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10.回想 出会った男の子

過去回です。

 魔女を倒した直後のことです。

 私は、王都西側の領地のゾンビを退治してまわっていました。

 みんなが王都に帰ってきやすくするためにできるだけ減らしておこうと思ったからです。

 冥界の門が閉じて、ゾンビが増えることはなくなりましたが、倒さなければ減ってはいきません。


「東側は、第二都市まで、海軍が来てくれて倒していってくれていますが、西側も思ったよりは被害がすくないんですよね。どうしてなんでしょうか?」


 魔女が操るゾンビは、私がいた東側に向かわされていました。

 東側の方が被害が大きいのはわかります。

 ただ、あの頃ゾンビはかなりの数自然発生していて、西側にも出現していたはずなのにです。


 もちろん、滅びてしまった村も数が多いですが、全ての村が全滅ということはありませんでした。


「誰かが守ろうとしてくれていた? 一体だれが……」


 私が、考えことをしていると、急に大地が揺れました。


 ズドドドドドドド。


 見上げると、巨大なゾンビが立ち上がっています。


「ジャイアントゾンビ!? こんなところにこんなゾンビが。倒さないと」


 私は急いでかけだしました。


 みると、西に向かって進撃しようと、しています。

 よくジャイアントゾンビの足下をみると、誰かがいます。


 私は大声を出しました。


「逃げてください!」


 銀色の爽やかな髪に、青の瞳をした私と同い年ぐらいの男の子です。

 寒くもないのに、首には薄手のマフラーをまいています。


 どうやら、聞こえていないようです。

 男の子は、平気な顔をして、ジャイアントゾンビを見上げています。


 ジャイアントゾンビが男の子を踏みつけようとすると、

 突然、男の子から魔力が高鳴りました


魔力解放「秩序宇宙(コスモス)


「これは!? ウーツ様と同じ魔力?」


 澄み渡るような、魔力が男の子から放たれます。


 巻いていたマフラーを振り回します。


魔布変形「捕らわれの姫君(アンドロメダチェーン)


 マフラーに魔力が走り抜けると、何本もの鎖となって、ジャイアントゾンビに巻き付きます。


「すごい!」


 あっというまに、ジャイアントゾンビを束縛してしまいました。


 合体しているのが不利と悟ったのか、ジャイアントゾンビから普通の大きさのゾンビが何体か分離して男の子に迫っていきます。


 男の子は慌てず、羽ペンを取り出しました。


魔筆変形「魔封じの袋(ペルセウスキビシス)


 羽ペンは、袋にへんけいすると、ゾンビを吸い込みます。


 ペッと、食べ残しを吐くように、ゾンビを吐き出すと、ゾンビはただの死体となっていました。


 どうやら、倒して無力化したのではなく、魔法自体を無くしたようです。


 ただ一体ずつしか処理できないらしく、時間がかかっています。


「大丈夫ですか?」


 私は聖剣を抜きながら、男の子に近づいていきます。


「あなたは?」


「あとは、私がやります!」


 私は前に出ると、魔力を聖剣に流し込みます。


聖剣変形「炎の巨人の大剣(スルトソード)


 フレイソードに炎を纏わせて、ジャイアントゾンビに向かって飛ぶ斬撃を放ちました。

 斬撃は、まっすぐ飛ぶとジャイアントゾンビを炎で包み込みました。

 なすすべもなく、ジャイアントゾンビは、どんどん燃えていきます。


 私は、男の子に向き直りました。


「助かりました。今の魔力は……王都で、魔女を倒した方ですよね?」


「そうですよ。よくわかりますね」


 真っ青に光るウーツ様とそっくりな瞳が、私を見つめていました。


「ああ、やっぱり。僕の月の瞳は、遠くても大きな魔力は感知できますから、それにあなたは、二神持ちですか? うらやましい」


「二神?」


「あなたの黄昏色した綺麗な瞳をみると、サンライズとムーヴァ―ナの混血でしょう。混血の方は、どちらか片方の魔力を持っていることが多いんですが……すごいなぁ。両方持っているなんて。しかも、どちらも最高神じゃないですか。しかも、その剣見せてもらってもいいですか」


