一人称と三人称併用作。参考にお使いください。
何となくの出来心だった。
自分の彼氏が一人で居る時どんな風に生活してるのか知りたかっただけ。
どんな音楽を聴いてどんな風に生活をしてどんな笑顔を垣間見せてるのか知りたかった。
ただそれだけだったのに。
数日前に話は遡っちゃうけど、私は彼の家に遊びに行った。
妙に整頓された本棚には面白そうな漫画が並んでいて、隅っこに教科書とか参考書なども入っている。
何となく本棚を眺めていると大好きな声が聞こえてきた。
「何か読んでていいよ。ちょっと飲み物持ってくる」廊下へと続くドアを開けて雅伸が部屋を出て行く。
(よし。チャンスは今しかない! )自分に言い聞かせるようにカバンから小型の機器を取り出す。
当然持って来たのは小型カメラや小型のマイク。
言い方悪いけど盗撮とか言うもので、私にとっては痛い出費だった。
それでも知りたくてたまらないのだから仕方ない。
浮気されたくないし女心はすごく不安なんだもん。
両面テープを貼り付けてきたのでさっさと見えにくい場所を選んで貼り付けていく。
本棚の上やベッドの下。普通はわかりにくい場所を選ぶ。
すぐにばれてしまったら意味がないし別れ話に発展しそうで怖い。
ひとしきり張り終わる。
「ごめん。飲み物切れてたから近くのコンビニまで買いに行ってくるからもう少し待ってて」廊下から聞こえてきた雅伸の声に返事だけ返すと再び安心して作業に戻った。
マイク(盗聴器)やカメラ(盗撮器)から出ているコードをある機械につないでいく。
この機械は凄く高くてパスワードつきで無線を使い映像や音声を飛ばすという機械。
当然見るためのアドレスやパスワードも二十種類くらいあって、早々簡単に破られはしないと店員が教えてくれた。
買う為に使った名目は当然同居している彼氏の浮気調査。
これだとそこまで怪しまれないですみそうだったから使ったまで。
配線がつなぎ終わると次は本棚の上に隠して、そのまま本棚の後ろの隙間に電源コードを張っていく。
下まで這わせた電源を何処に繋ごうかと迷う。
運良く使ってない且見えにくい場所を見つけた。
そこは本棚の後ろに見つけたんだ。
何とか繋ぐと電源が入る。
確認のために携帯電話で映像を流しているアドレスを開き、二十種類もあるパスワードを次から次にクリアしていく。
出てきた映像には当然私の姿が映っていた。
これでばれなければいつでも大事な彼氏を守る為に覗き見……いや監視が出来る。
「ただいま」玄関から声が聞こえておかえりと返事をすると何食わぬ顔で本棚から適当に一冊のマンガ本を取り出して中間位から読み始めた。
「もうそこまで読んだのか。早いな」彼氏の言う言葉に適当に相槌を打つと私はそのまま読んでいく。
頭の中はばれるかばれないかはらはらしてるのに自分の態度に気付かない雅伸に何となく腹立たしくもある。
正直に言ってしまえば複雑だ。
見つかって欲しくはないけど、私のこの悪戯した時のドキドキ感を判って欲しい。
「どうかしたか? 」不思議そうに尋ねてくる雅伸。
「いや。それより外寒くなかった? 私が代わりに温めてあげようか? 」何とか気分を別の方向に向けようとする気も無い癖に話題を振る。
「……しなくていい」ボソッと聞こえた言葉を理解できずに聞き返すと怒鳴り返されてしまう。
「しなくていいって言ったんだ! 」
静まり返ってしまう部屋の中で雅伸は耳まで赤く染めたままコップにジュースを注ぐ。
その後は普通に友達の話しとかしたりゲームの話を聞いたりしてソワソワしながらも無事に時間は過ぎて行った。
帰り道、携帯で雅伸の部屋を覗く。
ベッドに仰向けにねっころがったまま私が読んでいた漫画を見てる。
「へー。アイツこんなのが好きなのか。次呼ぶ時までに出来るだけ揃えて置こうっと」そう喋る彼氏は凄く優しく微笑んでた。
その笑顔を見ると自分がしてきた事に罪悪感を感じる。
(本当はしないほうが良かったんじゃないのかな? でも、凄く気になるんだもん! )好きな人だからこそ独占したいからこそこの思いは歯止めが利かない。
他にも色んな所を知りたい。
雅伸が普段どんな人とどんな風に遊んでるのかとかどんな話題で盛り上がってるのかとか。
携帯のスピーカーからチャイムが鳴る。
誰かが来たみたい。
雅伸は一旦部屋から出て暫くすると誰かと喋りながら部屋に戻ってきた。
一緒に部屋へ入ってきたのは雅伸以外にもう一人男の子も一緒。
カメラは安物を買ったからそこまで画質は良くない。
「雅伸。もしかして彼女連れ込んでた? 」含み笑いを浮かべながら一緒に入ってきた子が話しかける。
「来てたけどそれがどうした? 」平然と返す雅伸になんだか嬉しい様なむかつく様な感情が湧き上がって来る。
だって仕方ないでしょ?
