13.魔王VS勇者
「何をしているんですか!? 勇者ハーツ!」
「見ればわかるだろう。あなたにとって不要なものを壊していた」
さも当然といった態度です。
「不要なものとはなんですか。この国に不要なものなどありません」
「ニルナ様、逃げねば」
カキュルトが、焦っていってきますが、私は首を横に振ります。
「だから、逃げません。私は誰にも負けません」
「そうではなく、ニルナ様は、王都で戦ってはいけない」
「それはどういう……」
カキュルトの言葉の意味がわかりません。
私がもう少し詳しく聞こうとしたところで、
魔力開放『無限水拡大』
ハーツの魔力が、辺り一面に広がるように放たれました。
ハーツの抜いた剣が魔力を吸い上げます。
聖剣変形「正義と秩序の目」
聖剣がぐにゃりと歪むと、鳥の羽のような剣になりました。
「俺の言葉より、邪悪なネクロマンサーの言葉に耳を傾けるなんて」
カキュルトが、ハーツの剣で刺されました。
引き抜いた剣でそのまま、ドラゴンを斬りつけます。
倒れたカキュルトから、血が流れ出ます。
「ぐあっ」
まだ息がありますが、苦しそうに呻いています。
「えっ?」
私が、まるで対応できませんでした。
「なにをするんですか!」
私は、聖剣を抜いて叫びます。
魔力開放『混沌創生』
私は、聖剣に魔力を注ぎます。
聖剣変形「勝利の……」
カシャ……、
「つっ!」
聖剣が変形しきる前に、ハーツが肉迫してきました。
(ウィ―ザルステップ)
私は、足さばきでどうにかしながら、ハーツの剣を受けます。
「ほう。俺の剣を止めるのか」
ハーツが言葉を置き去りにして、かき消えます。
フレイソードが、ハーツを見失います。
フレイソードでは、反応速度が足らない!?
フレイソードは反応しようとしていますが、圧倒的なスピードの前に、役に立っていません。
「ならば……」
私は再度、聖剣に魔力を注ぎました。
聖剣変形「運命の……」
また、変形しきる前に、間合いに入り込まれます。
「つっ」
ガキン!
私は変形中の聖剣の鍔で受け止めました。
「そんな風に剣を変形させていては、隙が大きいだろ」
ハーツから魔力が解き放たれます。
私も魔力を放ちます。
聖装変形「戦乙女の盾」
私は先読みで、バングルを変形させます。
聖剣変形「太陽神の円盤」
ハーツは、私ではなく、スラム街の方に攻撃しようとします。
太陽光を吸収し、エネルギーが充填されていきます。
「間に合って!」
スラム街に向かって、光のエネルギーが放たれます。
私は、最大限魔力を注ぐと、巨大なパリィを展開します。
ズギューン。
バリーン。
「はぁ、はぁ」
どうにか防ぎきりました。
威力は相当ありましたが、持続時間はそれほどありませんでした。
「そんな汚らしい場所を守ってなんになる」
ハーツは、スラム街を見て、つまらなそうにいいます。
「汚くなんてありません」
王都は、ゾンビの所為でところどころ荒れ果てていますが、みんな懸命に生きています。
それに、汚いというのなら、みんなで掃除をすればいいだけのこと。
そうです。
清掃の仕事をおこなったものにお金を渡せばいいのです。
「私が復興してみせます」
ハーツが鼻でわらいました。
「そんなことを君がする必要はない。それに、君を惑わすものは、すべて俺が消してあげよう」
「惑わすとはなんですか」
「そうだなぁ。例えば、ゾンビの研究施設、ドラゴンを召喚する教会などのことだ」
「全部私が発案したものです」
「麗しの君がそんなことを言うはずがない」
一方的な決めつけ、私を見ながら、まるで違う人のことを言っているようで、悪寒が走ります。
「あなたは私のなにをみているというのですか」
「それに剣を振るうことは、君には似合わない」
この剣は、大好きだった私の勇者の形見であり、
私の再起の象徴です。
「私は絶対、剣を手放したりしません!」
私は、剣を振るう自分に誇りを持っています。
「そんな剣などなくとも、俺に愛だけ注いでくれればいい」
「馬鹿にしないでください。私の好きな人は、死体置き場の隣に咲いている花でも綺麗だねと言ってくれる人です」
私は自分の美貌には自信があります。
ただし、魂は穢れきっていることでしょう。
でも、そんな穢れた魂も嫌いではありません。
なぜなら、
「私が好きな人は、私のどんなわがままも聞いてくれて、血まみれで帰ってきてもいつもと変わらぬ優しく笑顔で迎えてくれる人です」
ありのままの私を全部肯定してくれる
そんなフィルクが、私は好きなのですから。
「血まみれ? 何を言っているんだ。俺が君を守るよ」
「そんな言葉信じられません」
本当に守ってほしかった時、だれも助けてはくれませんでした。
いえ、ソウは、私に教えてくれたのです。
運よく誰かが助けてくれたとしても、
運悪く誰かに蹂躙されるだけだと。
だからこそ、自分の望む未来を手に入れるためには、自分の力で、困難を打ち砕くしかないのだと。
私が唯一得意なことそれは、
「剣術なら、私は負けません」
「なら、俺が君を剣術で屈服させてみせる」
「やってみなさい」
私は全力で魔力を聖剣に注ぎました。
聖剣変形「運命の剣」
ウィ―ザルソードを魔力強化します。
聖剣変形「混沌と破壊の獣」
剣身がぐにゃりと歪むと、夜空のように黒く輝くクレセントソードになりました。
私は、激しくハーツに向かって踏み込みます。
ガン! ギャン!
