第三話
青甘です。
第三話となります。
俺が考え事をして取り乱していると、アルバスから申し訳なさと慈愛の混ざった、複雑そうな顔を向けられていることに気がついて、冷静になった俺はアルバスに次の質問をすることにした。
「すみません、取り乱しました」
「いえ、元はこちらの責任ですから」
「ありがとう、次の質問をしてもいいですか?」
「どうぞ、何でも質問してください」
「お言葉に甘えて、そもそも〝神〟と〝魔神〟の違いって何ですか?」
「そうですねぇ、まず私は〝女神〟と名乗りましたが、神と女神に差はありません。単純に男か女かの違いです。ここは魔神も変わりません」
男女の違いはあれど、能力には差はないってことなのか、てことは別のとこが違うのだろうけど、どうしても魔神って悪いイメージがあるはずなんだけども、目の前の忘れそうになってた、無言で土下座中の魔神を見ているとそうも思えなくなっていた。
というか、そろそろ顔を上げて欲しいのでお願いをしてみることにした。
「あのー…、ところでそろそろアーテルさんのお顔を見たいなーと思っているのですが」
「あ、忘れていました!、アーテルそろそろ顔を上げて、魔神側はあなたから話してください」
「あぁわかった、では改めて私はアーテルと言う、さんなどの敬称は不要だ、今後よろしく頼む秋季」
「初めまして、よろしくお願いしますアーテル」
初めてアーテルの顔を見たが、纒う雰囲気はアルバスと似ているが、目元が猫目で顔の整った、アルバスとは違うタイプの美形だった。
そんなことを考えているとアルバスが神と魔神の違いの続きを始めてくれた。
「では神側の説明は私からいたします。神が司るのは『生命』『理性』『希望』などといった、主に正の側面を持った存在です
ーーーーー『生命』なき世界はなく、『理性』なき人は獣であり、『希望』なき未来に成長はないーーーーー
これが神の理念です、これを損なった神は何ものでもなくなり最後は存在そのものが消滅します」
「次に魔神側の説明だが、魔神が司るのは『腐敗』『欲望』『絶望』などといった、主に負の側面を持った存在だ
ーーーーー『腐敗』なき時代はなく、『欲望』なき人は機械であり、『絶望』なき過去に成長はないーーーーー
これが魔神の理念であり、これを損なうと神と同様何ものでもなくなり消える」
今の話を簡潔にまとめると、神と魔神は表裏一体の関係にあり、どちらが欠けても世界そのものが成り立たなくなると言うことになる。
てことは、最初に俺が魔神と聞いて悪だと考えたのは、やっぱり間違いだったってことになる。これは謝罪をしないと失礼になってしまう。
「アーテル、魔神と聞いたとき、勝手に悪だと断定して失礼な態度を一方的にとってしまった。申し訳ない」
「こちらは、気にしていないので問題はない。と言うよりも必要悪とはいえ、悪は悪に変わりないので気にしても仕方がない」
アーテルに気にした様子は全くなかったから良かったけど、俺がされてきた偏見を人間じゃないとはいえ、他人にしてしまったことに苛立ちを覚える。
そんなことを考えているとアルバスが、説明の続きをする。
「では説明の続きをしていきますね、神の行うこととしましては、前世にて善行を一定以上積んだ者に対して、元々の能力を上げる、又は新たな能力を与えた上で今世を与えたり、悪行を行った者には内容に応じて元々の能力を下げる、又は能力を取り上げた上で、地獄に落とすことを主に行っております。」
「次に魔神側だが、地獄に落ちて来た者が悪行に応じた場所にて、日々を一定以上過ごし終えると、魔神から許しを得て新たな生を与えられる」
「やっぱり、神や魔神にも仕事があるんですね」
今、疑問に思ったのだが、三百六十五日どこかで誰かが亡くなって、誰かが生まれるということは、神や魔神って年中無休で働く、超ブラックな職業じゃないか?
