プールⅢ
「まずは…準備運動からですね~。」
先生が静かな声で準備運動の開始を告げた。
無音だったのでりんが口笛で楽曲を吹いていた。
多分りんは知らないのだろう。ラジオ体操と準備運動の違いを。
ラジオ体操の曲はある。けど準備運動の曲は…ない。
りんは途中首をかしげながらも口笛を続けていた。運動と曲がずれているのに気づいたからだろうか。
「はぁ~…プールに入らないと…りんちゃんなんでそんなこと言ったの…?」
セコはずっと頭の中からりんが満面の笑顔で言った「そうだ~!あ、知ってた?学校のプールって冬は虫が卵を産んだり、ごみがたまってたりして結構汚いんだ。」という言葉が忘れられないのだ。
「いいか銀涅。負けた方は炎天下の中買い出しとおごりな。」
銀涅が先ほど言っていた勝負の負けた方の罰ゲームを決めた。銀涅もうなずいたため成立。
だが、とんでもなくつらい罰ゲームなのではないか。
炎天下。真夏の中買い出しに行く。しかもそれはすべて負けた人のおごり。
「う~ん…最初はシャワー浴びてきて~。多分寒いけど頑張ってね。」
先生は明るい声だが、言っている内容は地獄だ。プールのシャワーを体験したことのある人はわかるかもしれないが、地獄だと思う人は本当に地獄のように感じる地獄のシャワー。
「いやだ!私嫌だ!地獄のシャワーなんて浴びたくない!地獄ってことは…炎が噴き出してたりしたがマグマだったり…酸性雨が降ってきたり…地面が落下したり…落雷が降ってくるってことでしょ!?」
りんの想像している地獄のシャワーは想像以上のものだったらしい。
「大丈夫だよりんちゃん…りんちゃんを傷つけるものは私がていやーってボコしてあげるから!」
「ありがと~!じゃぁ地獄のシャワーっていう最悪な空間も破壊してくれるの?!」
なつはいった言葉の重さを今実感した。りんの嫌だと感じたものを壊す。地獄のシャワーを壊さなければいけないということを。地獄のシャワーを壊すことはなつ自身も望んでいるが、壊したら先生も学校も黙っていないだろう。
「りん。多分お前が想像している以上にシャワーは怖くないぞ。」
はおがなつのことをアシストした。
「え!?本当?炎が噴き出してたりしたがマグマだったり…酸性雨が降ってきたり…地面が落下したり…落雷が降ってくるような場所じゃないの?」
りんが目を輝かせながらはおに迫った。とてもうれしそうな顔で。
「そうですよりんさん。ちょっと冷たいだけです。」
「やった~!!」
シャワー
「ア”ババババババ~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
りんは胸の前で手を合わせて滝修行のようなポーズでシャワーを浴びに行った。
「早くいけ…俺もう抜けたいから早く進んでくれ!!」
「ぎゃ~~!絶対前の年より気温下がってるってこのシャワー!!!」
はおとなつが悲鳴をあげながらシャワーを通過していく。
「りんちゃんが神々しすぎてシャワー壊れてくれないかな~。」
ゆいはりんが神々しすぎてシャワーがおかしくなって壊れてくれないかなと考えるも無理。
銀涅と石涅はにらみ合いながら無言で通過。セコとラムはシャワーの水が出ていない場所を発見しその場所をうまく通りながら通過。ひすいは普通に浴びる。
「滝修行なう☆」
りんがシャワーを通過した後笑顔でそう言った。
「滝修行なうだ…。」
「よーし水分ちゃんととってから入水の儀式だ。」
入水の儀式とは、大げさすぎるが、足だけプールに付け手で水を体にかけるアレだ。
たまに隣の人がかけてきたりすることがあるので結構しんどい。
「本当にこの水かけるやつやりたくないの。セコ…笑顔で水かけてこないで。」
ラムが今にも死にそうな表情でセコのほうを見た。そしてセコに笑顔で水をこっちにかけないでくれといった。セコ自身かけてるつもりはないのだが、どうしてもラムのほうに行っちゃうらしい。
「滝修行なうの次は…入水で…その次は…。」
「クロールだ。」
「じゃぁそこだな。」
銀涅と石涅はクロールで対決しようとうなずき合った。
「水魔法~水爆弾~水呪文~水鉄砲~!」
りんがノリノリのリズムでそう言いながら水魔法を生成していた。
そのあとに水爆弾と呪いという単語が入っているのはとても不吉だが見て見ぬふりをしておこう。
「溺死~破滅死~呪詛魔法~!」
「え?今すんごい怖い単語言ったの誰だよ…。」
「し~らね。」
ークロールー
「えっと…多分事前に分けたと思いませんが、距離を伸ばしたい人と時間を短くしたい人で分けるんですよこのプール。去年は得意不得意だったと思いますが…。」
「(うん。決められてない。)」
「(決められてないよな。)」
先生は事前に決めてないらしいが、泳げる距離を伸ばしたい人とスピードを上げたい人で分けるんだと。
距離を伸ばしたい人グループに手を挙げたのは、はお、ラム、セコ、ゆいの4人。
スピードを上げたいグループに手を挙げたのは、りん、ひすい、銀涅、石涅、なつの5人。
多分上4人が泳ぎが苦手な人たちで、下5人が泳ぎの得意な人たちだ。
