物怖じしないと言っても限度はある
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白みかかった夕暮れの空の元。軽快に自転車のペダルを漕ぎ、学校へと向かっている最中に、思わず鼻歌が零れる。日頃は鼻歌をして移動などないのだが、今はすこぶる機嫌が良い。と言うのも、店での一件が思いもしない展開に好転したからだ。それは一重に千納時のお陰である。彼があの時、発言しなければ、こんな晴れ晴れしい気持ちで退社出来なかったであろう。
(本当、物怖じしないっていうけど、あそこまでいくと尊敬しかないな)
結局あの後、男二人には早々にお引き取り頂き、店内から出た直後、客から自然と千納時に喝采が送られた。それに彼は真顔のまま、会釈でそれに応え男等の一件は無事収まったのである。そんな功労者の彼だが、今日はいつもより遅くまで店に滞在しており、自分の退社する10分程前に会計をし店を出た。
(店を後にしてからの行動は読めないにせよ、もし途中で見かけたら、一言お礼言いたい気分だけど、この前みたいな事言われるのもしゃくだな)
今までの彼のリアクションが頭に蘇り複雑な思いで、ペダルをこいでいると、市道の交差点で信号に捕まった。車の通りは激しいながらも、道沿いには店が少なく。日頃から歩く人も疎らな道。と、進行方向渡って斜め右に、見たことある風貌の者達が視界を掠め、すぐさま見直す。すると先程の店から退場させられた、男二人に連れられるように千納時が枝道へと入っていったのだ。
(嘘だろっ、あれ絶対シャレにならないやつじゃん!!)
店での件からしても、ある程度の流れは理解出来る。すぐさま周りを見渡すも人もいない。
(どうしたら良いんだよっ)
今なら、何も見なかったという体でこのまま学校に行ける。
(でもそれってどうなんだよっ、千納時は確かに自分とは相性悪いけど、さっきの事思えば……)
だとしたら何が一番最善なのだろうか。相手は社会人どうにでも言いくるめられる事だってある。その時、自分の斜め後ろから、シャッターの開く音がしたのだ。すぐさま振り向くと、枝道が直線上に見える場所にあった店舗に赤提灯が灯る。どうやら居酒屋らしく、今から開店なのだろう。自分はすぐさま、そのスタッフに自転車を猛スピードで押しながら駆け寄る。
「あのっ」
「はい?」
「知り合いがヤバいんっすっ」
「はあ?」
自分はすぐさま道向かいの枝道を指し示し、それに促され、スタッフも目線を向けた。すると、案の定彼が二人に絡まれた上に、幸か不幸か一発腹を殴ったのだ。
「頼むっっ 直ぐに警察に連絡してくださいっ」
「わ、わかった。君はっ」
店の人に言い終わる前に自分は自転車をその場に置き走り始めていた。そして速攻信号が変わった横断歩道を渡り、枝道へと足を踏み入れると、千納時が胸ぐらを掴まれていたのだ。瞬時に走り三人の混沌とした渦の中へと飛び込み、彼の襟を掴む手を握ると視界に千納時の顔が視野に入る。どうやら自分が割り込む前に一発顔にもくらったらしく、頬に青あざがあった。その姿に一気に頭に血が上る。
「何してんだよっ、良い大人がっ」
「君は、あの店のスタッフか。いやだなここまでついてきちゃったのかい?」
「ちげーわ!! お前等となんて関わりたくもねーよ!! ただ、そいつが、居たからっ」
「へー友達だったりするの」
「いや友達ではない。ただの知人だ。それより、お前等の相手は俺の筈だが。余所見をしている暇がるのか?」
「はあーー 相変わらず、クソ生意気なガキだな。もっとお仕置きしないと駄目か」
その直後、もう一人の男が力尽くで自分の掴んでいた腕から離し、背後に両手をもっていかれる。そんな中、再度千納時の襟を掴み直し拳を上げた。彼は甘んじて受けるつもりらしく、微動だにしない。自分は背後の男の足を思いっきり踏む。
「いっっつ」
小さい悲鳴と同時に、両手が解放されると、ダッシュで千納時の場所まで向かい彼を突き飛ばした。その直後こめかみ辺りに強い衝撃を受けたのだ。一瞬意識が飛び、足がふらつく中、自分の肩を抱え込む感覚と共に、頭上から千納時の声が耳に届く。
「都築っ!!」
いつもの彼と違う口調の言葉の後、遠くから、数人の足音共に『こちらですっ』という誘導する声が聞こえる。だがそれ以降、何も耳から入ってくる事はなかった。
「っつう」
「軽い脳震盪みたいだな」
「ああ、モロにくらっちゃたもんな」
アイシングをこめかみにあて病院の待合い室で座っていた。その隣には頬に青痣が残る千納時が腰をおろしている。
とりあえず、事情聴取も先程終わり、やっと落ち着いた所なのだ。まあ結局こんな騒ぎになり、学校も行くような状態ではなく欠席した。第一こんな状況で登校したらえらい騒ぎになる。
(まあ定時制だしある程度の小競り合いはあるけど、全日制ってどうなのよ)
思わず千納時に視線を送ると、それに気づいた彼が、『何』と聞いてきた。
「いや、何だ、その…… 痛々しいな顔」
「それはお互い様だろ」
「まあそうだけど」
その後、互いに沈黙する事暫し。彼が両膝に肘を突くと指を組み、今度は千納時が、こちらをチラリと見た。
「…… あの時何故、俺を庇った? 黙って見ていれば脳震盪にもならなかった。いやそれよりもどうしてあそこがわかったんだ?」
「いや、偶然見かけただけ。ただ、店の件もあったから、こうなるんじゃないかなって思ってさ。まあ庇ったのは、体が勝手に動いたっていうか…… 昼間の事もあったし、すげーあの時は有り難かったっていうのも作用したのかもしれねーー ただ、やっぱり顔見知りが目の前でヤられるの見てるって結構辛いんだよな」
つい言うつもりもなかったような話しをしてしまい、苦笑いを浮かべ、照れ隠しをしつつ、彼を見た。すると、千納時はじっと、翠眼をこちらに向け自分を凝視している。その瞳はどこかいつもそこはかとなく漂う鋭さはなく、ただただ、自分を見つめているのだ。
「あ、あのっ 自分そのっ、ははは」
「この前俺が言った言葉を訂正するよ。君は偽善者ではない」
「じゃあ。何だよ」
「超ド級のお人好しだ」
「はあ? それ前者と変わんなくねー」
「違う。お人好しの方がイメージが良いだろ」
「いや、50歩100歩だ。っていうかさ、その毒舌どうにかした方が良くね。一長一短だぜ」
「そうか。俺の随一の長所だと思うだけど」
「それは絶対ねー」
「全否定か。残念」
すると、千納時がクスリと笑ってみせたのだ。彼の含みのある笑いは何回も目にしてきたが、今目にしている笑いは今までとはまるで違うやんわりとした雰囲気だ。そんな顔を見るのは初めてで、一瞬驚きもしたが張っていた気が少し解けたような感じがすると共に、千納時につられ笑みを浮かべる自分がいた。
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次回1月28日20時30分以降投稿
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