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束の間の青春


 ヒカリとのあれこれを経て覚悟を決め直した僕だが結局やることは変わらず毎日の積み重ねを続けるしかない。『王戦』について対戦方法やルール決めもオーソドックスな一対一でもない限り色々と変わるが

そこに関しては外務大臣であるデプロン大臣の仕事の範疇になる為最終決定まで僕に出番はない。


 なので今日も今日とで毎日の日課である書類仕事を進めているのだが……。


「ジーーーーーー……」

「……あの、アリシア?なんでさっきからこっち凝視してるの?」

「別に……ただなんか雰囲気が変わった気がしましたから」


 なんか物凄い見られてる。それはもう滅茶苦茶見られてる。我らが聖女様の今の直感は確実に僕が聖剣の第二能力を使った時並みに上がっているだろう。


 というか雰囲気が変わったというがなにかが変わった気は僕には何もないのだが。悩みを抱いたのも昨日で、その悩みもその後のヒカリとの話で解消されているのだから。


 だがこういう時の女の勘を舐めてはいけない。バレてないと高をくくっていたらすぐにでも何があったかの答えまで一気に辿り着くのだ。それがどんな突拍子もないことだろうと彼女達はその女の勘に絶対の自信を抱いてくるため誤魔化しは効かない。


 大切なのは女の勘を働かせる前に話題を逸らすことだ。


「ヒカリさんと何かありましたか?」


 なんか一瞬で辿り着かれてしまった。誤魔化すも何も一言だって言ってないのに一瞬で答えに辿り着かれてしまった。冷や汗が止まらずペンを持っている手がガタガタ震えてくる。


 疚しいことは……一緒にお風呂に入った時点であるかもしれないが。それでも僕はアリシアとの間に何かあるわけではない……いや気絶してたから全く身に覚えがないが以前の『王戦』の時にキスされてるし、そこから好意を抱かれているというのは分かる。


 好意を抱いてる男が他の女性となんやかんやあったと想像すれば、うん。彼女の反応も分からないでもない。頬をぷくーっと膨らませているところはめっちゃ可愛いからずっと見てたいけど。


 ちなみにヒカリはこの場にはいない、というか今日一日休ませてくれと王城の管理全てを担当しているセバスさんから報告を受けている。多分昨日会ったことが今更になって物凄く恥ずかしくなったのだろう。彼女は昔から一時の感情で突っ走って後で後悔することが多いので今頃ベッドの上で悶えてる可能性が非常に高い。


「あーうん、その、まぁ色々と。お互いに告白したり?」

「こくっ!??!!?」


 これから先アリシアの協力は絶対必要だし何より好意を抱かれて、こちらも好きなのは間違いない少女に対してこれ以上誤魔化すのは失礼にも程があるので速攻でげろらせてもらう。


 というか隠そうとしても必ずバレるという確信を持っているので黙っているという選択肢はない。今までの経験上彼女達相手に何かを隠し通せると思えるほど馬鹿ではないのだ。なぜか分からないが僕は非常に分かりやすいと評価され続けているのに隠せる自信などあるはずもない。


「え、っと……それで、その、お二人はお付き合いしたり……」

「…………どうなんだろう?そういう話は全くしなかったからなぁ。まぁでも一生一緒に歩いていくって約束はしたかな」

「思った以上に進んでる!!!!」


 ショックが大きかったのかアリシアの口は大きく開かれていた。そんな彼女を眺めているととても微笑ましい気分になるのはきっと僕だけじゃないはずだ。


 ただこのままだとアリシアが孤独感を抱いてしまうのも時間の問題だろう。彼女の今までの経験と経歴からしてそういうのは非常にストレスがかかるだろうことは想像に難しくない。


 多分彼女は孤独に耐えられないタイプだ。それも物理的な距離ではなく心理的な距離が開くことが一番堪えるタイプ。そういう彼女を一人にさせておくのは僕としても避けたいし、アリシアが笑ってられないという事実を僕は許せない。


「さて、それじゃあ今日の分の書類は終わったし……アリシア、一緒に出掛けない?」

「えっ?」

「デートだよ、デート。ほら、前の『王戦』以来一緒にいるとからかわれてたけどそれなりに時間も経ったし落ち着いてるだろうからね。ヒカリはいないけど、二人きりでいいなら一緒に遊ぼう」

