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White Out~雪と星空と冒険と~

作者: 遊月奈喩多

 皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申すものでございます!


 何もかもが雪に閉じ込められてしまう冬の日。

 それでも、夢はキラキラと輝いて。


 本編スタートです!!

 その日は、猛吹雪が街に吹き荒れていました。

 白く重たい輝きの中に(とざ)された街は、静かです。

 街灯の明かりも微かに、ぼんやりと見えるだけ。

 人々の足音も、もはや聞こえません。


 氷の中で乱反射するイルミネーション。

 凍てついた目抜き通り。

 人々の営みも、もはや見当たりません。


 ゲルダは、友達と路地で遊んでいました。

 友達の名前は、アパ。ゲルダがこの路地に流れ着いたときから一緒にいる、愛嬌たっぷりの小ネズミです。家族もなく、人間の友達もできないゲルダにとっては、心を許せるたったひとり──たった一匹の相手。アパがいれば、寂しい夜もへっちゃらです。

 家族と暮らせていた頃を思い浮かべてしまっても、売り物を買ってくれたおじさんの機嫌を損ねて代金すら貰えずに追い出されても、それとは逆に気に入られ過ぎて気を失いそうなほどへとへとになっても、路地の外を幸せそうな家族連れが通り過ぎるのを見てしまっても。

 ゲルダには、アパがいます。

 アパにも、ゲルダがいます。

 二人三脚で騒がしい春を越えました。

 暑い夏を耐え忍びました。

 寂しい秋をやり過ごしました。

 そうして迎えた、静かな冬。


 例年ならクリスマスやカウントダウンイベント、新年を祝うお祭りで賑わう街も、連日の猛吹雪ですっかり静まり返っていました。聞こえてくるのは、ビュウビュウと吹き荒ぶ雪風の音だけ。たとえ路地に身を潜めても、冷たい雪が肌を傷つけて、手足を凍らせます。

 ゲルダはその小さな身体を震わせながら、アパに話しかけます。


「わたしね、お客さんのおうちでパンをもらってきたの。おこられちゃうから、みんなにはないしょね? ほら、いっしょに食べましょ」

 すっかり冷えきって、歯が痛くなるほど硬くなったパンを、ゲルダとアパは分け合って食べました。アパの方はネズミなのでへっちゃらでしたが、ゲルダの震えてうまく噛み合わない歯ではうまく食べられません。とうとうパンの欠片を胸に締まってから、「そうだ!」と明るい声で言いました。


「わたしのお父さんね、むかしはせかいじゅうをぼうけんしていたんだって! 今からそのお話してもいい?」

 ゲルダの膝に乗ってパンを貪っていたアパは、まるでその言葉を聞き付けたように口を止め、じっとゲルダを見つめ返します。その仕草は、いいよ、と返事をしているみたい。

 ゲルダは嬉しくなって、あのね、あのねと震える声で話し始めます。


「お父さんはね、むかしはふなのりだったんだって。おふねに乗って、いろんなところを旅するの。ずっと砂ばっかりの国とか、海にかこまれた国とか、それからすっごく暑くてずっと森ばっかりの国とか!」

 ゲルダのお話を、アパはつぶらな瞳を開いたまま聞いています。気をよくしたゲルダは、更に話を続けました。

「お父さんとお母さんが会ったのも、そのぼうけんのとちゅうだったんだって! おっきなおっきな船の国! お母さんはそこのおひめさまだったみたいなの。いろんな国を見てみたいってお母さんがついてきて、そのうちおたがい好きになってけっこんしたって言ってたんだ。えへへ、そのお話するときのお父さんがすごく嬉しそうでね、なんだかわたしまで嬉しくなっちゃうの。

 それで、けっこんしてからも、いろんなとこをぼうけんしたんだって。たかい山の中に作った国できれいな滝を見たり、あとね、海の水が少ないときしか入れないどうくつとか! ずうっと中まで行くと空が見えて、光がキラキラしててすっごいきれいなんだって! いつかわたしもいっしょに行こうって言ってたんだけどな……」


