15.真の女王
神父の持つ聖剣は、ワタクシに当たる瞬間、魔力を浴びて、シュルりと形を変えていました。
聖剣変形「豊穣と愛と美の女神の首飾り」
聖剣は、この世のものとは思えないほど、美しい宝石で飾られた非常に豪華な首飾りとなってワタクシの首に巻き付いていました。
「一体、なにが起きて?」
手に持っていた聖剣がなくなり、神父は動揺していました。
腕の形が猫のように変わり、ワタクシはするりと、縄抜けしました。
ブリージングネックレスの効果は、『動物変化』。
いろいろな動物になることができます。
「なぜ聖剣が私の手から消えて……」
「変形もできないものが、聖剣をもつものではなくてよ」
ワタクシは、自分の魔道具である、バングルに魔力を注ぎます。
聖装変形「富と繁栄の腕輪」
バングルが、本来の力を取り戻すと、
九つに分かれたバングルが、世界をまばゆい光で覆いつくしました。
処刑台を注目していた都民たちは、全員がその光を瞳孔の奥の奥まで見ました。
脳に焼き付くほど、ワタクシの美しさを刷り込ませます。
「ヨウキ様」「ヨウキ様」「ヨウキ様」
眩むほどの魔力を浴びて、国民たちは熱にうなされるようにワタクシの名前を呼びます。
「オーホッホ、ようやくこれでムーンヴァ―ナも征服ですわ!」
うまいこと王都民が処刑を見に来たタイミングで、ドラウプニルの精神感応魔法を浴びせることができました。
これで、この国の民でワタクシに逆らうものはいないでしょう。
「最高ですね。だから、やめられません」
征服することの快感に身をよじります。
「なんなんだ。お前は」
処刑台の上に立っていた神父が、目をこすりながら、声をかけてきます。
「あら、あなた魔法耐性が思ったよりも強かったのね」
「なにをしたんだ?」
「女王に対して、その口にきき方どういうことでしてよ」
「この罪人がぁ!」
「罪人? 王に逆らうものこそが罪人でしてよ」
聖剣変形「運命の剣」
聖剣に埋め込まれたエンブレムが空色に光り輝きます。
聖剣全体に幾何学的な紋様が浮かび上がると、鳥の羽のように軽い片刃の剣になりました。
「この子の形状も問題なく使えるようになりましたわ」
魔力の性質はまるで同じものを持っています。
ずっと内側で戦闘を体感していたおかげで生前は、まるで使えなかった剣術も使えそうです。
目の前にいる手ごろな試し斬り相手に向かって、剣を振るいます。
スパーン。
神父の首が宙を舞う。
「まあ、ワタクシのいうことを聞かない人間なんて、消えていただいて構いませんことよ」
残虐なものを見たというのに、称賛する声はやみません。
ワタクシは、自分のものになった国民たちを、宝石箱のようにうっとりと眺めました。
◇ ◇ ◇
妾は、魔力の異常爆発を感じて、ストークムスの迎撃から、慌てて帰ってきた。
処刑台の上で、泰然とくつろぐ、ニルナ。
ただ、魂が別のものであることなど妾にはすぐわかる。
魔力の質が、昔なじみのものだったから。
「ヨウキなにしとるんじゃ!」
「あら? ルーンではありませんこと。どうしましたか。あなたはストークムスの迎撃にいったのではありませんでしたか?」
「ニルナの魔力が爆発したから、心配になって帰ってきたんじゃ」
「ああ、そういえば、あなたは、魔力感知は得意でしたね」
「そんなことはどうでもいいのじゃ! ヨウキ! お前が中にいながらなんでこんなことになっとるんじゃ」
国民が皆一様に洗脳され、うわごとのようにヨウキの名前を唱えている。
とてもニルナの意思に沿ってやっているとは思えなかった。
「これほど、皆の意識がこの子に集まるチャンスは他になくてよ。いっきに魔法をかけてあやつるチャンスでしょう」
「お前さんは本当に昔から……」
ニルナが、いろいろ教えてはくれるというから、信用しておったのに。
まるで、昔から変わっていない。
「オッホッホ、勇者たちが攻めてきたというのに、全員返り討ちにしてしまえば、世界征服も簡単でしたのに、あの男の子の所為で計画が狂ってしまいましたが、どうにか修正できましてよ」
「ニルナに魔王になるようにも、お前さんがそそのかしたのかや」
「逆ですわよ。そんなことしない方がいいって教えてあげましたのに」
本当に口の達者な奴じゃ。
ニルナに不信感を抱かせて、わざと逆をいったんじゃろう。
「世界は、お前のおもちゃじゃないのじゃ」
「なにをいっているんでしてよ。世界はワタクシの物です」
「妾は全部しっておるんじゃからな」
「なんのことですか?」
「お前さんが、ウーツとネガイラの子供を殺し、ネガイラを狂わせ、ソウにこの国を救わせたことを」
「あらあら、それを誰に聞いたのかしら」
「ソウに決まっておろう」
「バレていましたか。流石は、ワタクシの旦那様」
「ソウが一番怒っておったのは、ハイラに媚薬をもって、ローアとくっつけたことじゃったが」
「あれも、おもしろかったですわ。計画通り、ことが進んで僥倖ですわね」
「最終的には、ハイラとローアが愛し合っていたからよかったようなものを」
「ハイラとローアをくっつけて、交流を持たせ、魔力耐性が高いこの国と自国民の交流をさせて、徐々に混血し、ほとんどすべての国民にドラウプニルによる精神感応魔法を効くようにしました。思えば長かった。支配するのに、200年かかってしまいましてよ」
「お前さん、本当に最悪じゃな」
我が子すら世界征服のための道具。
伝説にすら語られることがない、本当の極悪人。
「じゃが、過去はもうどうでもよい。ヨウキや、ニルナを離すんじゃ、ここで戻せば、許してやるのじゃ」
「許す? 何をいっているのかしら? この子はワタクシの子孫でしてよ」
「妾にとってニルナは、我が子同然なのじゃ」
「血のつながりもないのになにを言ってるのかしら?」
「妾は、ヨウキおぬしより、よっぽどニルナのことを自分の娘と思っておる」
血のつながりより大切な妾の娘。
「この子には、グングニルがありましてよ。あなたにとっては、震えるほど怖いでしょう?」
聖剣変形「最高神の槍」
ヨウキは聖剣を変形させてみせる。
必中と魂破壊効果を持った最強の槍。
物理に対して、完全無敵を誇る霧化を無効化する武器。
すぐにでも、逃げ出したいほどの恐怖を感じる。
それでも……
「自分の命よりも大切なものぐらい妾にだってちょっとはあるのじゃ」
長生きは、したかった。
理由もなく。
同族たちが死に絶えて、子孫が残せないとしても。
今日という日のために、生き残ってきた。
「期待は一切されていない。だからこそ、応えねばならんのじゃ」
魔獣変化「吸血王」
自身では生み出すことができない、魔力を消費し、自らの肉体を変化させる。
牙が発達し、極悪な鋭さをみせる。
「どうしても、ニルナに返さないというのなら、その魂、すべて吸いつくしてくれるのじゃ!」




