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英霊召喚に失敗して私の勇者を乗っ取られました ! 王女の私が、世界を救ってみせます ――聖剣と悪の血統者――  作者: 名録史郎
ep3.魔王降臨です!

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16.領主

 

 僕が地方の領主に就任して数日後。


 道がふさがれ立往生している馬車がいるとのことだったので、僕はミーユと一緒に急いで救助にむかった。


 大きな木が横倒しになって道を塞いでいた。


「これはいけない」


 僕は自前の魔道具であるマフラーに魔力を込める。


魔布変形「捕らわれの姫君(アンドロメダチェーン)


 布は、自在に動く、銀色大きな鎖と化した。


 瞬時に、大木に鎖は巻き付くと、力任せに道のわきにへとどかしていく。


「ありがとうございます。領主様」


 礼に僕は笑って見せる。


「感謝なら、僕をこちらに寄越したニルナ様に」


「女王様のことですか?」


「はい。そうですよ」


「会ったことありませんが、素敵な方なんですね」


「その通りです」


 僕は、長々とお礼を言ってくる、領民に手を振った。


「ああ、癖でやっちゃった」


 もうニルナ様、イメージアップ大作戦なんてやらなくていいだろうに。


 僕は頭を振る。


「この国の王がいい人だって、信じている方が幸せだよね」


 僕の気持ちなんてどうでもいい。

 領主なのだから、領民が幸せに過ごせるのであれば、それでいい……はずだ。


 僕は、細かい木片もアンドロメダチェーンを使って片づけ始めた。


 見ていてくれていたミーユが声をかけてきた。


「手伝うことない?」


「大丈夫だよ。魔法を使えば簡単だからね」


「変わったね。フィルク、昔は人助けは、影からこっそりやっていたのに」


「まあ、もう王都で目立つのはなれたよ」


 ニルナ様が、何か言う度に僕は王都中を走り回って、いろんな人の話を聞いた。

 

 ニルナ様は、『いい感じ』としか言わないので、まずその『いい感じ』がいったいなんなのかみんなに教えてもらう必要があった。

 

 教えた要望が叶えば、人々も僕が何かしたのだと思うだろう。

 裏からこっそりというのは、流石に無理がある。


「それに今は領主だからね」


「ふーん。そうなんだ。私だけが、カッコいいフィルクを知っているのもよかったんだけど」


 昔から、ミーユの前では、いろいろ話してしまっていた。


 魔法のこと。

 人々を陰ながら助けたこと。


 世間から認められたいとかいう承認欲求は、僕は低かった。

 それでも僕も男の子で、好きな女の子の前では、かっこつけたかったということだろう。


 そこだけは昔からあまり変わっていないのかもしれない。


「さて、早く終わらせて、戻って仕事しないとね」


「この後も仕事するの?」


「今日はまだ何もしてないよ?」


「あいかわらず、人助けは、仕事にはいらないのね」


 ただのボランティアだろう。

 お金には、恵まれている。

 だから、お金が幸せということにはならない。


「みんなの幸せが僕の幸せだよ」


「フィルクらしい」


 ミーユが笑ってくれた。

 僕が守りたいのは、その笑顔だった。


◇ ◇ ◇


 僕は片づけを終わらせて、軽く伸びをした。

 鎖を元のマフラーに戻していると、ミーユが驚いた顔をして、遠くを見た。


「なに、あれ?」


 突然、見覚えのある乗り物が突撃してきた。


「ああ、大丈夫。知り合いの乗り物だ。でも、どうしてこんなところに?」


 こっちに向かって進んできていたのは、魔導戦車。

 クミースさんの乗り物だ。


「知り合い? フィルクの」


 王都では、すぐ追い出されてしまったので、

 ゆっくり知り合いを紹介する暇はなかった。


 僕が説明する前に、魔導戦車は僕らの隣にやってきて、停止する。


「フィルク! いた! よかった」


 クミースさんが、魔導戦車から飛び降りてきた。


「フィルク乗って!」


「急にそんなこと言われても、どうしてこんなところに?」


「フィルク、ニルナを助けてあげて」


「僕は、追い出されて……それに、僕がやらなくても、みんなもいるでしょう」


 僕なんかいなくても、レザ君たちもいるし、ルーンさんもいる。

 

「レザ君たちが、昔、盗賊団してたの知ってるでしょう」


「まあ、僕が、損害賠償処理したし」


「王都はいろいろ噂になって大変になっちゃって、アステーリに行っちゃった」


「そうか、気になっちゃったか」


 噂の方は、実は結構昔からあった。

 僕が、レザ君たちの人の好さで、ひとつづつ噂を相殺して回りながら、レザ君たちの耳に入らないように気を付けていた。

 

