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鍛錬という名の地獄


「いやー、悪かったわね!!珍しい魔道具を見るとテンション上がってそれ以外が目に見えなくなるのよ。それはそれとしてその聖剣に頬ずりしていい?」

「いくら美人でも剣に頬ずりしてる姿は見たくないのと、そんなことされた剣を持ってると変な気分になるからダメです」


 突如現れて僕達を臨戦態勢にした美人のエルフ。彼女は本来山頂で待っているはずだったらしいのだが僕の持っている聖剣の気配を感じてここまで下りてきたらしい。素晴らしい欲望の塊だ、そこは尊敬するね。


 ちなみにだがキャロル・マクシミリアンというエルフ少女、僕はその名前をかすかにだが覚えている。あれは前世でのゲーム中の『魔霧の森』イベントの時に主人公ヒカルを鍛える時に手を貸してくれたエルフだったはずだ。


 それ以外のことは欠片も覚えてないので何の情報にもならないが、彼女のお陰でかなり強くなれたという事を見た覚えがある。


 間違いなく変人だがそれでも彼女の力を借りることが出来ればきっと僕も強くなれることだろう。


「んで修行するのはそこの三人でいいのね。リチャードはその付き合いってこと?」

「修行を見る人材は必須だろうからな、私も参加する」

「これ以上アンタは魔力の素養はないからここにいても仕方ないけどそう言うなら勝手にしなさいな」


 しかしこの二人はどこか仲がよさそうだ。もしかしたらもしかしてだが、新手のCPがここにあるというのか!!?


「お二人は、付き合ってたりするんでしょうか。答えによっては僕のやる気が増減しますので慎重にお答えください」

「お前本当マジで初対面の人にそれ言うのやめろって何回言わせるの???」


 だって気になるじゃん!!無愛想で身長が2m近い男性と160cmなさそうな小柄な女性の組み合わせって最高じゃん!!!


 慎重さという名のスパイスでご飯何倍だって行けるよ!!!!


「私がこいつと~?ありえないありえないって!!私は私の趣味を理解できる人じゃないと嫌よ。というかそんなに気になるってことはお姉さんに一目惚れでもしたのかしら?」


 カラカラ笑いながらそう言い放つエルフの言葉に期待していた僕は膝から崩れ落ちた。何という無常なことか、勝手に抱いたとはいえ新たな希望を目の前で取り上げられた気分だ。


「えっ!?なんで崩れるのよ!?私みたいな美人エルフがフリーなら普通は喜ぶところじゃないの!?」

「陛下は普通ではないのだ。あと私が言う事ではないが貴様はいい加減独り身でいるのはやめろ。こんな森にいるから変人度が一向に下がらんのだ」

「こんな美少女エルフに対して変人って酷くない?好きな物に対していつも全力を出すのは当たり前じゃない」

「それは分かる」


 崩れ落ちた僕だったが「好きな物にはいつも全力」、その言葉で再び立ち上がることに成功する。そうだ、僕はこんな所で膝をつくわけには行かない。


 故郷という狭い場所を出てこうして剣王になってしまったからこそ楽しまなければ。色んな所に行って色んなカップルを見て気ぶる生活を送る為にも、僕は強くならねばならないのだ。


 その為には膝をついている暇はなく、残念がる時間もない。


「それに変人エルフのキャロルさんでもいつか絶対理解者が現われますもん。そしたらその時の光景を楽しむ……僕は未来を見据えて頑張れる男なんだ」

「うん、この子が私を外から見た場合だったとするなら多少は直そうって気がしてくるね。反省しないと」

「それはよかったな。客観的に自分を見ることが出来て」


 それってどういう意味かな?意味かな??なんで僕を見て反面教師にすることを決めたのかな???


「駄目だ、やる気が急激に消えていく……誰かが慰めてくれないと駄目だ……」

「ほれ、頭撫でてやっから頑張れよ。ここまで来て何もしないで戻るとか無駄ってレベルじゃないし」

「わ、私も流石にそれはちょっと……」


 分かってるよ。ここで帰ったら何にもならないし、鍛錬はするさ。僕のやる気とやることには何の関係もない。


 やらないといけないことは嫌でもやるべきだ。少なくても僕はやらなくちゃいけない義務を放棄して権利だけ主張するのは嫌いだ。推しカプを追うという権利を手に入れる為にも剣王という義務を果たさなければならないのだ。


