9.追放2
ニルナ様に追放を宣言された次の日。
僕は、太陽が沈むギリギリまで、王都で動き回っていた。
「カキュルトには、いろいろお願いしてきたし、竜神教も指示は出してきた。一日でできる最低限はこれくらいかな」
ミーユが心配そうに聞いてきた。
「フィルク、追い出されたのに、女王様のために働いてるの?」
「いや……王都では、いろんな人にお世話になったんだよ」
「フィルクがお世話してあげたんじゃなくて」
「ううん。僕は財務大臣……だった。財務大臣は、誰かが頑張ってくれるから、それのいろんな調整をするのが仕事なんだ。だから、僕一人いたって意味はないんだよ」
情けは人のためならず。
巡り巡って自分のためになるということだ。
僕は、王都のみんなが笑顔になるために頑張ったし、
みんなの笑顔から、毎日たくさんエネルギーをもらっていた。
「でも、フィルクがいなくなったら調整する人がい無くなっちゃうってことだよね」
「そうなるね。だから、ほら、陰ながらこっそり助けないと」
「それでも、助けるの?」
「僕はこの国が好きだからさ」
「それは本当に国のため?」
「も、もちろん」
ミーユは、僕を見透かすような瞳で見つめてくる。
「ニルナ様と私どっちが大切?」
また面倒くさい質問を、
でもまあ、それの答えは知っている。
「ミーユだよ」
答えた瞬間、心がずきずきと痛みだした。
『あなたがいて助かります』
『なんて優秀なんですか』
『さすがですね』
『ありがとうございます』
蕩けるような笑顔をいつだって僕に向けてくれていた。
今だって、顔がすぐに思い出せる。
なのに……。
「今は、ニルナ様の顔を思い出すのもつらいよ」
「そうよね。あんなに頑張って働いてたフィルクを追い出すなんて」
「それは……」
僕は確かに頑張っていた。
信頼関係だって、できていたと思っていたのに。
「急に出ていけだなんて、普段からまともな指示なんてなかったんじゃないの?」
「普段は、『いい感じに』とか、『どうにか』とか『うまいこと』とか、ばっかりだったよ」
「なにそれ? 酷くない? フィルクは、そんなに酷い女王の元で働いていたの」
「酷くは……」
思い返せば、来た当日から、毎日毎日死体の処理。
都民にニルナ様の所業がわからなくなるように、根回ししまくる毎日だった。
あげくには、異国の邪神教を国教にするし、ゾンビの動物園を作ろうとするし、ゾンビの研究者を雇ってくるし、国民にいい感じに誤解させるのがどれだけ大変だったことか。
「酷いな。どう考えても酷い」
それに僕、結構頑張ったんだけどなぁ。
勇者が攻めてきたときだって、
戦闘嫌いなのに、本気出して、ニルナ様を守ろうとしたのに。
守ろうとしたのは、ニルナ様の心だ。
倒すだけなら、ゼウスキャノンでも打ち込んでやればいいのに、
他国とも仲良くしたい。
平和に暮らしたい。
そんな心をくみ取って作戦を立てた。
いつもいつも空回りして、
挙句の果てに僕に相談なく、魔王なんて名乗って。
それでも、どうにか方針を直して、ニルナ様の望むように持っていこうと思ったのに。
それでこの所業は、
「本当に酷すぎる」
はあ。
ため息しか出てこない。
僕は手にもつ魔杖を見つめた。
『どうせそれ私には、使い物になりませんからあげます』
ゴミのようにポイッと捨てられた国宝。
仕方なしに、僕は持って来てしまった。
「追い出された方が良かったかもね」
「でも、追い出すって言っても、領主にはしてくれたわけだしさ」
僕は、それでもニルナ様の肩をもつ。
「でも、あんまりいい土地じゃないんでしょ」
「それは、魔法があればどうとでもなるし」
僕に魔法でできないことはない。
ただ、僕は魔道具をいままで二つしか持っていなかった。
その二つだって、それなりに高価なものだったが、
たった二つの魔道具では使える魔法に限度がある。
だけど、今僕の手には魔杖がある。
この魔杖は、僕の魔力とものすごく相性が良く。
ありとあらゆる魔法が使用できる。
「それでも、不安はあるけど」
「二人でなら乗り越えられるわ」
「そうだね」
僕は、ニルナ様とも一緒に二人で歩いて来たつもりだった。
だけど、ゾンビの大軍をひとりで倒せるニルナ様は、別に僕の手助けなんて、単に少し楽かどうかだけだったのかもしれない。
「行こうか」
僕は、ミーユに手を出した。
勇者を追い返した時、ニルナ様と繋ぎ損ねた手。
もう二度と、ニルナ様とつなぐことはないだろう。
「うん!」
ミーユは嬉しそうに、僕の手を取った。
僕は、ミーユと手を繋ぎ、王都をあとにした。




