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姦しい三人


 お菓子が焼き上がるまでの間、三人のタイプの違う美少女たちはそれぞれの話をしていた。今まで他国の人間とこんな話をしなかったが、一緒の作業をしたためか心理的に近くなっていたのも一つの要因だろう。


 現在はトーマがアリシア達を連れて『魔霧の森』に入った時のことを話し、それに対してそれぞれの反応を見せていた。


「それでですね、トーマ君ったら血だらけになっても弱音一つ吐かないで頑張って……見てるこっちが泣きたくなりました」

「いやそれはアイツがおかしいでしょ。なんでつい最近まで戦いとは無縁だったのにそこまでやり切れんのよ」

「…………いい、実にいい。やっぱり剣王は私が思っていた通りの人間だった。次は絶対に邪魔が入らない状況で戦う。ジュリア、『王戦』する時は私を使って。剣王なら私を受け止められる」

「この話聞いてその反応する辺りアンタも似たようなもんだわ。なんなの、どこの国でもヤバい奴って意外と多かったりするの?」


 頬を赤らめながら先日の戦いを思い出しながら楽しそうに笑うライラに対してまるで理解しがたいもののようにその様子を見るジュリア。ジュリアにとって戦いとは手段であって目的ではないのだが、配下にはライラのような人間もいることを今から認識した方がいいと思い真面目に方針を考え出す。


 基本的に『王戦』は交渉が決裂した場合の最終手段であり、狙って行うものではないのだがこういった要望を叶えないと不満を覚えるという事を長年『槍王』の下についていたジュリアは身をもって知っていた。


(というか私がまさに不満を持っていた人間だから気持ちは分からないでもないのよねぇ。どうしても望むものを手に入れたいって言うのはごく普通のことだし……)


 そこまで考えてふと思う。人や戦士としてのトーマを知ることは出来たが王としてはどうなのかと。聞いたところ王になって一年も経ってない上に教育を受けていたわけではないという。


「アイツって実際仕事してんの?今は休養期間って話だけど」

「働き過ぎで大臣さん達から休むよう苦言を呈されるくらいには……」

「…………私、絶対に王様になんかなれないしなりたくない」


 ほぼ毎日スケジュールがキツキツに詰まっているのを聖剣の力で底上げした体力で無理矢理クリアしていくため毎日のように休むようにトーマは言われていた。実際そこまで余裕がないわけではなく、期限がだいぶ先の仕事にまで手を出している為そう言われるのも仕方ないのかもしれない。


 それでも書類仕事も軍の訓練もサボらずに自主的に修行までしているのだから今回の怪我を機に休ませようとする人間がいてもおかしくはないのだ。実際トーマが仕事を休んだりするのはヒカリやアリシアが街に連れ出した時くらいで、それ以外はほぼ仕事。端的に言って働き過ぎである。


「ですからジュリアさんも『槍王』になるのでしたら気を付けてくださいね。上の人が休まないとしたが休めない……というのは多々ある事らしいので」

「でもその逆に休み過ぎると今度は恨まれそうよね。アイツは休んでるのになんでこっちはみたいに」

「…………大丈夫、ジュリア。私はジュリアが休んでも休まなくても勝手にしてるから」

「アンタはもっと働きなさい!!!」

「あ、あははは……」


 『槍王』によってもたらされていたストレスが一気に消えたジュリアは生来の生真面目さが表に出ており、これはトーマと同じタイプだろうなとアリシアは思う。


 少し前の自分だったらこんな風に心を開いて話したりはしないと思い、随分と変わったなと実感しながらその変化が嫌ではなかった彼女はその変化を齎した少年を想って静かに笑う。


(いつからでしょうね、トーマ君のことを考えるだけで笑えるようになったのは)


 接していればいる程どんどんその気持ちが強くなっていってることを自覚しながら、もうそれが止められないことを理解していた。


「…………なんか一人で笑ってる」

「そんなに面白い話してた……?」

「えっ!?あ、あ~えっと、なんでもない、ですよ?そ、そういえばジュリアさんは『槍王』に成るんですよね!!『王戦』は大丈夫なんですか?」


 誤魔化すように言いだしてしまったがこれはアリシアがずっと気にしていたことだ。ジュリアもまたトーマと同じく何の準備もなく『王』を継いでしまった。


 トーマと違い長年の鍛錬と教育はあっただろうが、『槍王』の在り方と継ぎ方からしてまともな王としての教育とは思えなかったからだ。随分と苦労するのでは、と危惧したアリシアに対してジュリアは不敵にその心配を一笑した。


「もちろん大丈夫よ。あのクソッたれな『槍王』に乗っ取られて身体を無理矢理使われたけど、その時の感覚が今も身体に残ってるわ。かなり無茶されたけど、それでもあの技術を直にこの身体で扱ったんだから。あれを再現できるようになればかなり強くなれる」

「…………200年生きてるだけあって本当に面倒な相手だった。強いは強いけど私が戦いたくなるタイプの戦いじゃない。やっぱり戦いって言うのはお互いに真っ向からぶつかり合うのが至高」

