8.聖剣変形
「殊勝じゃないか、自分から、聖剣で素振りしたいなんて」
私は、借りた聖剣で素振りをしながら歩きます。
「ソウは言いましたよね。力は筋力と魔力と気力の組み合わせだって。いくらなんでも気力だけでは、限界があります。やはりまずは筋力を鍛えなければ」
魔力は理屈がわかりませんので、どう鍛えればいいかもわかりません。
ただ筋力は単純です。
負荷をかけて鍛えるのみです。
筋力で、腕が太くなるのは、少し嫌ですが、亡者に殺されるのはもっと嫌です。
筋力で、100回振ることができるようになれば、気力で1000回振れる気がします。
聖剣はかなり重いので、鉈なら、もっと振れる気がします。
護身用の剣なら、紙のような軽さに感じるでしょう。
敵に襲われてから無力を嘆くぐらいなら、やれるときに、できることをやっておいたほうがいいでしょう。
「振る瞬間、もっと足腰に力入れてみろ」
ソウがアドバイスを投げてきます。
「はい!」
私は、言われた内容をよく考えてみます。
今までは、振ることばかりに気が向いていたので、足運びにも意識を向けます。
聖剣を振った瞬間、足腰に力を入れてピタリと止まると、聖剣だけが勢いを増して振り抜くことができました。
しかも、ほとんど腕に力を入れていません。
力が分散し、これならばもっと長期的に戦えそうです。
私は今の感覚を忘れないように、何度も振ってみます。
ソウは私が自発的に、トレーニングしていると勝手にアドバイスをしてくれます。
ほんの少しだけ。
一段だけ階段を上るような、最適な一言。
体は常に悲鳴を上げていますが、少しずつ強くなっている気がします。
私が気合いを入れ直すと後ろから視線を感じました。
振り向くと、旅に同行している女の子が訝しげな顔をしていました。
「あんたたちの関係はいったいなんなの? 見た目は、お姫様と冴えない従者って感じなのに、会話は逆だし」
「ははは、そうですよね」
私は乾いた笑いが出てしまいます。
私は、今の関係性に違和感を感じなくなってきました。
完全に主従が逆転してしまっています。
今の関係を言い表すならば、
「ソウとの関係は師弟でしょうか。ソウは私の師匠みたいなものです」
「師匠か、それは悪くないな」
師匠と言われてソウも悪い気はしてなさそうです。
「小娘、お前も、護身術ぐらい身につけとけ。すぐ死ぬぞ」
女の子はむすっとしました。
「小娘ってやめてくれない。あたしにも、クミースって名前があるんだから」
「名前なんてなんでもいいだろう。お前は俺様達の名前を覚えているのか?」
「それは、知らないけど」
「そういえばちゃんと名乗っていませんでしたね」
聞かれたことがなかったので、うっかりしていました。
お互い様ではあります。
今まであわただしかったので、ここらで落ち着いて自己紹介するべきでしょう。
「あらためまして私の名前はニルナ・サンヴァ―ラです」
私は、名乗って一礼しました。
「ソウにも、ファミリーネームを名乗ったのは初めてでしたね」
「ふん。まあ、ファミリーネームは知っている」
「サンヴァ―ラってこの国の王族の苗字じゃなかった?」
「ええ、そうですよ。私王族ですから」
ソウも、王族のファミリーネームは知っていたのでしょう。
伝統的な名ですから。
「マジでお姫様なの? 嘘でしょう。もしかしてあたし不敬罪?」
さっきのは冗談だったのですね。
つまり、今はお姫様には見えないということでしょうか。
それは、かなりショックです。
ただ、今では、
「不敬罪にできる権限なんて私には、ありませんよ。それに王族は……」
そこまで言いかけて、また腐臭を感じました。
辺りを見渡すと荷車を引いた冒険者達が襲われています。
ゾンビが10体。
数がそこそこ多いです。
ソウは鉈を構えました。
「聖剣は、お前が使え、一気に倒してしまうぞ」
「わかりました」
私は力を込めて、聖剣を握りしめます。
気持ちを込めてゾンビを見定めます。
腐肉を纏い、混濁した瞳で迫ってきても、もう怖くはありません。
倒します!
心から想いが沸き上がった時です。
カシャン
「えっ?」
聖剣が音を立てます。
今回はしっかり聞こえました。
何の音かよく分からず、しっかり聖剣を握りしめました。
カシャンカシャンカシャンカシャン。
「えっ? えっ? えっ?」
音が鳴りやみません。
なんというか、剣がどんな形を取ればいいか悩んでいるようです。
「しっかり、気持ちを込めろ!」
ソウの声に私は聖剣に向かって叫びました。
「はい!」
私は、聖剣をしっかり握りしめました。