俺、そんな職場絶対に嫌なんだが…
「あのー、お二人とも休めてます?」
「「?…………あハハハハ‼︎」」
女神と魔神が二人そろって、腹抱えて笑っている…
俺は、そんなに変なこと言ったかなと思いながら、目の前の二人が、やっぱりどこか似ているなと考えていた。でもすぐにアルバスが話し始めたことで、そっちに意識を向けた。
「女神や魔神に対して、〝休めてます?〟など言ってくださったのは秋季が初めてです。ありがとうございます」
「あぁそうだな、心配されたのは初めてだ、ありがとう。だが心配はいらないぞ」
「えぇそうですね、神や魔神にも階級がありまして、階級によって役割があてがわれますので、休みはありますよ。それに私たちは、それなりに責任ある立場にいますので、緊急時などに動ける時間くらいは、あらかじめ確保してあるのですよ」
休みがあるのは良かったけど、結局は就業時間がないから、人間で考えると休日はあるけど、休日以外は二十四時間働き続けるということで、ブラックなのには変わらない…
どれだけ全能の力があると言われても、そんな超ブラックな職業は、俺には絶対に無理だと思った。
そんなことを考えているとアルバスが話し始めた。
「神と魔神の違いは他にもありますが、後は細々とした違いやここではない世界での違いになり、話が長くなってしまいます。なので疑問に感じたその都度説明をしたいと思います。他に質問はないですか?」
「でしたら、最後に一つだけ、俺と冬華に呪いと祝福を与えて遊んでいた、アーテルの部下の魔神?はどうなりました?」
「そのものは、神と魔神の両方の核を持って生まれた稀有な存在でして、本来魔神核を持ったものが祝福を行うと、先に説明したように理念を損ねたことで消滅するはずでした」
「でもそうはならなかった、神核を持っていたからですか?」
「はい、秋季のおっしゃる通りです」
「これは言い訳になるが、両方の核を持つ存在が今までにいなかったことで、魔神でも神核を持っていれば祝福を与えても消えないことに気づけなかった」
「つまりは、その魔神が神核を生まれつき持っていたことに、気がつかなかったということですか?」
「あぁ、そのものは生まれたときから魔神の特徴が前面に出ていた、黒髪、黒目、日に焼けたような褐色肌などな、だからこれまでの先入観から魔神と決めつけた」
なるほどね、神や魔神でも固定概念には勝てなかったわけか、いや人間の何万倍も生きているであろう神だからこそ、固定概念には抗えないのかもしれない。
でも、まだその魔神がどうなったかは答えてもらってないから、再度聞いてみることにする。
「それで結局のところは、その魔神はどうなったのですか?」
「特例措置として、神と魔神両方の核を剥奪の上、人界に落とし、惨めに過ごしてもらうために、アーテルから〝どんなに頑張っても何も成し遂げられない〟呪いを与えられました」
それってつまり、どんなに頑張っても何を頑張っても全てが無駄な努力という、アルバスの言葉通り惨めに過ごすことになる、俺からしたら哀れとしか言いようがない。
でも、これまでの話からすると神核や魔神核を取られた時点で消滅しそうなのに、そうならなかったのは何でだろう。
「アルバス、なぜ神核や魔神核を取られたのに、その魔神は消滅しなかったんだ?」
「それはですね、核とは言っていますが、それはあくまで能力や権能、スキルといった力の核であり、神や魔神そのものではないのです」
「じゃあ、消滅するのは理念を損なったときのみということですか?」
「はい、その通りです」
なるほど消えないから、力を取るしかないと、そしてアルバスやアーテルの話ぶりから、神はあくまで罰する存在で、魔神は許す存在だから殺すことができない。
なので人界に落とす。そしてただ人界に落とすと何をするかわからないから、呪いの罰という名の楔を打ったわけか。
あとは今まで気づけなかった、アーテルの部下の魔神がやっていたことに、なぜ気づくことができたかだな。
「新たに疑問ができたので、質問してもいいですか?」
「はい、いいですよ」
「なんで今まで気づけなかった、部下のやってきたことに気づくことができたんだ?」
「それは今回こちらに出向くきっかけになったことと、関係しております」
出向くきっかけということは、いよいよ本題に入るのか。
??「やっと前置きが終わりますか、長かったぁ!」
「異世界に行くのはまだですかね⁈、早く秋季の活躍が見たいです‼︎」