第六話
青甘です。
今回から本編に戻り、第六話になります。
白い光の空間から、目の前の視界がひらけていくが、すぐに視界が大きな影に覆われる。
俺が驚いて上に目を移すと、そこには陽の光に反射して輝く白銀の体毛を有する、三メートルぐらいの狼と、呑み込まれそうなほど暗い漆黒の体毛を有する、これまた三メートルぐらいの、頭が三つある狼?がいた。
多分この二頭が、アルバスの言っていた従者たちなんだろうけど、人間じゃないじゃん、心臓に悪から先に言っといて欲しかった。
でもまずは、話しをしてみないことには進まないから、日本の言語が通じるかわからないけど話しかけてみる。
「あー、えっと俺の言葉は理解できる?」
『はい、理解しております。主人様』
「え?!、今ハルとは違う声がしたような…」
言葉を理解できるなら、首を縦に振るなどをして、自分の意思を主張をしてくるだろうと、考えていたから突然女性の声がして驚いたが、その声の先にいるのは、白銀の狼の方からだった気がした。
『この姿のときは、口から言葉を話すことができないので、念話魔法を使い主人様に直接、声を届けさせていただいております』
「凄いな…、そんな魔法もあるのか」
俺が知っているのは、火、水、風、土、光、闇の魔法に、空間魔法と重力魔法のみだったが、念話魔法という相手に直接声を届ける、便利な魔法があるなら覚えるべきだなと思った。
そして俺は最初の衝撃のせいで、自己紹介をしていないことに気がついた。
それからさっきから気になってはいたが、頭が三つある狼?の方の尻尾を振る速度が、徐々に上がってきていてた。
「えっと今更になるけど、俺の名前は双葉秋季、よろしくね」
『はい、末永くよろしくお願いいたします。主人様』
『はいはいはい‼︎、末永く僕たちのこともよろしくね‼︎、あるじ〜!』
『ふぅ、やっとあるじと話せたよ〜』
ギロッ
『ヒャン‼︎…』シュン
さっきまであんなに元気で、今にも飛びかかってきそうだったのに、白銀の狼に睨まれた瞬間に、完全に尻尾を巻いて縮こまっている。
なんでだろうな、最初は頭が三つの狼?も威圧感があったのに、今はあんなに大きい体なのに可愛いなと思う反面、可哀想に思えてくる。
というか本当に、この二頭がアルバスたちが送った従者であってるんだよな?
「それで、そちらがアルバスたちが送ってきた、従者であってるのか?」
『はい、私がアルバス様から従者の任を授かりました、フェンリルです』
白銀の狼の方がそう名乗った。
『あるじー、僕たちがアーテル様から従者の任務を貰った、ケルベロスだよ』
まだ少し元気がなさそうだけど、頭が三つある狼?がそう名乗った。
また少しずつ尻尾を振り始めているから、そのうち元の元気に戻るだろうと思いながらも、さっきからケルベロスは自身のことを〝僕〟ではなく〝僕たち〟と言っているのは、もしかして頭の数だけ自我があるのではと、気になっていた。
でもそれよりもまずは、これからどうするのかが気がかりでもある。
「なぁ、俺はこれから強くなって、この世界のことを知っていきたいんだけど、どうすればいい?」
『まずは主人様に私と主従関係を築いて、名を授けていただきます』
『あるじー!、僕も名前欲しい‼︎』
『けど僕たちは、三つの意思が一つの体にあるから、三人分の名前が欲しいです‼︎』
「わ、わかった…」
ケルベロスの発言に困惑したが、頭の数だけ意思があるってことだよな、それってどんな感じなんだろう、少し気になる。
けどそれよりも、アルバスたちが送ってくれた従者に対して、それも〝フェンリル〟や〝ケルベロス〟といった立派な名前があるのに、勝手に主従関係を築いたり、名前をつけてもいいのだろうか。
「ところでさ、フェンリルやケルベロスっていう立派な名前があるのに、名前が必要なのか?」
『主人様、褒めていただけることは嬉しいのですが、フェンリルやケルベロスは、名前ではなく種族名であり、主人様で例えるところの〝私は人族です〟と名乗っていること同義になります』
「…」
『あるじ、かわいいとこあるね〜』
ギロッ
『ヒャン‼︎、だ、だってぇ〜』
『黙りなさい』
『ヒャイ…』シュン
俺が勘違いで、恥ずかしい思いをしている間に、なぜかケルベロスの方がまた尻尾を巻いて、縮こまっていた。
俺は恥ずかしさを誤魔化しながら、話し始める。
「えっと、ところで主従関係って、アルバスたちがいるのにいいのか?」
『はい、そもそもとしてアルバス様たちとは、主従関係を築いておりません。あくまでも、下についていただけです』
あくまでもアルバスたちとの関係は、俺のいた世界でいうとこの、会社の上司と部下の関係ってことかな。
