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何が大切か


 今回の『王戦』の舞台は森の中。木々がたくさんあり獲物が長い槍兵にとっては非常に戦いにくい戦場だと思ったがよくよく思い返せばシオンがこの程度で苦労してるところを想像できないのであちらにとっても木に槍をぶつけるなんて初歩的なミスはしないだろう。


≪さぁ二ヵ月ぶりに行われる『王戦』!!!前回の戦いは非常に盛り上がりましたが今回はまた別格となるでしょう!!!なぜならこの戦いはチームによる団体戦なのですから!!!!≫


 前回はそのまま闘技場に足を踏み入れた。だが今回は目の前に現れた光の扉を潜ることで戦いの舞台に移動させられた。当然他のメンバー、ヒカリとシオンとは引き離されている。


 何かしらの魔法か魔道具、アリシアと同じ光魔法に寄る何かかもしれないがそれを考察する時間も余裕もない。


 どこからか前回同様に司会の声が聞こえる。前回の時も同じ声だったしもしかしたら全ての『王戦』で司会を務めてるのかもしれない。どこか違和感を感じるがそれを無視せざるを得ない圧力を目の前から感じる。


≪前回槍王最有力候補を下した『剣王』トーマァ!!!!そしてその目の前には槍王候補ライラ・ケイト!!!早速の激戦が期待されます!!!!≫


「…………うるさい」

「その言葉には心底同意したいかな」


 声が妙に響くのは聖剣の第二能力『強き者(クレス)』によって全体的に強化されている為か、それとも前回の『王戦』の時より強化された直感が何かを伝えようとガンガン鳴り響いているからか。あるいはその両方かもしれないが、今は目の前の相手に集中する。


「…………ライラ・ケイト。もう帰りたい」

「トーマ・ソードリア。帰りたいならエスコートするよ?」

「…………それは出来ない。やろうとしたらレイラに叱られる。戦うのは面倒だけど、レイラのお説教に比べればまだ楽しめる」


 独特の会話のテンポ、聞いてるだけでどこか気が抜けてしまうのんびりとした声音。一瞬毒気が抜かれそうになるが、それを補って余りある強者の余裕を感じる。それを感じることが出来るようになったのはシオンやヒカリとの模擬戦のおかげだろう。少なくても以前はそんなもの感じることは出来なかった。


 なるほど、確かにこれはまずいかもしれない。シオンが言っていた通り、完全にやる気になる前に倒すのが一番だと僕の直感が叫んでいる。


 目の前の相手はやる気を出せばシオンを超えて『槍王』の首元に槍を届かせるかもしれないと言われた少女だ。


「色々と聞いてるから、全力で行くよ」

「…………好戦的、もう少しゆっくりでもいいのに」

「そうはいかないよ。ゆっくりしたいなら戦いが終わった後」


 強化された足で地面を踏み抜いて同時にその場から加速しぶつかり合う。剣と槍、獲物は違えどその戦いの舞台は近距離戦に変わらない。


「みんなと笑いながら食事でも楽しむさ!!!!」

「…………出来るといいね」


至近距離で僕らは歯をむき出して笑いあった。獣のように、闘争本能に身を任せながら。







 『王戦』が始まり、光の中に飛び込んだと思ったらチームメンバーとすぐに合流できた。これ自体は運がよかったのだろうが、よりにもよってトーマとシオンの二択で後者を当ててしまう。


 別にシオンが嫌というわけではない。ないんだがここ最近ずっと引き籠って考え事していたコイツに対してどういう対応を取ればいいのかわからず、とりあえず進もうと思った方向を指をさすとシオンも頷いたのでそちらに向かうことにする。


「……………………」

「……………………」


 空気が重く、何も言葉を発さないまま二人して森の中を歩いていく。アタシはあの『魔霧の森』で何十日も夢の中とはいえ生活していたので問題なく歩けるし、シオンはシオンでこういう場所での鍛錬も行っているのかその進み方によどみはない。


 ただ何度も言うようにひたすらに空気が重い。トーマがいるのならばこの空気も読まずに話し出すのだろうが、生憎半端に空気を読めるアタシにそれは不可能だ。


 そもそも口が上手い方じゃないし、人と話してるより黙々と作業してる方が性に合ってる。トーマと話してる時は……まぁ例外だと一応言っておく。


 そしてシオンもトーマやアリシアよりかはアタシの方に近いタイプで、一人で黙って作業しているのが苦にならないんだろう。結果的にこの場には進んで話を始めようとしない人間が集まってるわけで。結果的に物凄く重い空気が流れて二人揃って居心地の悪さを感じまくるという現状に辿り着く。


「……ヒカリ殿は、何故トーマ殿に付き従っているんだ?」

「あ?あー、んー……付き従ってる?付き従ってるっていうかなんていうか……一緒にいない方が不自然な感じがするみたいな?上手く言葉にできねぇな、うん」


 物心つく頃には一緒にいたし、一番古い記憶はトーマが鳥の夫婦を見て興奮してる姿だ。子供の頃から本当に変わってないと思いながら、それでも変わったものはあるのだと思い返す。それを成長と言っていいのかは分からないけど。


 ただアイツの本質はずっと変わってない。それだけは断言できるし、それさえ変わってないのならアタシはずっと一緒にいると誓った。


「アイツはいつもすぐ無茶しだすからな。アタシに黙って、アリシアに黙って、みーんなに黙って何か背負おうとする時だってあるし。すぐ傍で見てなきゃ不安になって心配でこっちの身がもたねぇんだ」

「だから、一緒にいると?」

「好きな奴が無惨に死ぬ所を見たがる奴なんていねぇだろ」


昔から何をするか分からない奴だったけど、戦うという手段を取れるようになってからはそれが顕著になった気もする。戦う事自体を好きではないけれど、戦わなければならないのであればそれを避けることをしないのがトーマだってよく知っている。


