第二話
「では、早速この馬鹿が起こした問題について、話しましょうか」
「よろしくお願いします」
アルバスの言葉の所々にアーテルへの棘を感じるから怖いのだが、それをアルバスに読まれると、話しが終わった後に何を言われるか分からないので、怖いと意識をしないようにしよう。
「さてまずは、あなた『秋季』と呼ばせていただきます。秋季は、この十七年間で幾度となく対人関係のトラブルに巻き込まれてはいませんか。そしてそのトラブルが起こるたび、解決に導いているのは、秋季の妹『冬華』さんではありませんでしたか?」
「!・・・・・・そうです。俺は冬華に何度も助けられました」
俺の妹、双葉冬華は全てにおいて優れている。
頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗、更には努力を怠らない、自身の才能にあぐらをかくことなく、日々勉強の時間を作り、運動やストレッチを欠かさず、休みの日にはジョギングをする。
真面目で実直な性格だが、仏頂面な堅物というわけではなく、相手に冗談を言ったり、友人と談笑したりもする、そんな妹は学校で男女問わず、双方から高い支持を得ている。
(しかし俺のトラブルに巻き込まれやすい話を持ち出して、一体何の意味が
「意味はあるのですよ、そのトラブルに巻き込まれやすい秋季と、それを解決する冬華さんの関係性は、そこにいるアーテルの部下が、遊び半分であなた方に〝呪い〟と〝祝福〟を与えたせいなのですから」
呪いと祝福・・・・・・それ、なんてファンタジー?
「ちょっと待ってください、その話しから察するに俺は呪いで、冬華は祝福ですか?」
「その通りです」
「そうですか、妹が祝福に選ばれて良かったですよ。もし妹が呪いに選ばれていて、今の俺のような人生を歩んでいたならば、俺は神だろうがあなた方を生涯、恨み続けることになっていたと思います」
こんな仮定に仮定を重ねた話に、何の意味もないことは重々承知の上だが、こう言わずにはいられなかった。
気まずい空気が流れ、少しの沈黙の後、呪いや祝福とは聞いたが、実際の内容がどうなっているかは、聞いてはいないし気になったので、八つ当たりの謝罪の後に聞いてみることにする。
「先程はすみませんでした。アルバスやアーテルのしたことではないのに、八つ当たりをしてしまいました」
「いえ、気にしていませんよ。例えあなたの思考を読み、心境を知ったとしても、あなたの感情はあなたにしか理解できませんので」
謝罪をしたら、アルバスはとくに気にした様子もなく、俺に理解を示してくれた。
本当にありがたく思う反面、八つ当たりをしてしまい申し訳なく思う。
「ありがとうございます。ところで実際の呪いや祝福の内容は、どうなっているのでしょうか?」
「全て話すと長いので、一部だけですがまずは、秋季にかけられた呪いから話しますね、内容といたしましては、自身の周りにいる人の欲望、憎悪、悪意などの感情を増幅させ、理性を無くし、思考を鈍らせ、矛先を秋季へ向けさせることです。そして呪いの発動条件は、妹『冬華』さんが半径三メートル以内にいることです」
俺にかけられた呪いは、せいぜい悪意を増幅させる程度のものだと考えていたが、実際はかなり酷い内容だった。というか、これでまだ一部なのか・・・・・・。
しかし発動条件なんてあったのか、そこまで設定した、アーテルの部下って神は何がしたかったのだろうか。
そうなると、冬華が受けた祝福の内容も、俺はどんな最悪の事態からでも、最善の状態に導く能力と考えてはいたが、それ以上かもしれない。
「続いて冬華さんの受けた祝福は、自身にとって不満のある現状を打破する力、急成長、疲労軽減、そして兄である秋季の呪いに、影響された人に対してのみ威圧感を与え、冬華さんの発言が全て正しいと認識する力になります」
「わかりました。教えてくださり、ありがとうございます」
冬華の祝福、強すぎないか?