 頭にヒカリの手をのせたまま立ちあがる。身長の関係上ヒカリが上目遣いになるのがとても可愛いが今はとりあえず目の前のエルフ少女に集中する。


「というわけでやる気はあります。鍛錬、早速お願いします」

「ふーん、やる気は十分ね。可愛い女の子の前で格好つけたくなったの?」

「男ならそれくらいの意地はあるでしょう。僕にだってそれくらいはあったってだけですよ」

「頭撫でられながら言っても説得力もクソもないけどな」


 今の僕には必要なことだから仕方ない。それはそれとして鍛錬に対するやる気は十分だ。なんだって頑張って耐えるさ。


「ふーん、そう。じゃあ早速始めようかしら」


 そう言って立ち上がるキャロルの手にはいつの間にか鎌が握られている。彼女の身長より大きいそれはかなりの重さのはずなのにキャロルはそれをまるで紙の棒のように扱う。


 そして彼女の鎌と腕が消えたと思った瞬間。


「えっ」


 僕の首は胴体と切り離され、その思考は暗転するまでの短い時間の中で何をされたのか認識出来なかった。




「はい一回。次行くわよ」

「えっ」


 いつの間にか首と胴体がくっついていた。何をされたのかわからない。思考がまとまらない。その間に再び僕の首は胴体から落ちていた。


「次」

「ッ!!!!!」


 再び認識が戻る。何が起きたかはわからないがそれを考える暇はまるでない。思考が戻った瞬間に足に力を入れて後方へ飛ぶ。


「案外早かったわね、三回目で対応し始めるなんて。それでも甘いけど」


 力いっぱいの後退はキャロルにすぐさま追いつかれる。動く瞬間さえ見えず、彼女との力量さを理解させられ、再び首が落ちる。


「次」

「ッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


 逃げるには足腰の力が足りない。ならばやられる前にやらなければならない。とにかく早く前に出ることだけを考えて飛び出す。不格好な姿であろうとなんだろうと何の抵抗も出来ずに死ぬわけにはいかない。


「ガッ!?」

「鎌の間合いに入ろうってことね。中々いい考えだけど、サブウェポンを持ってない訳ないでしょ」


 そして彼女の懐に潜り込んだ瞬間、片手で取り出した短剣で胸を貫かれ激しい痛みと熱さがこみ上げる。どこかの臓器が傷ついたのか口から血を吐き出し倒れかける。


 そして何とか視線を上に向けた瞬間、鎌を振り下ろすキャロルの姿が見えた。


 それから僕は何十回も死んだ。



「次」


 進むも逃げるも死しかなかったので受け止めようとした。鎌の衝撃を止めきれず吹き飛ばされ、木に叩きつけられた後首を斬られる。


「次」


 受け止めることが出来ないならと地面ギリギリまで身体を下げて鎌の横薙ぎを躱して飛び出す。相手がどうなるかなんて考えず我武者羅に剣を振り回すも容易く躱されて喉を短剣で突かれて殺される。


「次」


 鎌と短剣を何とかしないといけないと十回以上殺された後考えた。一度目を避けることはなんとか出来るようになったので剣をぶん投げて相手の体勢を崩す方法を試す。


 狙い通りキャロルの体勢は崩れた為殴りかかるも簡単に掴まれて拳を握りつぶされる。鎌は軽いのではなく彼女の身体強化が優れている為重量をものともしていないのだという事が分かった。


「次」


 二十回目では聖剣で鎌を受け止めることに成功する。力を逃がす方法が分かってきたためそれを試す。一撃は防ぐことが出来たがその膂力に足腰に力を入れなければならず、動くことの出来ない隙を投げつけられた短刀で喉を貫かれて殺された。


「次」


 三十回目、聖剣で受け止めるのではなく受け流して彼女の懐に潜り込む。体勢を崩したところからでも問題なく短刀を引き抜く彼女を見て一歩下がりその短刀を躱す。


 鎌と短刀を躱しチャンスだと思った僕は聖剣を叩きつけようとするが、聖剣を握っていた腕の手首から先が消し飛んでいた。見れば短刀を捨てた手をこちらに向けており、その手からは煙が出ている。どうやら魔法を使われ僕の手は消し飛んだらしい。


 そのまま振り下ろされる鎌で死ぬ。


「次」


 四十回目、彼女の手札の多さをようやく認識する。鎌による中距離戦、隠し持った短刀による近距離戦、魔法を使った遠距離戦と隙が無い。どれだけの年月をかけてそこまで行ったのか僕には想像も出来ず、恐らくその道は辛く険しい物だったのだと場違いな尊敬の念を持ちながら殺された。


