僕は母と結婚した〜理想の嫁(エルフ)の中身が前世のおかんだった件〜
「ルーク、朝よ。ほら、いつまでも寝てないで起きて?」
窓から差し込む陽の光よりも眩しい笑顔で、銀髪の美しいエルフの妻ーーーセリアが僕の頬をつつく。
前世の僕ーーー鈴木健太はトラックに轢かれて呆気なく亡くなったらしい。
そして、お約束通り、剣と魔法の異世界に“ルーク”として転生した。
…まあ、そこまではよくある話だ。
だが、僕の異世界ライフは一味違った。
なぜなら、この世界で出会って恋をした妻のセリアが控えめに言って“宇宙一最高の嫁”だったから。
「ほら、お弁当。今日はルークの大好きな甘めの卵焼きを入れておいたよ」
「ありがとう、セリア! 僕が甘い卵焼き好きだってよく分かったね?」
「ふふっ、ルークのことは何でも分かるの。愛の力ってやつかしら?」
セリアと出会って結婚するのに、そう時間はかからなかった。
なんと言っても、彼女は完璧だった。
僕の趣味嗜好からちょっとした癖まで理解して、まるで長年連れ添った夫婦のように的確に僕の望みを叶えてくれるから。
僕は毎日“こんな最高なお嫁さんをもらえて、転生して本当によかった”と神に感謝していた。
…前世の僕はモテなかった。
陰キャ童貞の僕にとって、女性は怖いものでしかなかった。
そんな僕にもやっと春が訪れたのである。
それがセリアだ。
彼女も僕に不思議な親近感を感じていたみたいで、告白もプロポーズを二つ返事でOKしてくれた。
ーーーしかし、一緒に暮らして半年が過ぎた頃から僕の中に“奇妙な既視感”が芽生え始めていた。
例えば、それはある日の夕食。
「ルーク、またピーマン残してるね。器用に避けて…好き嫌いしてると健康に良くないよ?」
「うっ…ごめん」
僕は、ん?と思った。
怒っている顔のセリアも最高に可愛いのだが、何故だろう。
なんだかこんなことが前にもあったような?
そして、またある日の休日。
「ルーク! 脱いだ靴下は丸まっていたら、ちゃんと伸ばして洗濯カゴに入れてって何回言ったらわかるのよ?」
「ご、ごめん!」
また、んん?と僕は首を傾げる。
何故だろう。
なんだかぼんやりと誰かを彷彿とさせる。
さらに、ある日の夜。
「うう…なんか…お腹痛い…」
「毛布をお腹にかけて寝ないから寝冷えしたんじゃない?ほら、ちゃんと羽織って?」
セリアは僕に毛布をかけてぽんぽんと優しく叩く。
僕は、んんん?とまた疑問に思った。
最初は小さな疑問だったものがだんだんと雪だるま式に膨れ上がっていく。
それに、セリアからの愛は妻からの愛情というより、なんというか…とてつもなく“母性”に溢れている気がする。
いや、前世も嫁なんていなかったから初めてだからわからないだけで、世の夫婦も皆こんなものなのかもしれないが…。
いくらなんでもまさか。
そんな運命の日は、僕が前世の家族を思い出しながら、しんみりしていた時に訪れた。
「どうしたの?浮かない顔をして…」
心配そうに声をかけてきたセリアに僕は精一杯の微笑みを向ける。
そう言えば、夫婦になったのにこれは伝えていなかったな、と。
もう夫婦になったんだから、秘密にする必要はないのかもしれない。
僕は勇気を出して伝えた。
「驚かないで聞いてくれる?」
「ええ、もちろんよ」
僕の手に自分の手を重ねて、セリアは微笑んだ。
共に過ごした時間は短くても、二人の間にある信頼感は確かなものだった。
「…実は僕、転生者なんだ。それで、前の世界に置いてきちゃった家族ーーーお母さんのことを思い出してさ…」
僕が思い切って打ち明けるとセリアは目を丸くして…それから、優しく微笑んだ。
「実は…私も話してなかったことがあるの」
「セリアも?」
僕は驚いてセリアを見れば、セリアは嬉そうに微笑んだ。
「…ルークが打ち明けてくれたから、私も言うね。実は…私も転生者なの」
