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エピローグ


「レプン!魔法学校へ行くぞ!お迎えじゃ!」


 魔法学校は長期休暇を目前にしていた。

 俺含め、村の住人は浮き足立っている。


 休暇にあわせ、フィオの送迎に誰が行くかの話ではあるが、今回の人員は一人だ。

 そして、確定で爺さんとなる。


「俺は留守番だ。最近の通行税の値上がりで、山越えの客が多い。それを狙って変な輩も多い。

 フィオ達が戻るまでに、山を掃除したいんだ」


 村も山も人が増える。俺と爺さんが二人揃って村を離れれば、山の治安維持に手が回らなくなるだろう。

 野盗探しは俺が向いているし、治安の悪化は大使館のある町にも影響する。

 エレナや大使の行き来もあるのだ、安全にしたい。


「じゃあ、わしがそれやるから、お前がお迎えに、」


「爺さんだと山の地形が変わるので駄目です。

 フィオとエレナによろしくな。あと、見かけたら、外交官サマにも」


「尚更お前が迎えに行くべきじゃろおお」


 とごねる爺さんを送り出して、十日が過ぎた頃。


 護衛ついでに山の様子を見て周り、俺は町からとんぼ返り。

 見上げた空は薄明。欠伸を一つ。村に帰還だ。


 反響定位を開始。

 予定通りであるなら、俺が不在の間に帰宅しているはず。


 ――この感じ、予定通りのようだ。

 泊まりの客もいるが、共に迎えに行った伯父殿や森妖精の護衛の誰それかもしれない。


 これは異常なし、と見ていい。

 このまま起きて待つのもいいが、俺の想像上のフィオさんが、

『レプ兄ただいま、おかえり、おやすみ!』と突っ込んできたので、おとなしく今休むことにする。


 店舗兼自宅の裏口に施錠はなく。

 扉を開けて、廊下を進む。


「帰ったぞ、レプン」と爺さんの部屋から聞こえた。


「おかえり、爺さん」と返す。


 あとはいつも通りだ。

 水を浴びて、身綺麗にしたら、二階の自室、ベッドに転がり。


 物凄く、見知った気配がするというか。

 慣れ親しんだ気配がするというか。

 少し、ほんの少し海の匂いがしたことも、気になるといえば気になるが。


 今は、おやすみなさい。 

 



 ×××××





 数時間後。


 もうすでに待機している姿が扉の向こうに見えてしまっている。

 カウンターにいる爺さんのニヤつき顔に見送られ、受け止める覚悟を決め、からころと扉のベルを鳴らし、店から出た。


「レープー兄ー!!!」


 突撃少女だ。しばらくぶりの再会、フィオが力強い踏み込みから飛び込んでくる。


「ただいま!レプ兄ただいまー!!」


「おかえり、フィオ」


 受け止めたフィオにごりごりと頭をすりつけられながら、

 タイミングを窺っているらしいもう一人の少女に手招き。

 しずしずと寄ってきたエレナは、フィオごと俺に抱きついた。


「エレナもおかえり」


「レプン兄さん。ただいま戻りました」


 口調が穏やかだが、この子もごりごりに頭をすりつけてくるタイプだ。

 この調子だと、数年の内にさらに力をつけ、二人がかりで押し倒されてしまいそうだ。鍛えよう、体幹。


「レプ兄、実はね、村にお客さんが来ているんだよ。

 私たちも吃驚したんだけど、グランさんが海妖精の人に『お前も土産だ』って言って、」


「待った、ちょっと心の準備させてくれ。

 そして準備の間、別の話をしてほしい」


 両腕を妹分という華にがっちり掴まれ挟まれているので、顔を覆うことも眉間を抑えることも出来ない。


「では私から、別の話を。

 迎えが来た日、海妖精の女王陛下が、視察のため町の商業区を訪れていたんです。

 女王陛下はとても美しい方で、フィオと一緒に見惚れていたんですが、

 グランさんが女王陛下の隣に控えていた 海妖精の男性に声をかけて、」 


「それは同じ話にならない?フィオのそれと繋がってない?」


「はい、繋がっています。

 彼は私もお見かけしたことがある、外交官の方でした。

 グランさんとは顔見知りらしく、連れて帰る帰らないの押し問答が始まって、」


「結局、間に女王陛下が入って連れ帰ることに成功したんだ!村にしばらく滞在してくれるよ!

 もう、レプ兄も言ってくれたら良かったのに、ミトラさんが友だちだって!」


 ……いや、会うつもりではいたさ。

 会いに行くつもりでもいた。

 でも向こうは多忙な外交官サマだぞ、何連れ帰ってきてるんだ親父!