 たとえそれが自分より遥かに強い相手であっても、恐怖することはあっても怯むことは決してないと断言できる。


 アタシはそれが嫌だ。


「アイツが傷つくのが嫌だ。アイツが傷つけるのも嫌だ。アイツが笑えなくなるのが嫌だ。そんなことしたらアタシの世界が壊れる」

「……………………」

「トーマはアタシにとって世界そのものだ」


 言葉にしてそれが一番しっくりくるのが分かる。トーマがいてくれたからアタシは他人と関わることを選べた。アイツがいなかったら多分誰とも関わろうとしないで一人でずっと強さでも追い求めてたんじゃないだろうか。そこに意味があるとは思えないのに。


「貴殿は、トーマ殿を愛しているのだな」

「あー、うんそうだな。アタシはアイツが大好きだ。……改めて言葉にすると結構恥ずかしいなこれ」


 それが事実であれ自分の気持ちを再認識するのは結構キツイ。頬が赤くなるのがよくわかる。しかも誰かに聞かせるなんて慣れない真似をしていると。


 こういうことをさらっとアイツは言うが、どこかに羞恥心を落としてきてるんじゃないかとたまに心配になることは多い。風呂場のことを思い出せばアタシもトーマのことを言えないとも思うが。


「私は、どうすればいいのか分からない」


 森の中を進めていた足をいつの間にか止めてシオンは俯いて地面を見る。長い髪が垂れ下がって、その表情は分からないけどきっと青い顔をしている。


「トーマ殿に真実を話されて、一時は信じられずに彼を罵倒をした。だが思い返せばその言葉が事実であると認めざるを得ない記憶がどんどん蘇る。昔の母と、今の母の姿が重ならないんだ。本当に、別人なんだと分かってしまう」


 それだけコイツにとっては衝撃的なことをトーマは言った。数日悩みに悩んでも答えが出ないほどに、自分の人生の大半を占めていた目的を否定された気持ちなんだろう。


「騙されたことには当然憤りを感じる。私の大切な者を汚して穢して、それを許せないと叫ぶ心がある。なのに」


 シエルさんのことを思い返す。馬車の中で見たあの激昂は彼女自身の物であり、どれだけシオンのことを想っているかをアタシもアリシアも、もちろんトーマも知っている。


 その上でトーマは逃げるなと言った。それは逃げずにこの現実に向き合おうとしてるシオンがいたから、と考えるのは過大評価しすぎだろうか。自分でも分かってるけどトーマのことになるとあんまり冷静に考えられない。


「私は、どうしても憎み切れないんだ。母さんがずっと前に死んでいたことを黙って、母さんのふりをして騙していたあの人を。真実を話してくれたトーマ殿のことも。どうすればいいのか分からない。私にとって母さんは世界で、それがずっと前に壊れてたなんて信じられない」


 目から零れたのであろう雫が地面を濡らす。数々の思い出が通り過ぎて、どれが本当なのか分からないでいる迷子のようで。だからアイツはシオンを放っておけないんだと思った。


 そしてアイツほどではないけれど、アリシア程でもないけれど、アタシにだって誰かを心配する気持ちくらいはある。


「話は聞いたけど、アタシは部外者だからあんまり言えることもない。トーマみたいに親身になって心から心配して寄り添うことは出来ない。アタシはそこまで優しくないから」


 トーマみたいに上手いことは言えない。アリシアみたいに癒そうとすることも出来ない。だからアタシはアタシにしか言えないことを言う。それがシオンの為になることを願って口にする。


「どれが本当なのかとか、どれが偽物なのかとか、そんなことごちゃごちゃ考えるよりも」

「……………………」

「何が大切だったのかを考えるべきだとアタシは思うぜ」

「何が、大切だった、か……」


 大切な思い出、大切な気持ち、大切な者。譲れないものはたくさんあるけどそれでもその中で一つ、絶対に守りたいものを選べばきっと迷いは晴れる。


 ちなみにアタシがシオンみたいに記憶弄られて誰かがトーマの真似したりしたら絶対になにがあってもぶち殺すことは断言できる。


 ただそれはアタシの選択であってシオンの選択じゃない。


「何をどう選んでもトーマもアタシも一緒にいる。一人になることだけは絶対にない。だからよく考えればいいと思う」

「……貴殿は厳しいな」

「誰も彼もトーマほど優しくはなれねぇって。というかアイツは優しすぎるし」


 正直なんでアイツはこう、知り合って少しの時間しか経ってないのに自分の心身を削るほど頑張れるのかが分からない。分からないが……そういうところを好きになってしまったんだからアタシの負けだ。本当に厄介な相手を好きになったと思うが、好きになれてよかったと心の底から思える。


「さて、それじゃあおしゃべりはここまでみたいだな」

「そのようだな」


 剣を構えて、シオンは槍を構えて目の前を見据える。戦意をむき出しにしてこちらを挑発し続けてきた誰かがそこにいる。


 それがアイツを傷つける可能性がある者だと分かっているから、こちらも戦意むき出しで戦うことが出来る。


 さぁ、戦いを始めよう。



名前設定



王名と国名



剣王   ソードリア王国


槍王   ヤランリ王国


狂王   バサルニカ教国


万王   アイカテム王国


竜王   ドラコニア竜国


魔王   マライジク帝国


銃王   ガンストライト共和国





聖剣能力



第一能力『収める者(グリップ)


        

第二能力『強き者(クレス)



第三能力『適応する者(カメレオン)



第四能力『???』



第五能力『???』



第六能力『???』



第七能力『???』




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