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聖女との食事会


「なるほどのう、剣王様の魔力はどうやら闇属性のようじゃな。かなり珍しい属性であんまり儂も知らんな」

「確か……属性的に引力を操るんだっけか?引力……引っ張る力?」

「引っ張るというより引き寄せる力じゃな。魔力を中心にあらゆる物質を吸い込むみたいな感じ」

「ねぇ君達、仲良く話してるのはいいけどまずは僕へのお説教を止めてくれない?そろそろ脚の耐久性が限界なんですけど」


 研究者の性か、僕の魔力を確認した後考察モードに入ってしまった二人に声を掛けるがまるで聞こえていない。


 というより聞こえないふりをしている。だって明らかに冷や汗かいてこっちに目を向けないようにしてるもん。そんなに僕の幼馴染が怖いか。


 はっきり言おう、僕は怖い。


「今なんか失礼なこと考えてたかおい」

「滅相もありません。僕の幼馴染は素晴らしい性格と美しさを持った美少女だと思っただけです、はい」


 この程度の誉め言葉で真っ赤になってる目の前の少女が心配になってくる。大丈夫?ナンパされたらホイホイ着いてかないよね?


 正直マジでヒカリは可愛いしカッコいいし、口調はきついけど優しいのが良く分かるのでそういうところが心配になるよ。


「大丈夫?ナンパされたら着いてかない?」

「そんな奴がいたら無視して帰るわ。アタシの時間は無限じゃないしそんなのに関わるくらいだったら一発くらい見えないところ殴って走って逃げるっての」


 ああ、うん。そうだね、君はそういう奴だったね。親しい人間と子供以外にはマジで冷淡だもん。


 こういうところは直した方がいいと思うが、そしたらそしたらで変な虫が寄り付かないか心配なので良し悪しである。


「陛下、楽しそうなところ申し訳ありませんがそろそろお時間です。朝食の準備が出来ておりますので食事をとりましょう。アリシア様もお待ちです」

「えっ、アリシアが待ってるの?それじゃ早く行かなきゃまずいか……。クラリスちゃん、エリウス君、悪いけど予定が詰まってるみたいだから僕達はもう行くね。何かあったらまた言ってくれればいいから」