 

「……ところで、君ら二人、俺を挟んで歩かせているけれど、どこに向かっているのかな?」


「グランさんが、レプ兄は照れてすぐに会いに行かないから、連れて行ってやってくれって。ね、エレナ」


「はい。レプン兄さんの照れ顔を拝見したい所ですが、私たちは後ろ髪を引かれる思いで退散します。ご安心を」


「やめてくれ。せめて普通に、普通に連れて行ってくれ」


 ミトラにこんな姿を見られたら『稚魚みたいな年の子に連行されてる……』などという顔をされてしまう。


「ミトラさーん!レプ兄連れてきましたー!!」


 大きく手を振るフィオに対し、森妖精の護衛(男)と話していたらしい海妖精が、俺の姿を確認してしまう。


「稚魚みたいな年の子に連行されてる……」


 くっそ聞こえちゃったなあ!ミトラの呟きが!

  

 会釈して去る森妖精(男)の代わりに、海妖精の前に出される俺。


「じゃ、レプ兄頑張って!」

「私達、順番は待てます!」


 と走り去る妹分達。


「笑っていい場面だよね?」


 と笑う、見間違うはずのない、爺さんに連行されて来た親友。


「……俺は早朝に村に戻って、寝起きの今だ。

 状況は全くわかってないぞ。何がどうしてお前がお土産になって、こんな内陸まで来てるんだ。海遠すぎて心配になるぞ海妖精」


「海遠くとも、日常行動に支障は全く無い海妖精の僕が、君へのお土産になった怖い経緯聞きたいの?

