17.女王VS吸血王
マントをはためかせて、回り込み、首筋に喰らいつこうとしたところを、蹴りで弾き飛ばされる。
内臓が完全に破壊されていた。
普通の人間なら確実に死んでいる。
「なんちゅう動きなんじゃ」
自分の意のままに強化できる体を持っているというのに、身体能力で上回られてしまう。
生前はまるで戦闘なんぞできなかったというのに、ニルナの体を得て、水を得た魚のように縦横無尽に動き回るヨウキ。
「これだけ動くと楽しいですわね」
ヨウキははしゃぐような声をあげる。
「鍛えたのは、ニルナじゃぞ」
毎日毎日、飽きもせず一日中動き回る修行大好き元気娘の体は、恐ろしいほどよく動く。
「もっと動きましてよ」
ニルナと瓜二つのヨウキの魔力が聖剣に注がれる。
聖剣変形「運命の剣」
薄く鋭い剣へと変形させると、瞬時に妾の体を切り刻んだ。
鮮血が宙を舞う。
「つぅ」
魂の破壊効果はないため、瞬時に体は復元していく。
ただ流れ出ていく血と共に徐々にため込んでいた魔力を消費していく。
自分の死因はたった二つだけ。
魔力が底を尽きるか。
魂が破壊されるか。
それだけだというのに、目の前の女は余裕そうに、邪悪に笑っていた。
「ルーン、ワタクシの旦那様と渡り合ったという話は嘘だったのかしら?」
ずきりと、ソウに斬られた腕が痛む。
「嘘じゃないわい」
斬られた傷から流れ込んできた崩壊の力。
かつて死にかけるほど浴びた魔力。
100年もの間、蝕まれ耐えた脅威。
浴びた魔力が、力になる。
「これならどうじゃ」
魔力を消費し、体全体を変化させていく。
魔獣変化「大狼」
灰色の毛皮に覆われた大きな獣に変化していた。
ウォオオオーン。
大きな遠吠えを一声あげると、冷酷な牙を輝かせて、その大きな前足でヨウキに襲い掛かる。
「動物変化ならまけませんわよ」
聖剣変形「豊穣と愛と美の女神の首飾り」
聖剣が首にするりと巻き付くと、そのまま効果を発揮した。
動物変化「怒りて臥す者」
ヨウキは、大きな手の生えた蛇のような姿に変わると、フェンリルの腕を受け止めた。
「なんじゃと」
魔法的な黒き瞳で見つめられて、一瞬ひるむも、そのまま、牙を鱗に突き立てようとした。
ガキン!
暗い色をした鱗に、牙を妨げられる。
(なんて硬さなのじゃ)
世界すらも喰らいつくす、オオカミの牙が通らない。
ヨウキは嘲るように笑っていた。
「ニーズヘッグは、死者の魂の喰らい手ですわよ。逆に亡者であるあなたを喰らいつくしてあげますわ」
ニーズヘッグの口からは毒液が滴り、その毒液がルーンの不死性を腐食させていく。
たまらず、変化を解き離れようとした瞬間。
聖剣変形「最高神の槍」
素早くヨウキも変化をといて、聖剣を槍と化し、投擲してきた。
「ぐッ!?」
至近距離から放たれた、必中の槍を、体の一部を蝙蝠と化し、分離することによって防ぐ。
「はあ、はあ」
防ぐというほど、防げてはいなかった。
分離した蝙蝠は、跡形もなく消えていく。
確実に分離した蝙蝠に含まれていた魂が消滅していた。
「なんて武器なのじゃ」
触れることすら許さない、魂を破壊するグングニル。
死の恐怖から、癖で霧化しようとする。
「霧化は使えんかったの」
どうにか、思いとどまる。
ただ攻撃では、どこを攻撃されても死ぬことはないが、グングニルで心の臓を突かれてしまえば、ヴァンパイアといえど死んでしまう。
霧化しても、必中の効果は心の臓を的確に捉えるだろう。
逃げ出したい気持ちと必死で戦う。
妾はヴァンパイア。
心の臓さえ突かれなければ、そう簡単に死ぬことはない。
ほしいものを取り戻すためには、多少の犠牲はつきもの。
「こうなれば、数撃てば当たるじゃ」
牙が少しでも、柔らかい部分に刺さりさえすれば、吸い出すことができる。
魔獣変化「鳥に似て非ざるもの」
獰猛な無限の蝙蝠に分裂し、ヨウキに襲い掛かる。
グングニルの一振りで、何匹もの蝙蝠が消滅していった。
ヨウキは残虐な笑みを浮かべていた。
「さあ、いつまで持ちますかね?」
それはもちろん。
「ニルナを取り戻すまでじゃ!」




