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騎士団でマラソン中

ここらへんからトーマ君ははっちゃけだします


ここまではぶっちゃけジャブです


「ようこそ陛下、まずは改めて自己紹介を。私がソードリア騎士団団長リチャード・イズミです」

「団長補佐、マティリアです。本日は我々で陛下に騎士団について知っていただく為説明をさせていただきます」


 現在僕の目の前にいるのは見上げなければ顔が見えないほど高い赤い髪の偉丈夫と、生真面目そうなそれこそ少女と女性の間のようなまだまだ年若い女性だった。


 彼らこそがこの国の騎士団のトップとその補佐。その下に第一から第三騎士団の下部団長が存在し、さらに下に部隊長という風に並んでいる。


 と言ってもまずは全体的に何をやってるかの説明をされるのだろう。僕は未だに何も知らないのでその方針に反対する理由はどこにもない。こういうことの記憶はもうほぼないから前世の記憶とか役に立たないし。


「はい、今日はよろしくお願いします」

「陛下。慣れないのは分かりますが敬語はおやめください。既に貴方は我々のトップに立っているのですから。名前も呼び捨てか、騎士団長をお付けください」


 確かにそうかもしれないが自分より年上で、さらには立派そうな騎士団長に素で話すというのも中々に難易度が高くてキツイ。


 ただこういう威圧感のある人と接する機会はこれから増えてくるし、明確な味方であるリチャードで慣れるべきというのは分かる。国としては王が舐められては困るのだから。


「あー、うん、分かった。それじゃあ色々と教えてね」

「御意」


 しかし何というかまさに武人って感じだよね……。僕はこの人にこれから鍛えられるのか、今からその訓練に耐えられるか心配になるが栄養は十分に貰ったので耐えなければならない。


 あぁ……、リチャードとマティリアの先程のやり取りを思い出すだけで三日は戦える……。


 さらに朝に出会ったエリウス君とクラリスちゃんのやり取りを思い出せばさらに三日間、合計一週間程度は死ぬ気でやれるはずだ。僕の精神は今世において最も充実していると言っても過言ではない。


「そういや騎士団って具体的に何やってんだ?あんまり意識したことないけど」

「そうですね。平民出身の方にはあまり馴染みがないですが、主な仕事は盗賊退治を始めとした武力の行使です。陛下がいらっしゃらなかった以前までは限定的にですが『王戦』に代理で参加することも」


 僕がまたどこかにトリップしていた為代理で話を切り出したヒカリ。こういうところは実に気が利くと毎度ながらに思う。


 さて、『王戦』に参加出来るのは各国の王だけではないのは以前も言った通りだ。我が国の騎士団は団体戦という条件において『王戦』に参加して来た。


 ただし各国の王というのはその武力が突出している存在でもあり、そんな相手に対抗できるのもまた王であるというのが常識なのだ。


 今まで『剣王』がいなかった彼らは参戦した『王戦』の殆どに敗北してきたという経歴を持っている。それほどまでに王の有無というのは大きいという事だ。


 外交官が王を求めていたのと同じくらい、もしくはそれ以上に王が現われるのを求めていたのは彼らかもしれない。


「それでは陛下、まずは走りましょう。どれだけ体力があるのかを調べます」

「え゛っ」


 走るって、もしかしてマラソン?僕マラソンが死ぬほど嫌いなんだけど。


 アレでしょ、延々と息苦しくなっても走り続けて限界を競う競技でしょ?いや違うかもしれないけど、要するに走ることに変わりはないわけで。


 そして僕は走るのが嫌いだ。ぶっちゃけ運動自体が嫌いだ。ここに来て決めてきたはずの覚悟が揺らいで揺らいで仕方ない。


「陛下を鍛え上げる役目を私……俺は引き受けました。その際に甘さは排除します。そうでなければ実戦において陛下が死ぬ可能性が増えるからです」


 うん、それは分かるよ。分かるけどね?


「陛下に恨まれることになろうとも、その重責を背負わせてしまう立場であるのならばせめて最大限鍛え上げその負担に耐えられるようにするのが俺の役割です」


 それ自体はとてもありがたいんだ。でもね?


「ですので陛下、走ってください。一般騎士兵と共に走り込みをし、その限界を見極めます。体力の一滴までも絞りつくしてください」

「すみませーん、セバスさーん。この後ってなんか予定なかったっけー。ここで俺倒れたらまずいんじゃないのー???」


 もはや彼を説得することは不可能、ならば外部からの介入しか俺が生き残るすべはないと見た……!!