だったら次に聞くべきは、不満がないかだな。
「それと俺と主従関係を築くことに、不満はないの『ございません』か?…え?」
『あるじー‼︎、僕たちもないよ‼︎』
フェンリルの方が、俺が言い終わる前に被せて、不満はないと言ってきたことに、少し戸惑ってしまう。
それにしても、さっきから感情の振れ幅が大きいケルベロスを見ていると、無性に撫でたくなってくる。
一旦、二頭とも主従関係を築くことに問題はないとのことなので、話しを進めようと思うが、どうやって主従関係を築くのかを俺は知らない。
「ところで、その主従関係を築くのに、俺は何をしたらいい?」
『まずは、契約者のスキルをご確認ください』
「あ…」
俺は、目の前の二頭の迫力に圧倒されいて、スキルの存在をすっかり忘れていた。
俺は、スキルの説明をしてもらうために、ハルに意識を集中させる。
(ハル、契約者スキルの説明を頼む)
《バドスキル:契約者の説明を実行します》
《契約者とは、相手が自身と対等に契約する場合や相手が自身に従属する契約の場合、相手が自身に隷属する契約の場合などの、何らかの契約する際に使用します。そして契約には同意が必要です》
ということは、口約束なんかも契約に含まれるから、簡単な契約でも相手に守らせることができるということか、これは結構いいな。
残りのスキル確認は後にして、今は従者関係の話だから従属の契約に関してだな。
(ハル、従属の契約に関しての説明を頼む)
《従属の契約とは、契約者に対して従属したものは、契約者に対しての一切の敵対行動はできません。続いて契約者の命令は、基本的に絶対遵守であるが、例外として従属者が本心から嫌がる命令には、従属者は背くことができる。以上のことを違反した従属者は、違反の程度により罰が執行され、例外が行われた場合は、その従属者の契約が破棄される》
(ハル、違反の程度による罰とは、例えばなんだ?)
《契約者からの〝食材を買ってきて〟程度の命令を違反した場合、命令を受けた従属者に少しの間、激痛が起こります。しかし契約者の秘密や不利益になるようなことを、従属者が話そうとしたり、書き残そうとしたりすると、その行動を起こす前に死にます》
つまりは、一切の敵対行動には、俺への直接攻撃だけではなく、俺への不利益も含まれている、そしてそれを行動に起こした従属者は、最悪死ぬ。
よく考えられているところは、従属者が行動を起こす前に死ぬこと、そうしないと死を覚悟してでもって考える奴が出てくるかもしれないからだ。
そして救いなのが、従属者が本心から嫌がる命令には、背くことができるところだ。
俺は、好きで従属者に激痛を与えたいわけでも、死なせたいわけでもないから、本心から嫌がっていることはさせたくない。
(ハル、説明ありがとう)
《…》
というか、ハルの説明を聞いて改めて思ったが、本当に従属関係になるのか?
説明は受けてないが、対等の契約の方がいい気がする。
「えっと、スキルの確認をしたんだけど、本当に従属関係にするのか?、対等の契約もあ
『従属でお願いします』
…はい」
『あるじー‼︎、僕たちも従属でお願いします‼︎』
「はぁ、わかったよ、じゃあ早速始めるね」
『お願いいたします』
『お願いします‼︎』
えっと確か、契約と同時に名前も欲しいって言ってたよな。
何がいいかな、フェンリルは白銀の毛をしているから、白から連想されるものは俺の場合、冬一択なんだよな、それでいて銀となると、つける名前が決まったな。
「まず、フェンリルの方から、契約をしてもいいか?」
『お願いいたします』
「?!」
〝我、双葉秋季は汝への従属の契約を要求する〟
『はい、お受けいたします』
「名前は、シラユキだよ」
契約者スキルを使用した瞬間に、口が勝手に動き出したから驚いたが、名前も考えてつけれたし、無事に契約が終わって良かった。
「これからよろしくね、シラユキ?!、え⁈ちょ⁈」
俺がシラユキに挨拶をしたその瞬間、シラユキが激しい光に包まれたので、驚いて取り乱してしまった。しかし次の瞬間には、シラユキの声が聞こえてきた。
「これからこのシラユキは、主人様に全身全霊をかけて尽くさせていただきますので、末永くよろしくお願いいたします」
初めてシラユキの声をちゃんと聞いたが、とても凛とした声だった。
でも今の俺が気になっているのはそんなことではなかった。
「な、なんで⁈、その姿をしている⁈」
そう、俺が気になったのは、シラユキの姿だった。
??「いやー、秋季は驚いてばっかりだねぇ」
「でもシラユキちゃんって、どんな姿をしているんだろうね」