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その役職(な)は死神  作者: 亜里沙
第6話 金色(こんじき)の死神の希望
13/30

前編

いつもより糖度が増量しております。多分・・・

         

 ねぇ、偶然ってあると思う?

 私はね、無いと思ってるんだ。

 実はね、少し前まではそれと同じくらい『運命』なんて言葉も無いと思ってたんだよ。

 だって、『運命』なんて言葉は自己満足に浸りたい人たちが作ったモノでしかないと思ってたんだ。

 でも、今は少しくらいなら信じて良いかも。

 あのね、私はこうも思うんだよ。

 『運命』なんていくらでも変えることができるって。








「嫌なところに出くわしちまったな。」


 金色の小鳥クーが主である金色の死神クルスの肩の上でため息をついた。

 クルスも同じ気持ちなのだろう。いつもの無表情な顔には微かだが嫌そうなものが浮かんでいる。

 クルス達がいるのは夜も深くなり、人気が無くなった交差点。

 仕事を終え、何となくこの道を歩いていたところ一人の女性がひき逃げにあったのを目撃してしまったのだ。

 息はまだあるようだが、それも時間の問題だろう。

 そのまま放って置いても良かったがそれはそれで後味が悪い。


「偶然・・・にしちゃちょっときついぜ。どうするよ?この人はオレ等の担当じゃないからヘタに魂を刈るわけにもいかねぇし・・・担当っぽいやつも来ねぇし。でも、このまま放っておけば魂がさまよって悪霊になるかもしれねぇし・・・・」


 肩の上で人間で言う腕を組むように自身の羽を交差させながら唸るクーを一瞥すると、クルスは手から鎌を取り出す。


「やるのか?後で何か言われるぜ。」


 無言のままクルスは鎌を倒れている女性に向けて振り下ろそうとした。


「待って、クルス君!」


 その声はもう何度も耳にした声。

 振り向かなくてもそれが誰なのか分かる。


「何で、こんな深夜遅くに舞ちゃんが夜道を歩いてるんだよ。」


 鎌を降ろし振り返ると、息を切らしながらもこちらを見つめる舞の姿があった。

 その姿はいつもよく見る「制服」とは違う。


「・・・・寝間着?」

「ジャージです!確かに、この服で寝るけど、でも寝間着じゃありません!」


 何が違うのかよくわからないが、本人が違うというならそうなのだろう。


「もしかして、もう寝る寸前だったのをわざわざ来たの?うわー、風ひくぜ。」

「むう。だって、何となく来なきゃいけないって思ったんだもの。」


 話しながら携帯で119番に電話すると救急車を呼ぶ。


「さ、後はこの人を安全な歩道側に運ぶから手伝って。」


 舞の言葉にクルスは戸惑った様子を見せる。


「助けるつもりなのか?」

「当たり前じゃない!だって、この人はまだ生きてるんだよ。」


 とたん、何故かまっすぐ自分を見つめる一対の瞳から逃れたいようなもっと見ていたいような不思議な気持ちになった。

 彼女の目はいつもそうだ。

 まっすぐ、力強く輝いて見るものを捕らえる。そんな不思議な瞳。

 だが、いつまでも彼女の瞳を見ているわけにもいかない。


「だが、もうじきそいつは死ぬ。」


 呼吸も弱くなっている。病院に着く前に死ぬ可能性が高い。


「誰がそんなこと決めたの?この人が死ぬ運命なんて誰が言ったの?」


 クルスはその問いに答えることはできない。

 生き物の運命が記されているアカシックレコードのことは生者に話すわけにはいかないのだ。


「もし、本当にこの人がここで死ぬ運命だったとしても私はあらがうよ、最後まで。」


 しばらくの間、二人は無言で見つめ合った。

 しばらくして、クルスが大きなため息をつくと、手に持った鎌を消し、倒れた女性を抱き上げる。


「そもそも彼女は僕の担当ではない。」 


 まるで何か言い訳をするように話す様子に舞はクスリと笑う。


「そうそう、つまりオレ達がこの人を助けても問題ナシってことさ!」


 今までどこにいたのか突然クーが舞の目の前に現れてウィンクする。


「お前、どこにいたんだ。」

「HA HA HA!わざわざ気を遣ってやったんじゃねぇか。感謝しろよ、クルス。」


 クルスは無言でクーをたたき落とすと女性を安全な場所に降ろし、そっと彼女の体に手を置いた。

 すると彼の手から淡い光が放たれ、それがゆっくりと女性を包んでいく。

 光が女性の全身を包み込んだのを見て、手を離す。


「クルス君、何をしたの?」

「救急車が来るまで彼女の時間を止めただけだ。」


 何の事もないようにクルスは言うが、それがあまり良くないことは舞でも分かっていた。


「ありがとう、クルス君。」

「言っただろう。彼女は僕の担当ではない。・・・・・彼女の担当が来なかったのは、恐らく死期がまだ先だからなのだろう。だから、僕が何もしなくても助かった。」


 それが真実でないことはよく分かっていた。それでも、あえてそう言うクルスに泣きたいような気持ちになる。


「うん。でもね、お礼は言わせて。」


 自分を見つめながら優しく微笑む彼女の姿に心のどこかで満足を覚えながら、羽織っていたマントを彼女に着せる。


「まだ、寒いだろう。着ていろ。」

「ありがとう。でも、クルス君も寒いでしょ、一緒に着よう。」


 別に死神であるクルスには温度など感じない。だから、マントを脱いだくらいで寒いとは思わないのだ。

 だが、クルスは無言のまま舞とともにマントを体に巻き付ける。

 救急車のサイレンが夜の闇に響き渡るまで二人は互いの熱を分け合っていたのだった。




一体、クーはどこにいるんだろう?

まぁ、恐らく二人だけの世界を邪魔しないよう近くで見守っているかと思います。


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