部も兼部してるんだ。だから、こういう物もよく作るの。」
へぇー、それにしちゃずいぶんと丈がクルスにぴったしじゃねぇか。
ただでさえ夏で暑いっていうのに、この辺りの温度はそれよりも暑いねぇ。
一方のクルスといったら、嬉しそうな顔をする舞ちゃんとは正反対の仏頂面。もうちょっと愛想良くできないのかねぇ。
「一応言っておくが、僕の姿が見える変わり者は君くらいだぞ。」
なるほど!つまり翻訳すると、クルスは一般の人には見ることができないから、一緒に歩くと1人で会話してることになるから周りの人たちに変な目で見られちまう。それが心配で仕方がないんってことだな。
ああ、なんてお熱いお2人。
「別に良いよ。私が見えてるんだから。」
舞ちゃんの笑みに圧倒され、オレらはため息と共に首を縦に振るしかなかった。
全く、花火の火より熱いんだからだからよ、この2人は・・・・
いやぁー屋台つうもんは何回か見たことあったんでけどこんなに間近に見るのは初めてだ。
まだ始まってないって言うのに、本当、人が多いぜ。
ありゃ、周りをきょろきょろ見ていたらいつの間にか2人ともいなくなっちまった。
とりあえず適当な高さで空を飛んでいたら何とか見つかった。2人とも壁に寄りかかって焼きそばを食べていた。あれ?なんかクルスのやつ、実体化してねぇか?
もしかして舞ちゃんに気をつかってってやつですか。
結構、いいところあるじゃねぇか。
ちょっとからかってやろうかなぁー
オレはクルスの肩にとまった。クルスは食べるのを止めて、どこかあきらめたような、疲れ切ったような声で「何していたんだ。」と聞いた。
普通はそこで「何2人っきりの所を邪魔してくれるんだ。」っていうもんなんだけどなぁー
こいつの未来が心配になってきたぜ。
まぁ、今はそれよりも・・・
「お前こそ、その姿なんだよ。ばれたら怒られるだけじゃ済まないぜ。」
クルスは不機嫌そうにオレを睨んできやがった。
「しょうがないだろ。」
ちらりと横を見る。どうやら舞ちゃんは食べるのに必死でクルスの視線に気づいていない。
「本人は気づいてるのかよ。」
オレの問いにクルスはゆっくり首を振った。
「もともと舞は見える人間だから、僕がふつうの人にも見えるようにしたって彼女の目は何も変わらない。」
いつも通りの無表情な顔に淡々とした口調。でも、どこかいつもと違う物があるような気がした。
花火が始まったようだ。だけど、人が多すぎてあまり良い場所まで行けねぇ。
とりあえず最初は2人とも食べたり飲んだりしながら花火を見つつ歩いていた。
でも、途中から食べ物(主に舞ちゃんが)に夢中になったらしくもう花火を見ていない。
うん、まぁ、なんだ。『花より団子』ってやつかな。
ちなみにオレはというと、邪魔にならないように上空で暖かく2人を見守っていたんだ。
なんて良いやつなんだ、オレ!!
まぁ、まじめな話、平穏なんてすぐに消えちまう。
未来、いや、おそらくもうかなり近くまで来ている運命とでもいうモノに2人は苦しめられるだろう。
それは人間で言うところの試練なのかもしれない・・・いや、そんな生やさしいモノじゃないかもしれない。きっと、あいつらは・・・
って、何日記にこんな事書いてんだよ、オレ。
今オレが心配したって何にもはじまらねぇし、本人もまだ忘れてるんからまだ、その日は来ないって事だろう。オレがどうこう考えたってしょうがねぇな。
そんな事を考えてるうちに舞ちゃんがクルスの手を引っ張って人気のない道に進み始めた。
2人がついたのは誰もいない公園。まぁ、誰もいなくて当然かもしれないな。
公園の中は小さい子供の背丈ぐらいまである雑草がはえてる上に、あるのはブランコと鉄棒とすべり台の3つだけ。
全然手入れされてないせいか遊具は結構痛んでいるみたいだ。
「ここ、結構良い穴場なんだ。花火の高さもちょうど良いくらいに見えるし、人も全然来ないし。」
そう言って、ブランコに座る。クルスもゆっくりと隣のブランコに座った。
ちなみにオレは舞ちゃんの肩に止まって一緒に花火見物をする。
ああ、やっぱこの子の肩は良いわ~
花火が次々と暗い夜空に咲き誇る。
オレは気を遣ってこっそり先に死界に戻ることにした。
せっかくの2人っきりの花火だ。
しっかりエンジョイしてもらわなくっちゃな。
オレがいない間、2人がどんな時間を過ごしたのか知らない。
ただわかってることは今日は最初から最後までペルセポーネのやつに叱られたということだ。
ま、帰ってきたクルスのやつが幸せそうだったからいっか。
舞ちゃんは陸上部と家庭科部を兼部しています。