 セバスさんが見かねて助け舟を出してくれたのでそれに乗っかる形で正座&お説教から脱する。


 ヒカリは不満そうだったがセバスさんの言葉からそれを止めることはしない。どうやら二人の間にはもうすでに上下関係が決まっているようだ。


「うむ、分かったのじゃ。闇属性の魔法についてはこちらも文献を探す必要があるからの。剣王様の授業までには間に合わせるのじゃ」

「陛下、そういうわけで俺達はちょっと調べものしますので。もし城の魔道具について知りたいことがあったら研究員に声を掛けてくれれば大抵は分かるはずです」


 この子達はまだ十歳にもなってないのにしっかりしているな。地位に見合った能力を持つという原作ゲームからの評価に間違いはないようだ。


 その後僕らは魔法についてまるで知らないのにこれ以上いても邪魔な上、朝食の時間が過ぎても困るので移動を始める。


 いやしかしいい推しカプを見れた。今までの人生での疲労が一気に飛んで行った気がする。


「気分が良くて歌でも歌いたい気分だなー」

「お前の歌は壊滅的な出来だからやめてくれ。酒場でも度々歌っておっさん達を撃沈させてたじゃねぇか」

「アレは僕の歌声を利用した母さんが悪いでしょ。お酒で悪酔いした人を何の被害もなく黙らせるいい判断だとか自画自賛してたよ」

「おばさん、行儀の悪い客に対しては本当容赦なかったもんな……」


 そのせいか実家で僕はお酒を飲むお客さんに恐れられており厨房で料理を作る係だったんだよな。配膳に回るとお客さんが怖がるとかで。


 実家のあるある話をしながら(ちなみにセバスさんは後ろでニコニコ顔だった)広い廊下を進んで行けば食堂に着く。


 その大きな扉をヒカリが開き、その中に入ってみればそれこそ漫画やアニメでしか見たことないような長机が用意されており、さらには豪華で柔らかそうな椅子まであった。


 恐らくあの椅子に座ればいいんだろうけど柔らかそうなのと非常に高そうなのも合わせてしり込みしてしまいそうになる。


「おはようございます、剣王様。既に食事の準備は出来ていますよ?」


 椅子にばかり目に行っていた僕の意識を戻したのは席に着かずに立ったまま僕達が来るのを待っていたアリシアだった。


 王様より先に座るのは失礼という考えだろうか。待たせてしまったことに罪悪感を覚えると同時に先に座っていればいいのにと思った。


「いつ来るか分からないんだし先に座って待ってればいいんじゃねぇの?」

「ヒカリさん、剣王様より先に席についているのはマナー違反になりますよ?私、これでも聖女ですからマナーには厳しいんですっ!」

「はぁーん、そんなもんかなぁ」


 「フンス」という鼻息が聞こえるような見えるような、そんなまさにドヤ顔みたいな笑顔を見せられて非常に微笑ましく感じてしまう。


 ヒカリとも相変わらず打ち解けてるみたいでよかった。お互いに友達が少ない者同士仲良くなってくれて僕は安心だよ。ついでにもっと仲良いところ見せてヒカアリの輝きを僕に魅せてほしい。


 カプ厨というのは恋愛関係だけじゃなく、尊い友情を見ても興奮できる生き物なのだ。


「ささ、剣王様。どうぞお座りください。しばらくしたら料理が運ばれてきますので」

「あ、うん。じゃあそうさせてもらうね」


 用意されていた椅子に座れば柔らかすぎてまた腰が沈む沈む。柔らかすぎて逆に気になるレベルだがこれに慣れる日は果たしてくるのだろうか。


「さて、それでは剣王様。お食事前に今後の予定について説明させていただきます。聖女として剣王様のお傍に仕える身ですから、なにがあってもフォローできるようにはしますが……もしも私がいない時に何も知らないままでは剣王様が困ってしまいます」

「うん、分かったよ。僕としても聖剣を抜いちゃって急に剣王って言われて困ってたけどなっちゃったものはしょうがないからね。もう覚悟は決めてるさ」


 いつまでもうじうじ悩んでこんなはずじゃなかったなんて言い続ける姿をカッコいいとは僕には思えない。生憎僕には支えてくれるという人もいれば守りたい故郷もある。


 何より目の前に聖女として支える義務をこなそうとしている女の子と、僕が心配だからって理由で慣れないメイドにまでなった幼馴染がいるのだ。


 これで腹を括らないなんてそんな生き方は出来ないししたくもない。


「ありがとうございます。急に言われても納得されるかどうか、そこが一番の懸念事項でしたから、剣王様が前向きに受け入れてくれる方向でいてくれたのでデプロン大臣も安堵していました」