 頼むよセバスさん!!俺の望む答えをどうかください!!!!


「この後の予定はございません。本日はほぼこの騎士団での体力測定に使う予定でしたので」

「ガッッッデム!!!!!」


 途端に膝から崩れ落ちる。全身に力が湧かず、前世の薄らいだ嫌な思い出が蘇る。


 そう、あれは剣道部に所属していたころ。なんか親睦会だとか仲良くなる為とか言われてジャイアントスリングでマットにぶん投げられていたころ。


 痛みにいつまで経っても慣れず、かといって防具や竹刀を買ってもらったことからやめたいとも言えず、先輩達からの可愛がりを受けた頃の記憶が……。


「ガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!」

「なんか物凄い勢いで首が上下に振られてんなぁ……。おーい、落ち着け馬鹿ー」


 はっ!!あ、危なかった、前世に飲まれるところだった。


 ヒカリという幼馴染の声で正気を取り戻した僕はいやいやながら立ち上がり準備運動を始める。どうせもう逃げられないのでせめて怪我をしないように、無難にこなすことを目標にした。


「アレが俺達の王様かよ……」

「他の所と見比べると見劣りするよなぁ……」

「聖剣が抜けただけで王様ってのはやっぱどうかと思うぜ俺は」


 騎士達からそんなボヤキが聞こえてくるがそれをわざわざ否定する気もない。むしろそれを一番に肯定したいのは僕なのだから。


 それでもこの聖剣は抜いてからというもの僕から決して離れようとしない。夜中にトイレに行こうとして離れた時には聖剣がこちらにぶっ飛んできたときにはビビったよ。


 感覚的にだが多分目の届かないところに置いて離れたら瞬間移動してくるんじゃないかと薄々思っている。


 まぁ理由はなんであれ抜けてしまったわけで、それで自分達の上に立たれるというのは非常に不愉快だというのも分かる。なので僕はどうこう言われてもまるで気にしないのだが。


「トーマ、アイツら全員ぶっちぎってトップ走れよ。絶対だぞ」


 僕の負けず嫌いの幼馴染はそれを認めたくないらしい。勘弁してくれ、走るのは僕なんだ。


「ヒカリさんヒカリさん、無茶言わんといてよ。あの人達本物の騎士だよ?追いすがるのだって難しいと思うんだけど――――」

「最後まで走り抜けたら膝枕してやる」

「やります」


 今までのことから我が幼馴染はその強気な性格と鋭い視線、激しいツッコミからかなり性格が強いことが分かるだろう。


 そして同時に彼女はひどく恥ずかしがり屋でもある。人前で手を繋ぐことさえ躊躇うし実行に移したときなんてそりゃもう林檎のように白い肌を真っ赤に染めていた。


 そんな彼女の膝枕なんて僕も経験したことない。しかも今はメイド服を着用中。


 銀髪美少女メイドの膝枕なんてご褒美、気合いを入れて全力で勝ちを取りに行かなければ嘘という者だろう。やる気ない奴はチン○ついてないと思っていい。


「それでは陛下もやる気になられたようなので体力測定を開始する。全員修練場を十周走るように」


 気合いを入れながら位置に着く。目指すは一位。いや、獲るのは一位だ。他の順位は全て最下位と変わらない。


 誰が言ったか忘れたが、いい言葉を思い出した。ねだるな、勝ち取れ。さすれば与えられん、ってなぁ!!!!


「では開始!!!!」


 その合図とともに全力を出して他の騎士達の先頭に着き、そのまま走り続ける。息が苦しいのもあるがそんなもの酒屋で酔っ払ったおっさん達にぶっかける水を夜中に井戸からとってきた時と変わらない。


「は、頑張って走っちゃってまぁ」

「どうせそのうち息切れするって」

「可愛い女の子の前でかっこつけたいからってよぉ」


 そんな声が後ろから聞こえてくる。別にその言葉に対して反論するつもりはない。大体の言葉は正しいのだから、それに対して言う事はないと思える。


 それでも一つだけ言えることは。


「可愛い女の子の前でかっこつけられない男は男じゃねぇ!!!!!」


 そうだ。僕の好きなカップルの男たちはいつだってカッコつけていた。


 それは意地か、覚悟か、信念か。はたまた好きな女の子によく思ってほしいからなのか、理由はそれぞれ違っていた。


 それでも彼らは全員カッコよかった。好きな女の子の前でその姿を見せていた。男の意地をまっすぐ貫いて、敵にも己にも立ち向かい勝ち取ってきた。


 そんな彼らの姿に彼女達は惹かれ、僕も彼らの関係性を尊いと思い全力で推してきた。遠い場所で行われてグッズ即売会にも行ったし特典付きDVDとか買いあさった。おかげで毎月金欠だったけれど。


