14.処刑
私は、捕らわれてしまいました。
戦いのまま連れられて来たので、勇者の返り血で血まみれ、ドレスはボロボロです。
私の聖剣は神父の手の中にあります。
手にはロープを巻き付けられています。
まあ、本気を出せば、こんなロープ……。
いえ、今は本気を出す気力がありません。
私は、かつてお父様、ハイラ初代国王と戦った城の前の広場に連れてこられていました。
「これは……」
広場には簡単な処刑台が準備されていました。
「こんなものを作る暇があるのなら……」
瓦礫の一つでも片づけて。
水路の一つでも直して、
花でも植えた方がいいのでは?
「わかりませんね……」
処刑台の上に、私は引っ張り上げられました。
「今から、お前の犯した罪を読み上げる」
神父が意気揚々と言います。
国王惨殺
ゾンビの研究
アステーリ王国滅亡
クラウドラ国侵略
レインリー王国勇者惨殺
ドラゴンの召喚
罪状?が次々の読まれていきます。
私は首をかしげました。
別におかしなところはなにもありません。
すべて心当たりがあります。
「夜な夜な人を殺していたらしい」
「死体を川に投げ捨てていたらしい」
「盗賊団も助けたらしい」
都民が口々に語られる言葉。
それらは……それらは……
すべて事実です。
だから、なんだというのでしょうか。
「お前は自ら魔王と名乗ったのか」
「そうです。その通りです」
それの……
それらの何がいけないのでしょうか。
全部、全部、みんなのために私がやったことです。
父は死人として、復活してしまったので、殺しました。
瘴気を吸収するため、ゾンビを集めて、カキュルトとフィルクが研究してくれていました。
ゼノヴィアお姉様に助けを求められたので、助けに行きました。
クラウドラ国が攻めてきたので、フィルクが返り討ちにしてくれました。
王都に火をつけていた、勇者ハーツは打倒しました。
みんなの守り神として、ドラゴンを召喚するために竜神教を誘致しました。
そして、みんなを守るために、私は魔王になったのです。
「貴族が死に絶えたのも、王族の所為だろう」
「はい。その通りです」
私は、頷きます。
私の回答に、神父は、激昂しました。
「なぜ。お前は、醜く喚いて否定しない!?」
「だって……」
貴族が死に絶えたのは、魔女……ネガイラおばあ様の所為です。
私にもネガイラおばあ様の血が流れています。
間違いなく王族の所為でしょう。
だからこそ、私はこの手で倒したのです。
「見てみろ、お前は天にも見放されたぞ」
神父が、空を指さしました。
雨が私に当たります。
「?」
見放された?
雨の日が悪い日だと、誰が決めたのでしょうか。
雨のおかげで、勇者の血も流れていき、私の黄金の髪も艶やかな肌も本来の美しさを取り戻していきます。
それに、雨の日は、お花のお水やりをしなくていい日なので。
「こんなにいい天気ですよ?」
服を濡らしたくない人もいるでしょうが、
雨に濡れたくなければ、傘でもさせばいいのです。
たいしたことはありません。
「お前は狂っている!」
狂っている?
間違っているのなら、分かります。
指摘してもらえれば、考えましょう。
それからやり直していけばいいのです。
何度だって、
何度だって。
信念さえ、正しければいいじゃないですか。
私の信念は、
「私はニルナ・サンヴァ―ラ。この国を誰よりも愛する王です」
私の言葉に嘘はありません。
ずっとずっとそれを胸に戦ってきました。
戦うときは、一人であっても、みんな同じ気持ちだと思っていました。
なのに国民みなにせせら笑われます。
嘘だと揶揄されます。
私がいつ嘘などついたのでしょうか。
いつだって、素直な心でみんなと対応していたというのに。
「殺せ、女王を殺せ」
「処刑して、あの恐ろしい女を」
「殺せ」「殺せ」「殺せ」と声があちこちから大合唱のように聞こえてきます。
わかります。
誰かを殺さなければいけないこともあります。
私だって、数えきれないほど、人を殺してきました。
自分の命を守るため。
愛する人を守るため。
生きる糧を得るために。
国のみんなを守るために。
でも、あなたたちは何のために私を殺すのでしょうか。
理由もなく、人を殺す悪意こそ、私が一番憎むことです。
今まで一人でもやれてきたのは、皆のことを思えばこそ。
「何のために私は戦ってきたのでしょうか」
ネガイラおばあ様は、確かに、お兄様の仇でした。
だけど、アンル大叔父様を殺したのは、
皆が王都にもどってくるためだったはずです。
「なにが正解だったのでしょうか」
信念が揺らぎ、あれほど感じていた精神力、つまり魔力は感じられません。
『お前は、いつだって誰かのために戦える奴だ』
最後にソウが褒めてくれた言葉です。
ずっとずっとそれを胸に生きていました。
「誰のために頑張ればいいのでしょうか?」
頑張らなければいけない理由がなにもありません。
神父が私の聖剣を構えています。
きっと私が切り落とした多くの人々と同じように、スパーンと首を落としてくれることでしょう。
「もういいですよね。頑張らなくても……」
一人で頑張るのは疲れました。
そろそろゆっくりしたいですね。
「ソウ、死ぬ覚悟はできていますよ」
死ぬ覚悟がないなら、諦めるなと教わりました。
つまり、覚悟があるなら、諦めてもいいでしょう。
でも、やっぱり……
こんなに早く冥界にいってしまうと、
やっぱり、ソウには叱られてしまうでしょうね。
「フィルクなら、許してくれますよね……」
私の大好きな男の子の顔を思い出します。
「手繋ぎたかったなぁ」
後悔があるとすれば、あの時……フィルクが手を伸ばしてくれたとき、すぐに手を繋がなかったことです。
そうすれば、フィルクは私の傍にずっといてくれた。
そんな気がします。
神父が、ゆっくり聖剣を振り上げるのが見えました。
「おやすみなさい」
私は静かに、目を閉じました。
眠るように、意識を手放します。
そして、最も強い悪意が目を覚ます。
「ワタクシは、ヨウキ・サンライズ。世界のすべてを支配する者ですわ!」