二人だけの時間を簡単に喋ってる雅伸にイラつくのと彼女がちゃんと居て他の異性には振り向かないって断言してくれてるみたいで嬉しいのと両方あるんだもん。
「って事は俺もしかしてお邪魔しちゃった? 」雅伸の肩に手を置きながら喋る人に凄く腹が立った。
いっその事雅伸に近づけないようにしたい位。
「あのな、裕也大概にしないとチョーク掛けるぞ? 」クルリと回転すると裕也と呼ばれた男の子の首に腕を掛ける。
「マジ勘弁してよ。俺が悪かったって……それにいきなりは反則だろ? 」首に回った腕を何回か叩くと雅伸は簡単に腕を放してしまう。
(もう! 何やってるのよ! そんなやつさっさと絞めちゃえばいいのに)私自身でも酷いって事位自覚してます。
「それで、何する? やっぱネト? 」雅伸が私も見た事無い笑顔で裕也に話しかけてる。
自分でも凄く不機嫌になったのは理解出来た。
だって彼女の私でさえ見た事が無いって凄く負けた気分になる。
「でも、あれそのままにしておいてもいいの? 盗撮だろ? 」本体のある場所を親指で指差しながら裕也が喋る。
「いいの。大事な彼女が不安にならないようにするのも大事な彼氏の務めだろ? 本当は嫌だけど、この位で怒って嫌われたくないしさ」眉間にしわを寄せて微笑む雅伸。
(え? 初めからばれてたの? 私が盗聴器とか盗撮カメラ仕込んだの)とても罪悪感が湧き上がってくるのと同時に何故か愛されてるんだって安心感が沸き起こる。
「その話はもういいだろ? それよりネトゲしようぜ」コンピューターに電源を入れた所で私も盗撮サーバーからアクセスを閉じた。
翌日に雅伸の部屋に行って必死に謝り、機械を全て撤去した。
その後もずっとラブラブで付き合い続けてる。
読んで下さってありがとうございます。
続編は執筆しません!
先に言っておくと、これはあくまで一例の一人称から三人称への移行・三人称から一人称へ戻すやり方のストーリーである為、そこまで深くは考えておりません。
他にも主人公が昏睡で一人称から三人称へ移行とか他にもファンタジー系なら透視もしくは術を使って見る。など併用出来ますので参考までに。
なお、一番重要なのはあくまで主人公が第三者の行動を見ているもしくは聞いていると言うのが基本構造になってます。
主人公が見聞きしないものに関しては基本的に出来ない事象なので、諦めた方が無難かもしれません。
プロの作家さんでは主人公が見聞きしないものに対しての人称移行などされていらっしゃる方もごくまれですが居るようなのでそちらを参考になさるとよろしいかと。
それでは最後になりますが、長い文章を読んで下さった皆様並びに問いかけてくださった方に感謝申し上げます。
それではまたいつかお会いしましょう。