18.帰ってきた男の子
僕が王都に降り立つと、広場を覆いつくさんばかりの蝙蝠が飛んでいた。
僕は一番蝙蝠が多い広場に向かって急ぐ。
広場に差し掛かったところで、吹き飛ばされてきた蝙蝠が、見知った人の形になっていく。
「ルーンさん? どうしたんですか? ボロボロじゃないですか」
僕は、魔力を渡しながら、助け起こす。
「小僧、帰ってきてくれたのか」
どうしてルーンさんが王都にいるのだろうか?
ストークムス迎撃に行っていたはずなのに。
それに、僕が観測したのは、ニルナ様の魔力とレインリー方面の魔力だったはずだ。
「一体何が? ニルナ様は?」
「あやつは、強すぎる」
僕が魔力を渡しているというのに、元気にならない。
ずいぶんと魂自体が削られている。
「なにがあったんですか?」
「ニルナがヨウキに乗っ取られて……」
「ヨウキ? ヨウキって、ニルナ様のご先祖のサンライズ王家の最後の女王?」
「そうじゃ」
僕は、頭の中で情報を整理する。
自分が今持つ魔道具と使える魔法を考える。
「ルーンさん、ちょっとお願いしたいことがあるんですが」
僕は、ルーンさんに耳打ちした。
「それくらい簡単じゃが? なんでそんなもんがいるんじゃ?」
「とにかくお願いします。相手は僕がするので」
「わかったのじゃ」
ルーンさんが再び蝙蝠になって飛んでいくと同時に、近づいてくる人影が見えた。
「あら? 戻ってきたんですわね」
見ると聖剣を構えた、ニルナ様が立っていた。
ただ雰囲気がまるで違う。
そして、何より違うのは、瞳が太陽のように真っ赤に輝いている。
「あなたがヨウキ・サンライズですか?」
「よく知ってますわね」
オホホホと楽しそうに笑っている。
ニルナ様がそんな笑い方するところ見たことない。
どうやら本当に中身が別人のようだ。
「僕は、調べることとかそういうこと得意なんですよね。だからあなたのことはよく調べました。あなたは、ニルナ様の先祖でしょう。なぜニルナ様の体を乗っ取っているのですか」
「もちろん世界征服をするためでしてよ」
世界征服という言葉を聞き、ようやく腑に落ちた。
「あなたですか、ニルナ様に変なことばかり吹き込んでいたのは……ニルナ様は、世界征服なんて望んでいません。やめてもらえますか」
「こんな楽しいことやめられませんわ。誤算は、ニルナが雇ったあなたが魔力耐性も高く、ワタクシの魔法も効かず、想像以上に優秀だったこと。あなたが、私の計画を無理やり修正してしまうものだから、こんなに遅れてしまいましたわ」
十中八九、勇者襲来の件だろう。
「僕がどれだけ苦労したと思って……」
「最初の誤算は、世界征服のため洗脳しようとした海賊王が、随分お人好しで、最強のアンチ魔法の使い手だったことでしょうか。あれですべての計画が狂ってしまいましてよ」
「なるほど。いいんですか。そんな情報僕に渡して、僕は分析屋ですよ」
「どうせ、あなたは殺して差し上げましてよ」
「あなたを殺すのは、僕の方です」
「ワタクシを殺せますか。ニルナも死んでしまいましてよ」
「あるでしょう。一つだけアナタだけを殺すことができる魔法が」
僕は、魔杖に魔力を注ぐ。
魔杖変形「冥王の鎌」
僕は、魔杖を冥王が使用するデスサイズへと姿を変えた。
「そんな即死攻撃。すでに死んでいるワタクシには効果がなくてよ」
「なにを勘違いしてるんですか?」
「勘違い?」
「ハデスデスサイズの効果は即死ではありません」
触れたものが、死ぬのだから、即死だと勘違いしても不思議ではない。
「ハデスデスサイズの本当の効果は、肉体を傷つけずに、魂を切りはなすことです」
普通の人間が死ぬ原理は、切り離された魂が肉体に戻ることができず、行き場を失い冥界へと向かうからだ。
「もうすでに死んでいるのに、切り離した程度でなんだというのですか?」
「まあ、これだけなら、そうですよね」
切り離せれば、
すかさず、魂破壊を伴う形状で突き刺せばいい。
僕は自分の魔道具に魔力を注ぐ。
魔筆変形「伝令神の金剛の鎌」
筆はぐるんと回って変形すると、湾曲した鎌のような不思議な剣になった。
「ヘルメスハルペー、魂破壊効果のある僕の武器です」
僕は二本の鎌を構えてみせる。
「つまり、この二本の鎌があれば、ニルナ様を傷つけず、亡霊であるあなたを殺すことができます」
ヨウキ様は、余裕の表情を崩さずに言う。
「だったとしても、ワタクシにそんな取り回しの悪い鎌あてることができまして?」
「だから、捕らえます」
僕はマフラーに魔力を注いだ。
魔布変形「捕らわれの姫君」
マフラーは先端から金属の光沢を放つ鎖へと変わっていく。
