19.最強
僕の体に、百獣の王のような金色の髪を持つ大男の仮初の姿が重なった。
口を開くと、自分の声とは思えない野獣のような声が放たれる。
「はっはっは! 久しぶりだな、ヨウキよ!」
「あ、あなた」
「押し掛け女房してきたくせに、まさかそんなこと思っていたとはな?」
「あなたいつから聞いて……」
僕は、元々カキュルト回復魔法を研究する中で、少しだけ開けていつでも使えるようにしていた。
相手がニルナ様の体を使用している以上、剣術に対抗する手段として準備はしていた。
「まあ、いい。俺は嫁に良識は求めないが、子孫のことなら話は別だ! 俺様はニルナを頼むと言っただろう? 誰が悲しませろと言った?」
明らかに怒気をはらんだ声。
ヨウキ様が怯む。
「そんなひ弱な男の子の体で」
「そんな節穴だから、最後の最後でへまするんだよ。こいつは、毎日毎日、大の大人の死体抱えて平気で動き回ってる奴だぞ。ひ弱なわけないだろうが」
「あなたといえど、ハイラすら凌ぐこの子の剣術の前では」
ヨウキ様は、弧を描くような構えを取りながら、最大限剣に魔力を込めます。
魔力が斬撃となり、飛来してきます。
「その程度か」
ソウ様は後出しで、同じように構えると、魔力を剣に込め飛来させました。
ギャン。
魔力量は、ヨウキ様と全く同じ量。
空中でぶつかると、斬撃が綺麗に相殺されます。
「どうして、生前は飛ぶ斬撃なんて使ったことは……」
「お前と違って、俺様は子供に花を持たせてやる親だぞ。使えないふりしてやってたに決まってるだろうが」
「あなたもこの形状は使えないでしょう」
ヨウキ様は最大限魔力を込めます。
聖剣変形「炎の巨人の大剣」
剣が魔法を纏おうとした瞬間、ソウ様は手をかざしました。
パリィ。
瞬時に近づくと、完璧な精度で魔力を無効化します。
ソウ様の最大の特徴は、恐ろしい精度のアンチ魔法。
どんな相手であろうと、魔法を使えなくしてしまえば武器で戦うしかない。
「さあ、ヨウキよ。俺様に剣術で勝てるのか?」
ニルナ様は、いつもいつかはおじい様に勝ちたいと言っていました。
つまり、まだ勝てないということ。
聖剣変形「大狼の牙」
ギュルルルル。
メキャキャキャキャ。
圧倒的破壊力で、聖剣が破壊されていきます。
一撃で壊れてしまった聖剣が、カラリとヨウキ様の手から滑り落ちます。
ソウ様は、腰から魔杖を抜くとヨウキ様の首筋に突きつけました。
僕の魔力で、魔杖が変形する。
魔杖変形「冥王の鎌」
今度は、ソウ様の魔力で、護身刀が別の形状に変形していきます。
聖剣変形「邪神の封印剣」
ハデスデスサイズが、ヨウキ様の首筋にピタリとくっつく。
「ひっ」
死んでいるとはいえ、消滅の恐怖は拭えないのか。
ヨウキ様は顔を真っ青にしていた。
「お前も消滅したいのか、ネガイラのように」
「許して、あなた……」
命乞いをするヨウキ様。
僕は、ソウ様から口だけすこし支配を返してもらった。
「少し僕からもいいですか」
「なんだ?」
ソウ様が僕の口で返事をしてくる。
一人芝居のようで若干気持ち悪いが、僕はそのまましゃべる。
「魔女復活の件で確認しておきたいことがありまして」
「いいぞ」
「ソウ様は、一度目の魔女討伐の際、魔女を冥界に追い返した後、冥界の扉をパリィで閉めましたよね」
「もちろんだ」
戦いぶりを見て確信した。
正確無比な魔力コントロールの前に失敗などないだろう。
冥界の扉は完璧に閉じていたはずだ。
「なのに魔女は復活しました」
「そうだな」
「僕は研究の中で、冥界側から、開ける手段はないことはわかっています。つまり」
「つまり?」
「魔女の死後、冥界の扉が開くように仕掛けを施したものがいます」
僕はヨウキ様を見る。
「だれでもできるわけではありません。可能性が高いものは、魔女の手記を見ることができる王族で、霊魂と関わりのある主神例えば『死者を迎える女神』を持つ者であり、高度な魔道具例えば『聖剣』に触れることができるものでしょうか。あとは、現世にとどまり悪事を働こうと画策するものが怪しいでしょうね」
黙っていて何も言わない。
それが答えのようなものだろう。
全ては人災。
目の前の一人の魂が引き起こしたことだ。
「ハイラが言っていた。初めは母の策略であったが、ローアと一緒になれて幸せだったと、だから許してやってほしいと」
母親を悪く言う子供はいないだろう。
途中経過はどうあれ、人生の結末がめでたしめでたしであったのならば。
ニルナ様はどうだろうか。
大好きだった兄や、自分の勇者それらの直接の原因が魔女だったとしても、
根源はすべてヨウキ様だ。
すべての不幸はヨウキ様から始まっていた。
「ヨウキ、俺様の口癖は覚えてるよな」
「一度目は許すが二度目は許さない……」
「お前は何度目だ?」
「それは……」
ソウ様は、剣を放すとヨウキ様の頭を鷲掴みにして……。




