後編
外では消防士さん達が必死な形相で火を消していた。
男の人は私を人気のないところで降ろしてくれた。そして、優しい手つきで私を抱きしめてくれた。
「泣くと良いよ。泣かないと心が壊れてしまう。泣くことは悪い事じゃない。自分を前に進めさせてくれる人間特有の感情なんだよ。」
その言葉に甘えて思いっきり泣いた。
どれほど時間が経ったのか。やがて泣きやみ始めた私を離すと頭を撫でてくれた。
「まだ泣いてたのかよ、そのお嬢さん。」
声がした方を見ると金色の猫がやってきた。
金色の猫は私の肩に飛び移るとその温かい舌でぺろぺろと頬を舐めてくれる。
「お嬢さんのご両親は今日、あの火事で死ぬ運命だったんだ。でも、お嬢さんは違う。お嬢さんのことは書かれてなかった。だから、お嬢さんは今も生きてる。それだけの話だ。」
「アホ。そんな言い方あるか!」
男の人は猫の頭を軽くはたいてしかった。
「謝罪はしないよ。それが私の仕事だからね。」
「しご・・・と?」
「そう。私は死神だからね。もっとも、この時代の死神ではないけれど。」
死神?お母さんから聞いたことがある。
死神は死んだ人間の魂を奪うのがお仕事だと。
「そうだよ。君のご両親は死んだ。死んだ人の魂がちゃんと冥界に来れるよう導くのが正しい私たちの仕事だ。」
男の人はどこか影のある笑みを浮かべながらぽんぽんと私の頭を叩いた。
「さて、私たちはもう行かないといけない。だから、君とは2度と会うことは無いだろう。でも、最後に君にお願いがあるんだ。」
「おね・・・・・がい?」
「うん。もし君が大きくなっても死神が見えて、ある日私と同じ金色の死神出会ったら、その子の力になってあげて欲しいんだ。」
意味が分からず首をかしげる様子に男の人は苦笑した。
「忘れてくれても良いよ。でも、君はきっとあの子に出会う。そして、それは君にとってもあの子にとっても良い出会いになるよ。」
どういう事だろう。あの子とは一体誰を指しているのか。
「さぁ、眠ると良い。目が覚めた後、君にとってつらい現実が待っているかもしれないけれどそれが全てではないよ。」
だんだん意識が遠のいていく。
「さよなら、舞。・・・・いつか君とあの子が出会うことを祈ってる。」
そこで、私の意識がぷっつりと切れた。
「う・・・ん?また、あの夢かぁ。」
目を開け体を起こすとそこは見慣れた自分の部屋だった。
「あの夢見るのも久しぶりだなぁ。」
小さい頃は何度かよく見ていた両親が死んだ日の夢。
ここ最近では全く見ることが無かった夢だ。
「あの死神を名乗っていた人、クルス君と同じ髪と瞳の色だったなぁ。」
いや、そういえばそれだけではなかった気がする。
顔もどことなくクルスに似ていたような・・・
(クルス君がもっと成長したバージョン?あ、でも使い魔は猫だったなぁ。)
そういえば、それからだった気がする。『死の気配』が分かるようになったのは。
これは一体どういう事なのだろう?
「舞~ごはんできたわよ。いい加減起きなさい。」
両親の死後、私を引き取って育ててくれた叔母さんの呼び声が聞こえ、思考が停止する。
(ま、考えてもしょうがないや。なるようになる。その時、また考えよう。)
カーテンを開けると部屋が太陽の光に照らされ明るくなる。
再び叔母が自分を呼ぶ声が聞こえ、大きな声で返事をすると制服に着替え、部屋を出た。
なんか、重要な伏線っぽい・・・・