風と風が切り結ぶように、剣と剣が何度もぶつかり合います。
こちらは、高速形態だというのに、ハーツとスピードが同等です。
「はっはっは、この俺と剣術で張り合える奴がいたとはな。しかも女でますます嫁にしたい」
「誰が、あなたなんかの嫁になりますか」
ハーツの剣に宿っているのは純粋な破壊力。
私の全力の魔力強化と互角の威力を発揮しています。
上等です。
逆境こそが、私をさらに強くします。
私は、全力で剣を振り下ろしました。
ガガガガガガガガガガガガ。
お互いの魔力を纏った斬撃がぶつかり合います。
「その程度が、君の最強か」
「私の最強は……」
私の最強の武器は、『最高神の槍』グングニルです。
『槍』では、取り回しが悪すぎます。
ソウには、剣術しか習っていません。
「剣でないと……」
魔力で強化していても、ウィ―ザルソードがピシピシと音をたてます。
「折れてしまえ、君の心ごと」
技も力もスピードも同等なのだしたら、あとは
魔力の強さだけです。
空間が割れそうなほど、私とハーツの魔力がぶつかり合います。
天が激震し、大地が鳴動します。
わずかに私の方がおされています。
「負けを認めろ!」
ハーツが叫びます。
「負けない。絶対に!」
誰よりも、誰よりも強くありたい。
心だけは絶対あきらめるなと習いました。
「私にとっての……最強の剣は……」
心の中に武器のイメージが沸き上がります。
「いつだって……目標とするあの人の……」
奥歯が砕けそうなほど噛みしめて、極限まで、聖剣に魔力を込めます。
「神すらも殺しつくす」
魔力開放『混沌の……』
魂が組み変わっていきます。
「圧倒的力を……」
私の紫色をした瞳が真っ赤に輝きました。
魔力開放『滅びの宴』
混ざりあっていた魔力が、いっきに滅びの力に傾きます。
「すべての者への絶望が、私にとっての希望です!」
爆発するほどの魔力が聖剣に注がれました。
聖剣変形「裏切者の義兄弟」
聖剣に埋め込まれたエンブレムが禍々しく光り輝きます。
聖剣全体に幾何学的な紋様が浮かび上がると、聖剣から邪悪な波動があふれ出しました。
「なんだと!?」
急速に、聖剣が形状を変えていきます。
ソウの聖剣最強形態が、私の手の中にありました。
「破壊には、滅びを」
破壊せんする力に、滅ぼさんとする力がぶつかりました。
「これが、私の聖剣です」
私の聖剣からは、不気味な闇の力が放たれ続けます。
「そ、それのどこが聖剣なんだ」
聖剣が、『すべて滅べ』と声なき声をあげています。
今度は、勇者ハーツの聖剣が、ビシビシと音を立て始めます。
『聖』剣とは、
「私にとっての、邪悪なるものを倒す剣です」
暗黒の力が、ハーツの剣を粉々に砕きました。
ザンッ!
そのまま、ハーツの体を魂ごと、真っ二つにしました。
「ぐぁああ」
断末魔をあげてハーツが倒れていきます。
大量の返り血が、私にむかって飛んできます。
「はぁ、はぁ」
私の足元に勇者ハーツの死体が転がっていました。
生命の一欠けらすらも感じません。
人は蘇りません。
生き残った者が勝者です。
私は牙をむいて笑います。
「はっはっは、私の勝利です!」
私は高らかに宣言します。
「私を力で屈服させようなんて、100年早いのですよ!」
カランと聖剣が落ちました。
手のひらが、焼けるように痛い。
真っ赤な血が流れていました。
怪我こそしていませんが、お気に入りの真紅のドレスは、ボロボロ。魔力ラグナロクを極端に発現させたため、目の奥がチカチカします。
「さすがに、私も疲れましたね……。城に帰らないと」
だれも待っていない、城に。
それでも、帰らなくてはいけません。
やらなければいけないことは、まだまだ山のようにあります。
「見ろ! あれが、女王の本性だ」
誰かが叫びます。
神父でした。
神父が周りに向かって叫んでいます。
いつの間にか私の周りには、都民が集まっていました。
「おい。あれは、レインリー王国の勇者じゃないのか」
血まみれの私の傍に倒れる勇者。
「ああ、なんてことを……」
どうしたのでしょうか。
敵を倒したというのに、皆まだ怯えています。
「どうしましたか? 勇者は死にました。これで安心です」
私は、安心させようと手を広げて、にっこり笑って見せます。
「怖い」
私を見ていた女の子が言いました。
「大丈夫ですよ。サンヴァーラにあだなす勇者は私が倒しました」
「女王様……怖い」
「えっ?」
怖いのは、私?