「次」


 五十回目、彼女の初撃の鎌を聖剣で受け流し地面の石を拾って投げつける。咄嗟に素手でキャロルはそれを払い抜けそのままこちらに手を向け炎魔法を撃ち込んでくる。


 それを聖剣で受け止め、破裂する魔法に合わせて全力で後方に下がる。勢いがつきすぎて木に背中からぶつかり空気が肺から吐き出され呼吸に苦しみ、動けなくなったところで追撃の魔法で殺された。


「次」


 鎌で袈裟斬りにされて死ぬ。


「次」


 炎魔法で焼き尽くされて死ぬ。


「次」


 水魔法に包まれて窒息して死ぬ。



「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」

「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」「次」


 死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで

死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死に続ける。


 どんな抵抗も意味を成さず、今ある手札では全く覆せず、ただ苦痛に抵抗するも死ぬまでの時間が長引くだけで生きるルートが見つからない。


 何も出来ずに死に続けて、その死に圧し潰されそうになって、死ぬという事が当たり前になりかけた時、僕はずっと傍にいたはずの幼馴染をその目で捉えた。


 その顔は驚愕と絶望に染まった顔だった。僕が一番嫌いな顔だった。彼女にはずっと笑っていてほしくて、僕は笑い続けたのだから。


 それが僕のルーツだ。僕は不幸が嫌いだ。自分が不幸になるのも嫌いだし他人が不幸になってる姿を見てても不愉快な気分にしかならない。


 だから僕はアニメやゲームに嵌った。幸せそうに大切な誰かと笑いあっている彼らを見て、この方がずっといいと思った。幸せそうな光景を見ることが、それを見て生きるのが僕の目的になった。


 そうだ、僕はこんなところで死ぬわけには行かない。死んだらヒカリが泣く、優しいアリシアもきっと傷つく。故郷の母さんだって泣くんじゃないだろうか。


 そんな結末絶対に認めない。僕は、僕の大切な人には笑っていてほしいのだから。



「ッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」


 口から出た叫びは言葉の体を成していなかった。獣のごとき、生きること以外の全てを投げうった叫び。その叫びに呼応するように僕の脳にこれから起こることとその対処法が瞬時に思い浮かぶ。


 まず鎌が振るわれる前に懐に入り、聖剣をでたらめでもいいので振るい続ける。相手の鎌の有効範囲から外れつつ短剣で突かれないように絶妙な距離を保つ。


「考えたようだけど、これは?」


 爆発する炎魔法を撃ち込まれる。死に続けるうちに認識出来た魔力を聖剣につぎ込み、咄嗟に闇魔法を発動。闇魔法の引力に引かれて爆発魔法は聖剣に吸い込まれ、聖剣に爆発魔法が当たる前に上空目掛けてぶん投げる。


「武器を投げるなんて馬鹿な真似」

「じゃないんだよなぁこれがぁアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 爆発魔法は闇魔法によって引き付けられる為使用不能。鎌で斬りつけるには距離が近すぎる。そうなった以上彼女の最良の手段は懐に隠し持った短刀のみ。脳に浮かんだ光景と同じようにキャロルはそれを抜き取って僕を貫こうと最速最短で踏み込む。


「なっ!?」


 その瞬間、聖剣が物凄い速度で落ちてきて振り上げていた僕の掌にすっぽりと入り込む。


 僕の手から離れても発動した闇魔法は注ぎ込んだ魔力が切れるまで発動し続け、爆発魔法を引きつけ上空で着弾。


 爆発によって加速した聖剣は僕の掌に戻ってくる。これは何度か聖剣を置き去りにしようとした時に確認したことと同じ。|聖剣は決して僕から離れない《・・・・・・・・・・・・・》。


 この手に戻ってくる速度はそこまで早くはないが、爆発による加速力を得た今なら話は別だ。


 目の前のキャロルの予想を超えた速度で戻ってきた聖剣を手に、その勢いのまま振り下ろす。


 彼女もまたその短刀で貫くしかないと認識したのか迷いを消してそのまま真っ直ぐ突っ込んでくる。


 そうして聖剣を振り下ろした後、僕の視界はまた赤に染まった。



評価&感想オネシャス


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― 新着の感想 ―
[一言] わぁ無限地獄… キャロルさんにもいい人が見つかると良いですね!
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