 僕ですら、補助関係の手配の仕方に偏りがあるなどと、いろいろ言われたりする。


 正直、誰からみても、平等にするなど絶対無理だし、気にしていてはなにも行動できなくなってしまう。


 批判を気にするより、味方をいかにして増やすかの方が大切なのだ。


「もう少し、政治についても教えてあげればよかったね。でもルーンさんはいるでしょう」


「ルーンは、ストークムスの応戦にいって」


「ストークムス?」


 僕は、ストークムスの方角を月の瞳で確認する。


「なっ?」


 大規模の魔力の動きが確認できた。

 怪我もさせずに、勇者を追い返したから、しばらくは動きはないだろうと思っていたのに。

 随分、好戦的な国のようだ。


「ルーンは、自分一人でどうにかするって言ってたけど、ニルナのために、無理してたの丸わかりだし……フィルクがいなくなってから、ニルナも余裕はないし。ねぇ。王都に戻ってきてよ。フィルクはニルナに追い出されたって、ニルナのこと、ざまあみろ、なんて思う人じゃないでしょ」


「それは……」


 帰りたい。

 帰るわけにはいかない。


 僕の中に、矛盾した気持ちが渦巻いている。


「私じゃ、なんにもできないわ」


 クミースさんが、いつものセリフを悲しそうに言います。


「そんなことは、ないよ」


 女王という立場でも。

 血まみれで剣を握る姿を知っていても。

 戦う力も持っていなくても。


 なんにもできないのに、なにも恐れず、友達でいてあげれることが、どれだけニルナ様の力になっているか。

 僕は知っている。


 クミースさんは、首を振った。


「一緒には、戦ってあげれない。同じ目線には立ってあげれない」


 クミースさんは、すがるように僕の手を握った。


「あなたは違うよね。弱い振りしてるけど、本当は強いんでしょ」


「なにを根拠に……」


 クミースさんの前で、戦って見せたことなんてないはずだ。


「初めて会った時から、ニルナに常識はずれだといい、ニルナに平気で言い返してた。ニルナが強いことを知ってて、強い証拠だわ」


「よく見てますね」


 論理的じゃないなんて思っていたけど、

 ものすごく論理的だ。


「それに、ニルナが弱い男なんて好きになるわけないわ」


「どうして……」


「あたしは、ニルナの親友だからね。わかるわよ」


 論理性の欠片もなくなった。


「本当は、フィルクの方がわかってるでしょう」


 昔、ニルナ様が僕に言ってくれた言葉を思い出す。


『私はあなたと結婚してもいいですよ』


 心の中に響いてる。

 何度だって。


「わかってますよ……」


 愛してるなんて言うことができない優しいあの人の考えた、


 精一杯のプロポーズだ。


 僕はずっと保留にしたままだ。


 いつか結論を出さないといけない。


「痛っ」


 急に目に痛みが走った。

 意図せずに、月の瞳が発動する。


 ふと空をみあげる。


 王都の方角から、巨大な二つの魔力の波動が放たれた。


「なんだ? ラグナロクとヒエログリフ?」 


 激しくぶつかり合っている。

 魂を掛けるほどの強い魔力。


「ニルナ様、戦ってるか」


 何が、起きているかわからない。

 直接、この目でみないと、

 じっとしていて、あとで後悔するわけないはいかない。


「行かないと」

 

 僕は、魔力を羽ペンに注ぎ込む。


魔筆変形「翼のあるサンダル(ペルセウスタラリア)」  


 僕の靴に羽が生えた。

 どこまでも高く飛べるどこにだって連れて行ってくれる僕の魔法。


「フィルク、行くの?」


 心配そうに、ミーユが声をかけてきた。


「ミーユ……」


 ミーユは、間違いなく僕の好きな女の子だ。

 酷い話だが、それも、僕の本心。


 好きな女の子には、ちゃんと話すべきだろう。


 僕は、心を決めて、口を開く。


「前、仕事か、ミーユどっちが大切かって聞いたよね?」


「うん。それがどうしたの?」


「ミーユも大切だけど、僕はやっぱり、仕事の方が大切みたいだ」


「えっ?」


「出世してねって言ったよね」


「うん?」


「やっぱり男ならてっぺん目指さないとね」


 僕はミーユを見つめる。


 ミーユは月夜に綺麗に咲く花のようだ。


 僕はいつまでも君を照らしていたいと思う。


 だけど……


 月は太陽がなければ輝けない。


 僕にとっての太陽はニルナ様。


 誰よりも、気高く、

 自分の身すら焦がすほどの、赤く輝く太陽。


 激しい光は、僕が一度受け止めて、みなに届けないといけないんだ。


「僕は、ニルナ様を助けるよ。最優先で」


 ミーユが、手を振り上げた。


 パシン!


「いた……」


 僕の頬に痛みが走る。


 ミーユは泣いていた。


「フィルクの本気がみたい……本気出せば、もっと偉くなれるよね?」


 ミーユも、僕が、財務大臣だったことは知っている。

 それより、上になることがどういうことかも。


「いいよ。ミーユがそういってくれるのなら、僕は全力を出そう!」


 僕の胸の奥から、熱く熱く血潮が沸き上がる。

 僕の辞書に今までなかった全力という文字が刻まれる。


 僕の瞳が、青く青く澄み渡った。


「僕は、サンヴァーラの王になってみせる」

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