「えっ、あ、は、はいっ!!行きますので準備してきますねっ!!!」


 そう言って輝く笑顔で部屋を出ていく彼女を見てこれが正解なのだと思う。


 僕は早急に強くなる必要がある、それは間違いない。だがそれは今アリシアを放っておくことは絶対に間違っていると断言できる。


 大切な人が笑っている未来が欲しいのに、その為に今をおざなりにしていたら何の意味もないのだと僕は知っているのだから。








「お待たせしましたっ!!!」

「ううん、僕も今来たところだよ」


 互いに身支度をし、服装を普段の物とはまるで違うまさに変装と言える状態にして待ち合わせ場所に集合した僕達は隣り合って街に歩き出す。


 アリシアはその特徴的な金糸のような太陽に照らされて輝く髪を一纏めにし、帽子の中に隠している。その帽子は最近『万王』が君臨しているアイカテムラ王国からの品だ。『剣王』が聖剣を抜いて君臨したという話を手に入れた彼らとは『王戦』を介さない取引を行っている。


 『王戦』はあくまで最終手段で互いに譲れないものがある場合、それをどうするかを決める為に行われる物である。それはつまり話し合いで解決するのならばそんな面倒事はしたくないと思うのが当然だろう。もちろん例外はいるし、その例外である『狂王』はいつ何を面目にこちらにしかけてくるかも分からないが。


 とにかく『万王』はかなりの平穏主義者のようで行った『王戦』の数もかなり少ない。その為僕が『剣王』になる前も国家間の取引や商人の出入りは行われていたのだがその頻度がさらに多くなり、互いに利益を上げ続けている。


 特にあちらには魔道具関係の物がよく売れる。生活用品とかクラリスちゃんが作った物がそれこそポンポンと行きまくってて財政を支えているので本当にありがたい。


 話を戻すが、今のアリシアはアイカテムラ王国から入ってきた服を着ている。それは彼方の記憶にある前世の記憶でもお洒落の最先端と言えるような服……と言っても服なんて興味がなかったので正しいかは分からないが、最近王都でも流行りだしている服だ。


 主に王都に存在する貴族の学校に入学している学生たちで流行ってる服。たまに買い物とかしてるのを見かけて微笑ましく思ってたりする。


「に、似合ってますか?」


 じっと見ていたのに気付いた彼女は顔を赤らめながら、普段とはまるで違う短めのスカートを手で押さえて恥ずかしそうにこちらを見てくる。


 髪を帽子にしまい込み、伊達メガネを付けている時点で普段とは雰囲気が違う。だけどそれ以上に常に露出のないシスター服を着ていてまるで見えなかった白い脚を惜しみなく出してる等これなら変装として完璧と言える出来だ。問題があるとすれば。


「可愛すぎてナンパが多そうなのが心配だ……」

「あ、あの、そんな心配する必要は……」


 自己評価が低いアリシアの発言は今更なのでいいが、彼女は客観的に言っても美少女だ。それでも普段出歩いてる時にそういう観点から声を掛けられることはない。


 その理由はやはり『聖女』であることと、以前の『王戦』の映像配信が大きい。アレのせいで彼女は『剣王』の身内、というイメージが瞬く間に広まってしまったのだ。


 街の人からからかわれることもあるがトラブルとは無縁なのはそういう理由もある。彼女に下手なことしたら僕が出るからね、仕方ないね。


「まぁいいや!!凄い可愛いアリシアが見られたし、ナンパ程度なら僕が何とかしよう!!!」

「い、いやだからそんなことが起きるわけが……あと可愛いって何度も言わないで……」


 今更なんだがこの可愛い女の子と共に歩ける僕は物凄い幸運なのではなかろうか。『剣王』になった後の面倒事を考えても遥かに幸福と不運が釣り合ってない気がする。明らかに前者の方に天秤が傾いているだろう。


「そういえば初めて会った時もこんな感じで歩いたよねー」

「そうですね。あの時はこの一回だけ、って思ってたのに今じゃトーマ君とは何度も出かけてます」


 少し前のはずなのに短い期間で濃い経験をしてきたせいか遠い昔のことに思える。前世の記憶をほとんど忘れていることもそうだが僕は案外忘れっぽいのかもしれない。


 ただこの思い出はいつまでも色褪せることなく思い出すことが出来るだろうことは確信できる。


「あの時は本当に初めてのことばかりでした。初めての友達に、初めての買い食い、初めての質問。好きな人のタイプなんて初めて聞かれました」

「知り合った人には最初に聞いておきたいことなんだよ、僕にとっては重要なことなんだ。むしろ聞かなかったら僕じゃないかもしれない」

「そうですか。……あれ?でもシオンさんには聞いてなかったですよね?」


 苦笑いからの疑問を持ったことへの表情の変化すら可愛らしいのだから彼女は本当に凄いと思う。いるだけで人を幸せにするというのは稀有な才能だ。


 ちなみにシオンに聞かなかった理由は単純な話、彼女は多分誰かを好きになるような経験もそもそもそういうことを考える余裕は今までなかっただろうという事がなんとなく分かっていたからである。そんな人にいきなり聞いても煽りにしか聞こえないからね……。