「アンタはそれやってれば勝てるからそれでいいだろうけどこっちはそうはいかないのよ」

「ライラさんは強いですからね。トーマ君も力負けしてて真正面からどうすれば勝てるか悩んだって言ってました」

「…………そこでそういう返答するから、私は彼と戦いたくなる」

「その見たらトラウマになりそうな笑い方やめなさいよ」


 実際ライラの圧倒的な身体能力と真っ向から戦える者は世界全体を見ても両手の指より少ないだろう。大抵の人間が工作を重ねて罠を張り勝利を目指してきた。それはヤランリ王国内で槍王候補選別の時も変わらず、だからこそ彼女は真正面から受け止められる人間を探していた。


 そしてそれは見つけられた。『剣王』となった少年を。彼と戦うことを、自分の全てを真っ向から受け止められる存在をようやく。薙ぐだけで倒れる木々、振るうだけで吹き荒れる豪風、たたきつければ抉られる大地、それら全てを見て真正面から自分を見てくれた少年を待ちわびた存在として彼女は認識している。


「…………だから私は剣王と戦いたい。最後までやって決着をつけたい。そうすればきっと私は満足できる。だから彼にも最後まで付き合ってもらう。お膳立てはジュリアがやって」

「ざけんじゃないわよ大ボケ。真顔で言えば受け入れられると思うなって何べん言わせんの?」

「はわわわ……!!」


 いつの間にかいつもの無表情に戻ったライラは真っ赤になって焦っているアリシアを見てポンと手を打って彼女が何に焦っているのかを察して納得する。


「…………アリシアは剣王のこと好きだろうけど、私はそうじゃないから安心して。私のはただの……ただの何だろう?興味じゃないし……好意ではあるけど……んん?」

「そんなこと私達が知ってるわけないでしょ」

「はわーっ!!!」


 言っててどう思っているのかという疑問にぶち当たったライラはそのまま顎に手を当てて考え込んでしまう。何をどうして自分が剣王に執着しているのかを、その答えが出ないのか彼女は無言になり自分の世界に入ってしまう。


 ジュリアは自分のことを棚に上げてライラを呆れた目で見ている。それは奇しくも普段ジュリアのことを見ているライラとそっくりな目立った。


「まぁこの剛力馬鹿のことはいいわ。そんで?そっちはどうなのよ。なんでアンタはアイツのこと好きなの?」

「え、な、なんで私がトーマ君を好きだって分かったんですか!?」

「そんな顔してたらそりゃ分かるでしょ。それで分からなくても今までの会話で十分わかるでしょ。というか好きでもない奴の為にわざわざお菓子作りを始めるとか意味わかんないし」

「ら、ジュリアさんもそうじゃないですか!?トーマ君にお菓子作ってきてましたし!!!」

「は、はー!?私のはただの趣味ですけどぉ!?その結果余ったお菓子を戦略的都合を考えた時にアイツに渡せば有利になるって思っただけだしー!!つまりこれはただの冷静で緻密な計算で成り立った作戦でありそれ以外の理由は欠片もないですー!」

「わ、私だってこう、いつものお礼というかお世話になっているからとか、後は頑張ったご褒美を上げたいみたいな感じで……だからジュリアさんが言うようなそれじゃなくて!!!」

「…………ねぇ、二人ともツッコミ待ちなの?」


 互いに互いの急所を突くさまはまるで無防備に殴り合うボクサーのようで、その騒ぎに考え込んでいたライラが今度は呆れた目で見始める。


 ジュリアの方はどうにも初めての感情に振り回されてる上に元来が男嫌いな為簡単には認められないのだろう。なにかしらのきっかけがあれば一気に自覚するだろうけど、それが同時に失恋のタイミングになるのではないかと今からライラは心配する。


 一方のアリシアはただ単に恥ずかしいからだろう。純粋に乙女として知られたくない、という感情はよくわからないがそういうものかと納得する。


「…………好きなら好きで早く告白でもすればいいのに」

「……それは出来ませんよ。だって、トーマ君にはヒカリさんがいますから」


 アリシアにだって分かっている。確かに自分はトーマに特別扱いされている。それは『聖女』としてではなくてただのアリシアという少女としてだ。


 ただのアリシアの為に頑張ってくれた、それは凄い嬉しいことだ。自分の苦しみを理解してくれた、それこそ命懸けで頑張ってくれた、何度でも自然な笑顔を浮かべて、一緒に笑ってくれた。そして『聖女』という楔から解放してくれた彼に本気で恋をした。


 いつしかいつも目で追うようになって、何度も一緒に出掛けて、一緒に遊んで。だからこそトーマの気持ちが痛いほどに分かった。だからアピールしてもどこか無駄なんだと思って。


「トーマ君はずっとヒカリさんが好きなんです。一番大切なのはヒカリさんで、だから私が割り込む余地なんてなくて」

「…………別に割り込まなくてもいいんじゃないの?大切な人が一人だけ、なんて決まったわけでもないんだし」


 そんな気持ちをライラは完全否定して小さく笑っていた。


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