ジャラララララ。
金属音を立てながら、鎖が螺旋のように広がっていく。
「僕は剣士に負けたことはありませんよ」
一本程度切れたところで、どうすることもできないほど埋め尽くす鎖。
鎖とは、人を捕らえるもの。
全自動で、思い通りに動き回る幾本もの鎖を逃げ場がないように放った。
「その程度たいしたことありませんわ!」
ヨウキ様は、聖剣に魔力を注いだ。
聖剣変形「炎の巨人の大剣」
熱量を上げる炎の大剣が鎖を斬るのではなく、溶かしていく。
「これは、ニルナ様と出会った時に見た爆炎剣!?」
ジャイアントゾンビをも一撃で仕留める炎の魔剣。
空間を埋め尽くすほど放っていた鎖がみるみる溶かされてしまう。
すべて溶かされてしまっては、再構築できない。
「相性が悪いか」
僕は魔導具を壊される前に、引き戻した。
どうやら、ニルナ様と同じ聖剣形状が使いこなせるらしい。
「すべて燃えてしまいなさい!」
剣に炎を纏い、さらに火勢を強めた。
飛んでいく火の粉が広場周辺の建物に延焼していく。
「なに考えてるんだ!」
明らかに、被害や人の命のことを考えていない。
僕は急いで、持っていた二つの鎌を元に戻し、再度魔杖に魔力を注ぐ。
魔杖変形「怒りを買いし海洋神」
魔杖をぐるんとまわして、三叉の槍へと変形させた。
僕は、武器として使うのではなく、振り上げてさらに魔力を注いだ。
「ニルナ様が大事にしている王都を壊すな!」
突如、海が現れたような大量の水が、炎の渦をさらに上から飲み込んでいく。
「さすがですわ。ここまで力を隠していたとは。でも、どうするんですか? そのマフラーは、鎖になることしかできないようですし、魔法は得意なようですが、どれもこれも威力が高すぎて、この子を傷つけずに捕らえることは難しそうでしてよ」
「魔法でどうにかなることなら、僕にはなんだってできます」
「強がりを」
僕の近くに、蝙蝠たちが集まってきて、また人の形になっていく。
「小僧とってきたのじゃ!」
僕は腰に魔杖を刺しながら、ルーンさんが投げてよこしたものを受け取る。
「だから、これで勝負です」
僕はニルナ様が大事にしていた護身刀を鞘から抜きはなった。
「あなたが剣術で? ろくに握ったこともないでしょうに。この子の中でワタクシも剣術のすべて吸収しました。剣聖である我が子ハイラよりつよいのですよ。この世に剣術でこの子に勝てる者がいますか」
「この世にはいないかもしれませんね」
僕は、いいながら手でルーンさんに下がるように指示した。
「だったら、勝てるわけないでしょう。あなたが死んだら、もうこの子は立ち直れませんわよ」
ヨウキ様は、強く踏み込むと、剣を振り抜いてきた。
ガキン!
僕は、護身刀で受け止めた。
「運がいいことで」
「まぐれとでもいいたげですね」
「それ以外なんだというのでしてよ」
ヨウキ様は、聖剣に魔力を注ぎ変形させる。
聖剣変形「運命の剣」
消えるような踏み込みを僕はしっかり見定める。
風を切るような斬撃を難なく受け止める。
「そう何度も」
「だから、まぐれではないと何度言えばわかるんですか?」
僕の体が動く、まるで誰かに操られているように。
体の奥から自分のものではない魔力が沸き上がってくる。
護身刀に、その魔力をそのまま流し込んだ。
聖剣変形「大狼の牙」
護身刀全体に幾何学的な紋様が浮かび上がると、刃が細かく割れて、両刃の鋸のような形状に変化する。
振り抜くとウィ―ザルソードはいとも簡単に砕け散った。
「なぜあなたが、この形状を……」
女王は、聖剣を再構築する
聖剣変形「勝利の剣」
僕は余裕を持って受け止めた。
「さあ、問題です。あなたがニルナ様の剣術を使っているように、僕は誰の剣術を使っているのでしょうか?」
「なんのことでして」
つばぜり合いをしながら僕は問題を出す。
「この世には、ニルナ様に剣術で勝てる人はいないかもしれません。でも、あの世には確実に一人だけニルナ様に勝てる方がいますよね」
「まさか……ソウは、冥界にいます。冥界の扉を開くことなんて……」
「冥界の扉が開くところなら見ていますし、僕は何度も竜界で異界の扉を開く練習をしていました」
そもそも僕はウーツ魔王とネガイラ魔女の魔法を調べるために、ニルナ様の元で働いていたのだ。
僕は、腰にある魔杖に魔力を注ぐ。
「僕は魔法でできることなら、なんだってできる」
遺体――転がっていた神父を生贄に捧げ、
禁忌の先にある扉を開く。
「開け、冥界の扉!」
僕の瞳が真っ赤に輝く。
「来たれ、英霊。強きを挫き、弱きを助ける最強の海賊王!」
英霊召喚『覇王』