 私は言われるがままに聖剣を抜いてみせます。


「すごい。グニルス・ブルースト、ラグナロク、コスモスだけでなくて、トリシューラ、他にも沢山いろいろな魔力に対応していますね」


 聖剣を興味津々で眺めています。

 専門用語がいっぱい出てきて私にはチンプンカンプンです。


「いいなぁ。僕なんて、自分の主神に対応した魔道具探すだけでどれだけ苦労したか」


「えーと」


「ああ、すみません。魔法研究が趣味でしてね」


 シュルシュルシュルと鎖をマフラーに戻しながら、男の子は言います。


「もしかして、この辺り一帯を守ってくれていたのはあなたですか」


「ええ、まあ。魔女もどうにか倒そうと思って、王都に向かっていたんですが、なかなかゾンビが減らなくて、推理で死人をみつけだして殺してから、ゾンビを倒さないといけないのでどうしても時間がかかってしまって」


「もしかして、あなた全部そうやって倒して回っていたんですか」


「そうですよ。他に方法はないでしょう」


 さも簡単そうにいいます。

 ソウですら、全ての死人を殺すことを後回しにしていましたのに。


「しかもあなたは、一人で戦っているんですか。パーティーも組まずに?」


「一人が気が楽ですからね」


「誰からも賞賛されたりしませんよ」


 今のジャイアントゾンビだって、私が来なければ、一日でもかけて一人で倒すつもりだったのでしょう。

 こんな辺境までだれもやってこないというのに。


 男の子は、気にもせず言います。


「別にいりませんよ。むしろ浴びたら困りますね」


「どうしてですか?」


「僕は、ここら一帯の領主の息子ですが、兄が二人います。二人が領地を引き継ぐ予定です。兄達より弟の方が優秀だったら困るでしょう?」


「あなたは、それでいいんですか?」


「領民が幸せなら、僕にも生活できるぐらいはお金が入ってきますから、別に困ることはありません。幼なじみには、もう少し本気を出して偉くなってよと、よく言われますけどね」


 男の子は、朗らかに笑いました。


「それに僕はこの国が大好きですからね。戦う理由なんて、それだけでいい」


「そうですね」


 私もにっこり笑いました。


 私も同じ気持ちです。

 私も、一人で戦ってきましたが、他にも同じ気持ちで戦っていた人がいたのです。

 そのことが知れて、力が湧いてきました。


「あなたには、僕が魔法使えることばれてしまいましたね。できれば、兄たちにばれないように、できるだけしゃべらないでいてもらえると助かります」


「はい。わかりました!」


「では、またどこかで」


 男の子は、くるりと背を向けると去っていこうとします。


「まってください」


 私は思わず、男の子の背中にそう言っていました。


「どうしましたか?」


 男の子は振り向いてくれます。


「あなた、私の家で働きませんか?」


 男の子は訝しげな顔をします。


「はあ、話聞いてましたか? 僕は働くの嫌いなんですよ」


 手柄はいらないって言っていましたね。

 でも、男の子が興味をひくものが私の家にはいっぱいあります。


「私の家には、ウーツ様の魔導書が山のようにありますよ」


「ウーツ様?」


 男の子は、顎に手を当て考えます。 


「ウーツ様って、魔王ウーツのことですか?」


「そうです」


「僕と同じ『コスモス』持ちのウーツ魔王、絶対一度は調べ上げたいと思っていたんですよ。それなら話は別です! 是非とも働かせてください!」


 急に目の色を変えて――本当に目が青く綺麗に輝いていました。


 私はにっこり言います。


「よかったです! これからお願いします!」


 男の子は、お辞儀をしました。


「はい! 僕はフィルクです。よろしくお願いします。……ところで、あなたは、どちら様ですか? どこかの貴族ですかね?」


 私はにっこり笑って言いました。


「私はニルナ・サンヴァーラ。この国の女王ですよ!」

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