 ゲルダは、お父さんとお母さんが旅したいろいろな国の話を大切な友達に語り聞かせました。何も言わず、ただじっとゲルダを見ているアパの姿は、まるで相槌(あいづち)を打ちながら寄り添ってくれているみたい。ゲルダの目は、更に眩しく輝きます。もう、暗い吹雪の夜なんてちっとも見えていないみたいに。

 手の中でただじっと動かない小ネズミに向かって、ゲルダは満面の笑みを向けながら、薄く雪の積もった地面に指を当てます。楽しい話をしているからでしょうか、指が雪に触れてもちっとも冷たくありません。

 そのまま、ゲルダは指を使って雪の上に絵を描き始めました。真ん中にゲルダとアパ、そして両脇にはお父さんとお母さん…………さて、困りました。ゲルダは、お父さんの顔もお母さんの顔も知らないのです。ゲルダをゲルダと名付けたのは、最初に彼女の売り物を買ってくれたおじさんでした。それまでのことなんて、覚えていません。

 少しの間、指が止まります。

 けれど、またすぐ動きました。


「わかんないけど、きっとこんなかんじ!」

 知らないなら、想像すればいいのです。


 想像すれば、知らなくても平気です。

 いいえ、むしろ知らないからこそ、ゲルダのしてほしい顔のふたりを想像できます。ゲルダは、路地の影から見かける、楽しそうに談笑する親子連れの顔を想像します。


 きっと、ゲルダのお父さんもあんな顔。

 たぶん、ゲルダのお母さんもあんな顔。


 ゲルダは、楽しい親子の姿を想像しながら雪の上に絵を描きます。

 お父さんならこんな話をしてくれる。

 お母さんならこんなことを教えてくれる。

 そんなふたりに囲まれて、ゲルダとアパはにっこり幸せな笑顔。

 せっかくだから、周りには冒険したい世界中の景色も描いてしまいましょう!


 雪の上には、無数の線がのたくっています。

 あちこちに向かって曲がったぐにゃぐにゃの線からは、楽しげな気持ちばかりが伝わってきます。瞬く間に吹雪に埋められてしまいますが、それでも落書きは描かれ続けます。


 きっと冒険家だったお父さんと。

 きっとお姫様だったお母さんと。

 優しく寄り添ってくれるアパと。

 みんなに囲まれて幸せなゲルダ。


 もうぴくりとも動かない小ネズミを抱えたまま、ゲルダは楽しい冒険の話をします。震えた声はもはや誰にも聞こえませんでしたが、きっとアパには繋がっているはずです。

「さいしょはどこ行く? お父さんのぼうけんがはじまった、みなと町? それとも、いろんな色の花がさく、お花畑の国? みんながいつもおどってる、おまつりの国もおもしろそう!」

 きっと、街の外にはこんな国があるはず。

 想像を働かせて、ゲルダはたくさん話します。


 指が黒くなるのも構わず、夢中で落書きをして。

 喉が凍てつくのも構わず、夢中で空想を語って。


 その声は、吹雪に閉ざされた路地の奥で、いつまでも楽しそうに響いていました。街の誰にも聞こえない、秘密の冒険の物語。それはそれは楽しい、夢のような冒険譚でした。


 そして、ゲルダとアパは手に手を取り合って、遠いところへと旅立ちました。

 雪解けの後で見つかったその顔は、とても楽しそうに笑っていたそうです。

 前書きに引き続き、遊月です! 本作もお付き合いいただきありがとうございます! お楽しみいただけていましたら、幸いです♪


 知らないことも、いいえ、知らないことであればこそ、人は想像の翼を広げて飛び立つことができる──そんなお話として書かせていただいたお話でございます。

 いつであっても、想像はキラキラと輝いていてほしいものです。

 皆様の夢、そして想像も、輝いていてくださるように──


 また別のお話でお会いしましょう!

 ではではっ!!

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