 この世界では最推しのカップルはもういない。残念だがそれはもう認めよう。


 これから先、ヒカリとアリシア。彼女達の関係性がどうなるかはわからない。それがいい方向に行くことを望んでいるが、結局そこは当人たちの問題だ。


 まぁ長々と内心を語ったが後ろを走る騎士達に言いたいことは一つだけだ。


「銀髪美少女幼馴染メイドに膝枕してもらえるチャンスなんて今後あるか分からないんだからお前ら全員僕の為に地べたに這いつくばってろぉ!!!!!」


 体力不足の王様に負けちゃってるなんちゃって騎士団が!!!僕の欲望は世界を超えて魂に刻み込まれるレベルで強いぞ!!!!!


 欲しいという想いは何よりも強いみたいなことを誰かも言ってた!!!!


「おい貴様ら!!陛下にトップ独走を許すなどどういうつもりか!!!鎧と革服の違いはあれど先日まで平民でいらした陛下に負けるなど、騎士としての鍛え方が足らぬ!!!!」


 走り出してから何周したかは分からないが結構な時間が経ってなおトップで走り続けたことでついに団長から騎士達に怒号が飛ぶ。


「いやだって王様すげぇ体力あるんですよ!?」

「なんであの速さでまだ走れてるんだよ!!本当に平民だったのか!?」

「すみませんナマ言いました許してください!!!」


 後ろからの声に少しの疑問が浮かぶ。欲望という名のガソリンで走ることが出来ている僕だが、ここまで体力があった覚えはない。


 ではなぜ走り続けることが出来るのか、腰につけた聖剣が少し熱くなっている気がする。恐らくだがこの剣が何かをしているのだろう。


 決して離れないことと異常な直観力を得られること以外は普通の剣と同じだと思っていたが、まさか体力向上の効果でもあったのだろうか。だとしたらありがたくその力を使わせてもらうまでだ。


「というか王様だけご褒美ありはずるいっす!!」

「そうだそうだ!!俺達にもご褒美が欲しい!!!」

「そしたら絶対に俺が勝つのに!!!!」


 フハハハハハハ!!!モチベーションの違いが戦力の決定的差だという事を教えてやるよぉ!!!!


 ただそう言いつつもその声は僕のすぐ後ろから聞こえてくるあたり言うほど僕と彼らの間に差はないのだ。油断など出来るはずもなく、己の欲望を叶えようとする僕に、いや走る者全員に更なる爆弾が投下された。


「あ、あの……膝枕でしたら、私でよければします、けど……」


 僕達と共に騎士団の訓練の見学をしてきた聖女・アリシアがそんな声が聞こえた。


 そしてその声が全員に届いた瞬間、後ろからの圧力が倍増し駆け抜ける脚音の速度も速くなったのが分かった。


 つまるところコイツら全員アリシアの膝枕という餌に釣られて走り出した馬なのだ。人参を頭の前につるされた馬と同様止まることを知らずに体力の尽きるまで走ることを約束された存在になったのだ。


「この俗物共が!!!そんなに女の子に膝枕されたいのか!!!!」


 思わず叫ぶ。それでも国を、民を守る為に存在する騎士なのかと。高潔な魂とかはどうしたこの俗物共が!!!!


「王様には言われたくねぇよ!!!!」

「この中で誰よりも欲望に忠実じゃねぇか!!!!」

「というかさらに早くなってるのおかしくない!??!」


 どうやらこの聖剣は僕の欲というか望みの大きさでその力を強くしているらしい。


 うーん、欲望の塊である僕とは相性がいいのかもね?


「あ、あの。トーマさんの顔が、その……真っ赤じゃなくて真っ青になってる気が……」

「気のせいじゃないな。まぁ死なないなら大丈夫だろ。膝枕云々言ってる場合じゃなくなりそうだけどなー」


 その後僕は聖剣の力もあり、トップのままで走りぬくことが出来た。走り終わった瞬間に倒れて死にかけたけど。


 聖剣、コイツが僕の魔力をかなり消費する大喰らいだと判明するのはまだ先の話だった。


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