 僕、結局一度も『はい』と答えていないからね」


 ミトラ曰く。

 女王と共に商業区の視察中、ミトラは警備隊から言伝を受けた。

 とある人物がミトラを名指しで呼んでいると言う。

 周囲を見回せば、グラン・ダハーカが手を振りながらミトラを呼んでいた。


 この時点でもう、申し訳なさで心がいっぱいというか。


「陛下は……ほら、ダハーカさんの現役時代に、ごりごり前衛張ってた方だから、やっぱり顔と名前を知っているんだよ……

 もうテンションあがっちゃって……」


「俺でも爺さんの顔と名前知ってるぐらいだ、陛下なら当然知ってるよな……」


「陛下に行ってこいと送り出されたんだけど、……もう、わかりやすいぐらい聞き耳立てているし、ダハーカさんは『お前がお土産になれ』って言い出すし。

 お土産の意味は理解出来るけど、出来るけどね?」


「すまん……すまん……!」


 そこで間に入ったのが女王陛下である。

 爺さんの言い分、休暇を取って村に遊びに来ないか、という誘いを二つ返事で許可してしまった。


「ただの休暇にすると僕が休めないからって、仕事を預かってはいるんだよ。


 ダハーカさんの側にはフィオちゃんと、アーデルノイアのご令嬢もいた。

 フィオちゃんが側仕えの立場で入学した事はこちらも知る情報であったし、

 陛下にとっても、森妖精とのツテはほしいものだった」


「大使への書状を預かった、ってことか」


「その通り。ご令嬢の護衛に、大使の直属の部下もいらっしゃったから、もうトントン拍子に話が進んじゃって。

 僕、本当に、『行きます』とも『はい』とも言ってないのに……」


「なんだよ、嫌だったのか?俺に会うの」


「………………、」


 海妖精は、感情が高ぶると瞳孔が開く。

 黒に浮かんだ青の円環は、ため息と共に一度閉じられ。


「君の存在を表に出したくなかったんだ。

 ……僕がこの年で、会うのを楽しみにするような個体、新たに出来るわけないし。

 まぁ、ダハーカさんが、しっかり、よりにもよって陛下の前で、君の存在を出してくれたけどね!」


「うちの爺さんが重ね重ね……」


「いいよ、僕、幼体趣味でもなんでも言われる覚悟を持って、ここに来たし」


「本当にごめんな!?」


「ごめんと思っているのなら、村の皆さんへの説明に協力してよね。

 村長さんには滞在の許可をもらえたけど、僕の存在、ダハーカさんの完全独断だから。

 こんな内陸の村で穏やかに暮らす人達の前に、僕みたいな海妖精が現れたら、怯えられてしまう」


 爺さんが連れ帰った時点で認められているようなものだが、それは俺たち村の住人内での話。

 ミトラは俺の客でもあるし、俺が筋を通すべきだろう。


「わかった。お前は俺の客だ、俺が説明して回るよ」


「ありがと、ここは静かで良いところだけど、僕の存在で皆さんの生活に影をさすわけにはいかないから」


「俺は光差す気分だけどな」


「……君のそういう所、三周ぐらい回ってようやく腹が立つよ」


「なんでだよ」


 慣れた相手との会話は楽しいもので、自然と口元に笑みが浮かんでしまう。


「エレナ!来たぞ!おかえり!フィオ!君もおかえり!!」


 そして、空から降ってくるように聞こえた元気な声が一つ。

 森妖精、件の大使殿だ。

 姿を探すと、いた。村広場にいる。

 連れはいない、――いや、今森妖精の護衛(男)が駆け寄っていく。

 これは間違いなく、個人的な訪問だろう。真っ昼間に町から飛んできたな。


「ミトラ、大使殿が来たぞ。

 だがあの感じ、間違いなく無断のお忍びだ」


「忍んでいるように見えないけど?」


「大使だからな。仕方がない」


「……道理で。森妖精の彼との親近感に納得がいった。

 お互い、奔放な上司を持ったね……」 


 森妖精(男)もミトラの上司の所業を目の当たりにしていたはずだ。

 きっとミトラより先に、種族違いを乗り越えた、仲間意識をもったことだろう。

 

「レプン!レプン!私が来たぞ!どこだ!」


「こっちです、大使。昼間から堂々とやって来て、また叱られても知りませんよ」


「その時はな、誠心誠意謝ればいいのだ!それで解決だ!」


「なにも解決してない……うっ……陛下と同じことを……」


 俺の後ろではミトラが呻き、視界内にいる森妖精(男)は苦笑いだ。大変だな。


「うむ、私の部下と共に村へ帰還した海妖精とは、貴殿のことだな!

 すまないが、完全に私用で来ている。

 挨拶は後日にお願いするが、よろしいか?」


「はい。こちらからお伺いします」


 さて、ミトラの前で披露されている、大使モード完全オフのいつも大使であるが。


 俺を見て、俺の側にいるミトラをまじまじと見て、振り返り、森妖精(男)に外すよう合図をした。

 そして、そろりそろりと、警戒するように、俺たちの方へ歩み寄る。

 何か言いたげなその表情に、察しがついた。


「大使、こちら俺の、“耳の良い”親友です」


 大使が気になったのは、俺とミトラの関係性。

 俺が誰であるかを知るか否かで、彼女なりに、対応を変えるつもりなのだろう。


「ミトラ。彼女は昔出会った、“耳が良い”子だ。俺を知ってる」


「…………、ああ、そういうことか、理解した」


 ミトラと大使はお互い見つめ合い、先に動いたのは大使だった。

 力強く手を出し、ミトラに求めたのは握手。


「ライラック・ラス・アーデルノイア。

 レプンの二番目の女になりたい女だ。よろしく頼む」


「!??」


 な、なに言ってんだこの大使!!


「それは男女混合制?別?」


「別だ」


「それならいいか。

 ――ミトラ・レジス。レプンの一番目の男です。よろしくね」


「二人そろってなんて挨拶だよ!」


 固く握手まで交わす二人。

 なんだそのお互いへの頷きは。

 

「わかる者同士であるなら、ちゃんと挨拶すべきだろう。

 私はお前の二番目を狙っているわけだし」


「二番目だなんて言われちゃうと、君への配慮が見えるし、僕も乗っかるしかないと言うか」


「大使、恥ずかしい事を言い出すな。ミトラも乗るな」


「私は言わないで後悔するより、言ってから恥じたい。私はこれからも堂々とお前に恥じていく!」


 顔を真っ赤にして言う台詞ではない。頼むから無理をしないでくれ。


「君、相変わらず女誑しだね。妹分とかいうお嬢さん二人といい、相当だ」


「誤解だ」


「ふふん、私は負けないぞ」


「こんなの、俺、すごく悪い男みたいじゃないか」


「君は悪い男だろ?」

「お前は良い男だぞ」


 同時に言うミトラと大使。

 お互い、わかる、と言いたげに頷いていた。わかるな。


 建物の陰から、こちらをちらちらと窺う二人もいる。

 店にいる爺さんは、きっとにやついているはずだ。

 村の皆も、それぞれの日常を過ごしていて、俺の生活も、この平和な村の中にある。


 村の皆は、俺が何者であっても、俺であるなら良いらしい。

 二人は、俺が俺だと認め、存在を許してくれている。


「…………これで良いんだよな、」


 ついこぼれた呟きを、耳敏い二人は聞き取っていた。

 ミトラは何も言わず穏やかに微笑み、大使は高らかに宣言する。


「当たり前だ、これで良い。

 お前はここで、幸せになるんだ!」





 



 終


 

ここまでのお付き合い感謝。

ありがとう。

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