「えっ、セリアも!?」
「ええ。私も時々思い出すわ。特に、ちょっとどんくさいけど可愛い息子のことをね」
気が合うなとは思っていたが、まさかの転生者同士だったとは。
息子ということはセリアは前世でも良き妻で、良き母だったのかもしれない。
それは想像に易かった。
僕はまた奇妙な共通点に驚き、それと同時にこのことさえ分かち合い、最大の理解者になれることが嬉しかった。
僕たちは互いの前世について、少しずつ語り合い始めた。
「僕の母さんはちょっとお節介でさ。よく食事や洗濯のことで怒られてたよ」
「ふふっ、わかるわ。私の息子もピーマンを器用に避けるような子だったの」
「奇遇だな。僕もそうなんだ。あと、布団を脱いでも脱いでも着せてきて、ぽんぽんと叩くんだよ」
「えっ…私も息子によくやってたわ…!」
「……ちなみになんだけど、僕の前世の名前は、鈴木…」
「私の息子の名前はね、健太…」
二人で顔を見合わせた。
「「…………え?」」
静寂。
目の前の美しいエルフとお互いの顔をまじまじと見つめ合う。
彼女の僕の好みを完全に把握する能力。
おかんのような怒り方。
そして何より、この居心地の良さ。
「…セリア、いや……もしかして、母さん…?」
「…ウソでしょ…?ケンちゃん…? あなた、ケンちゃんなの!?」
答え合わせ。
僕たちは弾かれたように距離を取った。
「えっ!? ちょっと待って!!? 僕たち、結婚式を挙げたよね!? 毎晩一緒のベッドで寝てるし、き、キスとかも…っ!!」
僕がそこまで言うと、セリアは大声で叫んだ。
「いやああああ!! 嘘でしょ!? 私、自分の息子に“ルークったら、可愛くて食べちゃいたい♡”とか言ってたの!?そんなの無理無理無理!前世の記憶ごと消え去りたい!!」
顔を真っ赤にして頭を抱えるセリア…いや、母さん。
僕もパニックになりながら叫ぶ。
「な、なんで気づかなかったんだよ!!」
「だ、だって! ケンちゃんは黒髪でメガネで猫背だったのに、ルークは金髪碧眼の超イケメンなんだもの! わかるわけないじゃない! むしろ“なんか妙に気が合って、放っておけない年下の可愛い男の子”だと思って惹かれてたのに…っ!」
「さ、最悪の種明かしだっ!!」
二人してベッドの端と端でうずくまって頭を抱える。
…どうしよう。
今世では血は繋がっていないとはいえ、前世では血の繋がった正真正銘の親子。
だけど、この半年間、僕たちは間違いなく心から愛し合って最高の新婚生活を送っていたのだ。
「…ど、どうする? 離婚…する…?」
母さんが、おずおずと上目遣いで聞いてくる。
その超絶美しいエルフの顔でその表情は反則的に可愛いが、中身は母親だ。
僕は葛藤の末に叫んだ。
「…できないよ! だって、ご飯の味付け完璧だし、僕の好みも完全に把握してるし、居心地最高なんだもん!!」
「ケンちゃん…っ!! そうよね。…まあ、よく考えたら私がお義母さんなんだから、嫁姑問題も絶対に起きないし?これってコスパ最強の夫婦じゃない!?」
「言ってる意味が分からないよ!」
もうお互いに頭が混乱していて、よく分からない。
僕たちは妙な連帯感と気まずさを抱えながら見つめ合った。
「毎日一緒にお風呂とか入ってたけれど、赤ちゃんの頃は毎日お尻拭いてあげてたんだし、今更よね!」
「それは言うなっ!」
異世界転生して手に入れた夢のような甘い新婚生活。
それは今日からお互いに“夫婦”と“親子”の境界線でバグり続ける、絶対に逃げられない前代未聞のラブコメライフへとクラスチェンジを果たしたのだった…。
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2.23.2026
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