みんなの恐怖に震える視線が私に突き刺さります。
いままでそんな視線むけられたことはありません。
「どうしたのですか? そんなに怯えて、王都にいたゾンビだって、私一人で全部倒しましたのに」
「ゾンビを一人で……」
さらにみんなが恐慌状態に陥りました。
どうしたのでしょうか。
まるで、そんなことも、皆今知ったといわんばかりの顔をしています。
「ニルナ様がご乱心だ」
誰かがそんなことをいう声が聞こえてきます。
ご乱心?
いつだって、私はこうです。
「だれか、王都軍を呼んで来い!」
王都軍?
何をいっているのでしょうか。
「おい。城にはだれもいないらしいぞ」
それはそうでしょう。
今、城に住んでいるのは私一人、誰もいるはずありません。
「王都軍はどこに?」
「王都軍? そんなものはありませんよ」
いつ王都軍なんていたことがあるのでしょうか。
そんなものはありません。
いつだって、私とフィルクでどうにかしてきました。
「軍はどこにいったの?」
軍はすべてゾンビになって滅びました。
フィルクは、軍を構えれば、税金を増やさなければいけないと、復興中のこの国にそんな余裕はないと言っていました。
「軍を構える余裕なんて、この国にはありませんよ」
私はフィルクを言葉をそのまま伝えます。
「どうなっているんだ?」
どうなっているとは、どういうことなんでしょうか。
私には何一つ理解できていません。
「ニルナ様……」
私が振り向くと、お腹を押さえたカキュルトが立っていました。
腕には、ドラゴンを抱えています。
「カキュルト良かった無事で……でもどうして」
ハーツに刺されたカキュルトは、どう見ても、致命傷でした。
絶対助からないとおもっていました。
破けた服から見えている肌から、なぜか傷が消えています。
人間の傷は、そんなすぐには治りません。
カキュルトが小声で言います。
「我は、回復魔法が使える。ドラゴンも無事だ」
私は、耳を疑いました。
「そんな回復魔法なんて都合のいい魔法は……」
「そう、都合はよくないのだ」
回復魔法はあるのに、都合はよくない?
私には意味がわかりません。
「我はフィルク殿と研究を進めるうちに回復魔法を発見した」
「どうして、みんなに教えてあげないのですか」
カキュルトは、私にしか聞こえないほどの声で言いました。
「それは……回復魔法とは……ゾンビ化の魔法と同じものだからだ」
「そんな……」
「だからこそ、我とフィルク殿は、公表することをやめた。我はフィルク殿から、学んだのだ。確かに嘘は悪手だが、全ての真実を公にさらすこともまた悪手であると……」
「それはどういうことですか」
「みな知らないのだ。今の生活が薄氷の上に成り立っているということを……フィルク殿が、いままでうまいようにやっていただけだということに」
今になって、私はフィルクに言っていたことを思い出します。
『うまいことやっといてください』
『いい感じにお願いします』
『どうにかしてください』
確かにそうです。
私はフィルクにそんなことばかり言っていました。
自分ができるわけではないのにです。
「私には、できないんです。だから、そんな言い方しかできなくて……」
『任せてください』
どんなことでも自信満々にいうフィルクがかっこよくて、ついつい無茶を言ってしまっていました。
ごめんなさい。
フィルク。
私は、答えを持ち合わせていないのに、いつも無理をいって。
「どうすれば……」
「ニルナ様すべて、我に唆されたことにしてください」
「どういうことですか?」
私には何一つ理解できていません。
「我は、元々この国の人間ではない。我に騙されてこうなったと言ってしまえば、みな納得するだろう」
そんな暴論……いえ、すでに恐慌状態、いまならころりと騙せてしまうでしょう。
「でも、そんなことをしたら、カキュルトが……」
生贄になるようなものでしょう。
こんな状態の人々がカキュルトになにするかわかったものではありません。
「我は大丈夫。きっと一生だれにも認められず、山奥で研究を続けていくものだと思っていた。ニルナ様が見つけてくれて、フィルク殿が言ってくれた。我が『まとも』で『優秀』だと、我はいままでそんな評価を受けたことがなかった。我は幸せだった。今こそ恩を返すべきなのだ。だから、早く」
私の中でやるべきことは決まっています。
私が自分の国民を一人でも裏切れるわけがありません。
「カキュルト、ドラゴンを守ってください! ドラゴンは、私の大切な家族なんです」
「だが」
「ドラゴンを守らなかったら、カキュルトあなたでも許しません」
「つっ、分かりました」
カキュルトは、ドラゴを抱えて逃げ出します。
カキュルトを追おうとする、人々の前に私は立ちふさがります。
「悪逆非道な、女王を捕まえろ!」
神父が都民を煽動します。
「私は逃げも隠れもしませんよ」
みなが私を捕まえるというのであれば、捕まりましょう。
だって、私は国民が大好きな魔王。
ニルナ・サンヴァ―ラなのですから。