〝不満のある現状を打破する力〟って何、他二つはいいとして、最後の〝発言を全て正しいと認識する力〟とか怖いんだけど・・・
「アルバス、質問いいかな?」
「はい、構いませんよ」
「ありがとう、冬華の『自身にとって不満のある現状を打破する力』とは何ですか?」
「内容は、冬華さんが不満に感じたことをどうにかしたいと思った瞬間に、その不満を解消する案を即座に思いつき、その案を行動に移した場合、冬華さんの不満が、思いついた案で解消される未来が確定するというものです」
「例えば俺の身に実際におきた、痴漢の冤罪が今の話になりますか?」
「その通りです」
痴漢の冤罪とは、俺が高校一年の春頃に『兄様の高校で首席合格をしなければ、妹として恥ずかしくて兄様に合わせる顔がありません』と言い、俺がどこの高校に行っても良いように、中学生になってすぐに受験勉強を始め、俺が高校の行き先を決めてからは、一緒に受験勉強をして、健気に頑張る妹のために、一日だけでもと勉強休みとして休日に、妹と二人で出かけた日の電車内でおきたことだった。
―――余談だが俺は、首席合格なんてしてはいない。そして妹に「首席合格しろ」と言ったこともなければ、望んだこともない。それでも妹は、自分の意思で首席合格をすると努力している。そんな頑張っている妹に、兄である俺が「そんなこと望んではいない」だの「そんなに頑張らなくて良いよ」などといった、やる気を削いだり、今までの努力を踏みにじるような言葉は、口が避けても言えない、言えるはずがない。だからこそ兄の俺が出来ることは、頑張っている妹を邪魔しない程度で支えることだった。―――
俺と冬華は映画を観るため、電車に乗って移動し目的の駅に着いて降りたとき、電車に乗っていた際、隣に立っていた女性から「この人痴漢です」と言って、俺を逃さないとでも言いたげに腕を掴まれた。
もちろん俺は痴漢をしていないし、ましてや妹の前でする訳がない。更に付け加えると電車に乗っている間、俺は左手をつり革、右手は妹の冬華と手を繋いでいたので、そもそも痴漢が出来ないと説明をしても、女性は俺に対して「痴漢をされた」の一点張りだった。
そして俺は女性との受け答えの合間に、痴漢の犯人を探していたが、すぐに見つかった。というかわかりやすかった、野次馬が俺たちを囲んでいる中、その野次馬によって逃げられなくなって慌てている、冬華とは反対側に俺と女性の間で電車に乗っていた男性だった。
俺がどうやって誤解を解いて、犯人をつきだそうか考えているときには、冬華は動いていた。
冬華は、駅員がこちらに向かって来ている事を目で確認すると、逃げようとしている犯人を取り押さえて、ちょうど野次馬をかき分けて来た駅員さんに事情を説明し、犯人を引き渡した。
先ほど俺がどれだけ説明をしても聞く耳を持たなかった女性が、冬華が説明をすると、すんなり聞き入れた。
さらには今のご時世、野次馬なんてする奴らは、すぐに動画に撮って無断でネットに晒すことを何とも思っていない、もしくは正義と勘違いしていることが多い中、冬華が動画を撮っていた野次馬に、動画の完全削除をお願いすると、これもまたすんなり聞き入れられた。
それから駅員に、一応は冤罪とはいえ容疑がかかった身として、連絡先を渡してから映画を見て帰ったが、翌日、そのまた翌日と連絡が来ることはなかった。
結局は、一週間後の報道にて、犯人の自供により有罪判決となっていた。そして心配していたネットに関しては俺の動画どころか、痴漢冤罪の話すらどこにもなかった。
当時の俺は、不思議に思っていたが、アルバスの話を聞いてから改めて思い出して考えると、最初の段階が俺の呪いで、男性の痴漢をしたい『欲求』と痴漢をしたときの『快楽』の増幅、痴漢をされた女性の『嫌悪感』の増幅そして、野次馬の『興味』『侮蔑』『正義感』など、総じて『悪意』の増幅
最後は妹、冬華の祝福による、俺の呪いに影響された人たちへの絶対的発言権、不満解消による確定未来
(なにそれ俺と冬華による、呪いと祝福の兄妹コンボ技ってか、怖すぎるだろ‼︎、そりゃこんなもん付いてたら普通に暮らせるわけねーよ‼︎)
??「アーテルは、今回の話の間ずっと土下座をさせられたままなんだよねぇ。自業自得だけどちょっと可哀想かな」
??「さて、読者諸君。私は誰だと思うかな」