「僕が本格的に働けるようになったらあの人一回長期休暇取らせてあげたいね。奥さんと旅行にでも行くとかさ」


 いや本当ストレス太りでああなっちゃうなんて長生きできなくなりそうだしね。彼にはこれからも色々と助けてもらわないと本気で困るのだ。


 前世の記憶があると言ってもそれも薄れかけている上、政治をどうこうするなんて経験があるわけもない僕からしたら王様になるにあたって一番の心配事は政治なのだ。


「あっ、でも出来れば母さんの方は早めに何とかしたいかも……。手紙を継続的に送らないと怒ってこっちまで来そうだし」

「ありそうだ、滅茶苦茶ありそうだ。おばさん、行動力の塊だもんな……」


 村長に頼んで急いで手紙を書いて渡してもらうようにしたがそれだけで納得するような人ではなく。最悪の場合僕とヒカリを取り戻しに単身この城にまでカチコミに来かねない。


 それだけ大切にしてもらっているというのは嬉しいんだが、そうなると城の人達の迷惑にもなるからできる限り阻止しなければならない。


「仲の良さそうなお母様なんですね」

「どこに出しても恥ずかしくない肝っ玉母さんだけどね。いや本当、怒らせたら怖いから勘弁願いたいんだよ」

「おーい、話が脱線してるぞー。それに乗ったアタシも悪いけどさ」


 っと、そうだ。今は母さんのことを思い出してる場合じゃない。アリシアから今後の予定を聞いてどう行動するべきか考えなければ。


 僕が聖剣を抜いてしまった以上、原作主人公と同じ行動でいいとは思わない。僕は彼とは違うし、この世界はゲームではないのだから。


 参考にする以上の要素は考えないでおこう。


「コホン、では今後の予定を説明します。剣王様にはまず一ヵ月先にあるヤランリ王国との会合の準備をしていただきます。予定では次期槍王の最優秀候補と会うことになってます」

「ふーん、それじゃあマナーとかを覚えるのが最優先かな?」

「いえ、剣王様が平民出身というのはあちら側も知っています。もちろん最低限は覚えていただきますが、平民出身という情報を知っていながらそこを指摘する人はあちら側が許しません」

「あー、わざわざ重箱の隅を楊枝でほじくるような真似をすれば底が知れちゃうのか。そんなみっともないことをすれば逆に恥になる、と」


 ともかく心配だったマナーについては少し余裕が出来たらしい。


 問題はそれ以外、になるのだろうけど。


「それじゃあ僕は何をすべきかな?」

「はい。ソードリアは共通言語を主要にしていますので言語を新しく学ぶ必要はありません。もっともこれはこの大陸の国ほぼ全てがそうですのでソードリアが特別、というわけではありませんが」

「言葉が通じるって大切だもんね……」


 これは前世からだが英語とかの勉強は大の苦手だった。一つの言語以外を日常生活で使うような脳の容量はしていないし、そんなことに使うんだったら推しカプのデータを脳にぶち込んでいる。


「ですから剣王様には急いで剣の扱い、魔法の扱いを覚えていただきます。ヤランリ王国とは友好的な関係ですからいきなり『王戦』を挑まれるなんてことはないはずですが」

「それでもいつかは必ず起こる以上、早急に武力を持つのが必須ってことか……」


 でも確かこの会合で初の『王戦』が行われていたはず。それも次期槍王として名高い少年と。


 僕は彼も、彼の補佐役も嫌いではないが、戦うとなると相当厄介なことになるのは分かっている。その為ここでの戦力増強は死活問題になってくるので気合いの入り方が違う。


 初期の彼は確か相当な女好きだったしなぁ……。


「そういや他所の国のことなんて知らないんだけどさ。他の国じゃこの国みたいに長年王がいないって状況はなかったのか?」

「王の選抜方法は国によって変わるんです。我が国では「聖剣を抜いた者」が剣王様になりますが……」


 ドラコニアという国では王族がいて、その中でも最も強い者が王になる。特に今の世代では最高傑作と言われる存在が僕らと同年代で生まれている為今から気が重い。


 弱点を知ってはいるがそれを突けるほど彼女は甘くはないのだから。


「ヤランリ王国では先代槍王(そうおう)が何人もの弟子をとり、その中から選ばれた者が槍王になるらしいです。どの国もそうですが、武闘派な選び方と言えるでしょう」

「それ聞くと聖剣を抜いた奴が王様って随分適当な選び方だよな、アタシ達の国」

「それ言っちゃおしまいでしょ。ほら見なよ、アリシアなんてもう苦笑い以外浮かんでないよ」

「あ、あははは……」


 汗をかきながら頬を掻いている彼女の姿は非常に絵になるが困らせて喜ぶような趣味はないので助け舟を出しておく。


 しかし本当に美少女って何をしても得になるというか。損になることも多いんだろうけど、見ている分には本当に得だなぁと思う。


 そんな美少女二人に囲まれている僕って実は勝ち組だったりする……?


「ま、なんにせよ強くならなくちゃならないのは間違いないんだ。やるだけやるさ」


 彼女達の友情を守る為にも僕に敗北は許されない。ならば鍛えるしかないのだと気合いを入れるのだった。

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