「1・2・3レーンは距離を伸ばしたい人用で…4・5・6レーンは時短チームが使ってください。」
「は~い。」
こうして本当にプールが始まったのだった。
「おっしゃ最初に練習として一回25メートル泳ぐか。」
石涅がそう言った。軽く準備運動をしてプールの中に入った。
本当は飛び込みたい気分満々だったのだが、学校のプールだとだめらしいのでちゃんと入った。
「う~ん?プールって何すればいいの?」
りんが首をかしげながらなつに質問をした。なつはそんな姿を見て頼ってくれるのがうれしいのが半分。悩んでる姿のりんちゃんもかわいいなと思っていた。
「りんちゃんは私と一緒の時間を縮めたい人のコースに来たから…25メートルあるでしょ?それを泳ぎきるまでのスピードを上げるって感じ?25秒だったなら…20秒まで縮める~みたいな。」
「どうやって?水の中歩いてもそんな早く歩けないよ!?」
りんはどうやらわかっていないらしい。プール=水の中を歩く。だと認識してるっぽい。
「泳ぐんだよりんちゃん。多分歩いてても泳いでいてもどっちも神々しくて美しいと思うんだけど…クロールと背泳ぎとか平泳ぎとかっていう泳ぎで25メートル進むの。」
「何の泳ぎが一番早い~?」
「まぁ人によると思うけど…クロールとかじゃないかな?」
「じゃぁ平泳ぎにする!」
一番早いのを教えてもらってもそれにせず、泳ぎの中で一番スピードが遅めて言われている平泳ぎを選択した。
「これって高速移動魔法とか瞬間移動魔法でパッと行ったら2秒くらいでつくんじゃない?」
セコが明るい声でそう言った。その瞬間周りのはおやラム。ゆいがそれは違うよという顔で一斉にセコを見つめた。
「え?だって魔法禁止って言われてないじゃん。」
「…まぁ確かにそうだけども…。」
「よし使うか!」
セコはそう言ってプールに入った、高速移動魔法《自分の移動するスピードを速くする魔法》を使用した。2秒後にはセコは25メートルの反対側に元気に立っていた。
「…一回は泳がないと成績が下がっちゃうから…頑張るの。高速移動魔法。」
ラムもけだる気ながらプールに入り高速移動魔法を使用して反対側へといった。
もちろんこの悪事を見逃すほど先生も甘くはなかった。
「ラムさん…?あなたどうして高速移動魔法を使用したんですか?そんなに倍返しされたいほどドМでしたか?」
「…ドМは違うと思います…。正直に言うと…めんどくさかったから…です。」
らむが魔法を使用したことには気づいているようだが、セコがやり始めたことには気づいていない先生。
らむの後ろでセコははぁ~と安どしたように息を吐いた。
「じゃぁラムさん他に共犯者は?」
セコは耳をふさぎ目をつむって座った。ラムはそんなせこをじーっと見つめながらこう言った。
「…いません……(セコがやったの。セコがやり始めたの。セコがやったのになんか言いづらい…。)」
「でもでも!先生先生!高速移動魔法が許されるなら水爆弾もいいじゃないですか!」
りんが割り込んできた。
「…あのねえりんさん…。私は今高速移動魔法を使わないでと説教していたんです。話を聞いていたならちゃんと聞いていてください。」
「…わかりました!なるほど…水爆弾は使っていいと…。」
りんは目を輝かせながら大きくガッツポーズをした。水着のポケットから爆弾らしきものを取り出して…水の中に入れようとしたその時。
バンッ
先生のバットが復活して水爆弾をぶっ飛ばした。ホームラン越えのホームランがさく裂した。
「あぁ!私の水爆弾が!!でもダイジョーブ!ポケットには常備3個!最大10個入ってるから!」
「じゃぁそのポケット全部逆さにして出してください。」
りんのダイジョーブは一瞬にして先生によって崩されたのであった。
「…えっとりんさん。あなたがずっと言ってる水爆弾とはどのようなものですか?」
先生も知らなかったかい!
「えっとですね~。まず市販の爆弾をネットショッピングで買って…それの火薬をちょこっと改造してですね…水爆発魔法といって独自で編み出した爆発したら大量の水が降ってくる魔法の魔法陣をぶち込んで…それに着火をしたら魔法以上の威力で爆発して、魔法以上の威力で水が降ってくる奴なんですよ!これはノーベル賞受賞できるな~って思って今もっと制度と威力をあげてるんです!」
この大声は町全体に響き渡った。突然届いた一切悪意のない少女の声は町全体を震わせた。
買い物中のお母さんは食材を落とし音の聞こえた方向へと降りか向く。
よぼよぼと歩いていたおじいさんはびっくりしすぎて固まる。
元気よく走り回っていた子供は急に止まり泣き出す。
先生に説教されていた生徒も、説教をしていた先生も驚きのあまり説教が終る。
家で楽しく小説を書いていた人は驚きのあまり気絶し椅子から落ちる。
はおも気絶。セコはラムの肩を強く握りながら失神直前。
なつとゆいは尊死寸前。ひすいは固まる。銀涅と石根はレースを中断しプールから上がる。
先生は青ざめた顔でりんを見つめていた。
「え?みんなどうしちゃったの!?」
りんもまた、一切悪意のないような声でみんなを心配した。