「今みたいにある程度仲良くなれたならまだしもその前はお互いに煽ってたからね。よくもまぁ今の関係まで向上したなって我ながら思う」

「あぁ……。『王戦』前の会話だと本当に嫌いあっていたように見えましたからね……」

「あちらからしたら国の利益を得る機会を一人の為に潰そうとしてる王だし、僕からしたらアリシアを奪おうとする相手だったからね。お互いの立場と考え方を思えばああなるのは当然だと思う」


 それが解消されたのは間違いなく『王戦』での一戦が理由だ。僕もシオンも全力を尽くして、その時切れる手札全てを使って必死に戦った。


 シエルさんの話を聞いた今から思えばあれほどの力を手に入れるのにどれだけ彼女が必死だったのか分かる。僕がアリシアを失うのを拒んだようにシオンもまたシエルさんを失うのを拒絶し続けたのだろう。


「アリシア。次もまたヤランリ王国との『王戦』を受けると思う。あちらは絶対にシオンを諦めないだろうし、僕もシオンを渡す気はさらさらないから。だからまた怪我を」

「トーマ君が怪我したら私が治しますよ」


 アリシアに心配させたくはない。それでも怪我をする可能性が非常に高い以上先に言っておくのが誠意だと思ったのだが、それを途中で遮って彼女は笑った。


 その笑顔は仕方ない人を見るような、それでいて慈しみを持った彼女らしい優しそうなもので。その笑顔に僕は目を離せなくなる。


「トーマ君は私の時みたいにシオンさんを守ろうとするんですよね。その為に戦いたいってきっと思ってる。私がそれを止めようとしても絶対に貴方は変わらないし、そういうところに私は惹かれましたから」

「うん、悪いとは思うけど僕は絶対譲らない」

「はい。だから私が支えます。ヒカリさんみたいに一緒に戦うことは出来ないけど、貴方が帰ってくる場所で、貴方が帰ってくるのを待っています。帰って来た貴方を傷ついたをちゃんと治せるように」


 心配してくれているのだろう。それでもなお僕がやめないことを彼女は知っている。ヒカリですら見ていない僕が何度も死にながら死に物狂いで抗っていた姿をアリシアは見ているから。


 僕が傷つく所を一番見ているのは恐らく彼女だ。だからこそ僕がどんな無茶でもすると知っている。それを否定しないで受け入れてくれる彼女を、僕は強くなったと思う。その強さに僕が少しでも関わっているならとても嬉しいとも。


「だからちゃんと貴方が望む結末を掴んできてください。完全無欠な、みんなが笑っていられるような大団円を。何より貴方が笑っていられる未来を」


 僕はみんなが笑っているのが好きだ。僕が好きな人が笑っていられる未来が欲しい。この欲深さは絶対に変わらないし変えようとすら思わない。


 それでもそれが正しいのか足がすくむときはある。どうすればいいのかわからなくなる時もある。そんな時に彼女達はいつでも僕の手を引いたり、僕の背中を押してくれる。


 それにどれだけ助けられているかはきっと僕にしか分からない。


「それさえあれば私は幸せですよっ」


 手を掴んでそう言ってくれる彼女が笑ってくれるから僕は頑張れる。この笑顔を守れたという事が絶対の自信になる。何も手放したくないという想いに拍車をかける。


「そっか。でもそれだけじゃあ僕が納得できないし、今日は目一杯楽しもう!!!」


 握られた手を握り返してアリシアを引っ張り歩き出す。もう何の迷いもない、僅かに合った心配も全部消えた。ならば後は全部掴み取るだけだ。





「陛下と歩いてる、ってことはそっちの子はシアちゃんか!!いやぁ、いつもの聖女服も似合ってるけど今のも可愛いねぇ!!!お似合いだよ!!!!」

「うぅううううううう~~~~~~~~~~~!!!!!!」


 なお変装は隣にいた僕のせいで一瞬でバレた。アリシアには平謝りして色々とプレゼントしてようやく機嫌を直してもらえた。


 次は僕も変装しないと……。


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