6.勇者が去った後
勇者たちを撃退したタイミングで、ニルナ様が王の間にやってきた。
ニルナ様には、今日はいつも以上におしゃれをしてもらった。
黄金の髪に、赤いドレスと翡翠のペンダントがよく似合っている。
「フィルク、こっちも終わりましたか」
「今しがたこちらの勇者たちも、帰っていきましたよ」
「ルーンさんから戦ったと聞きましたが、そんなことなさそうですね」
ニルナ様がそう思うのも当然だろう。
王の間は、傷ひとつついていない。
城が壊れたら直すのだって、僕なのだ。
頑張るに決まっている。
「ええ、穏便にかえってもらいましたよ」
あれぐらいじゃれ合ったうちにもはいらないだろう。
勇者たちにも、怪我一つさせなかったのだから。
心以外は。
「ニルナ様はどうでしたか?」
「すっごく良い方でした。やっぱり魔王であっても、話せば勇者と分かり合えますね!」
それはどうなんだろう。
ニルナ様の色香で混乱させただけだと思うんだけど。
「よかったですね」
ニルナ様が嬉しそうなので、僕はとりあえず肯定しておくことにした。
「これで順調に国交回復しますね」
「そうですね」
それは嘘ではない。
これで、アステーリ王国とクラウドラ国にも隣接する国の勇者は、全員対応しただろう。
一番問題だったストークムス国も今回の件で、おとなしくなるだろう。
というより、お詫びの品の一つぐらい持ってこなければ、許すつもりもない。
飴と鞭を使い分けてこその政治だ。
みんな仲良くしたいのは、僕も同じだが、飴ばかりでは図に乗ってくる奴が必ず出てくる。
本気を出していないだけ。
そう思わせておく必要がある。
「魔王はやりすぎだけど」
「何か言いましたか?」
「いえ、すこし疲れましたね。休憩しましょうか」
「そうですね。クッキーがいっぱい焼けたので、一緒にお庭で食べませんか?」
勇者のために焼いていたクッキーだ。
どうやら、結構余ったようだ。
「花壇に綺麗な花が咲いているんですよ」
「いいですね。死体置き場の隣の花壇ですよね?」
いつも楽しそうに水やりしているのを僕は知っている。
「そうです!」
花畑だろうと、死体置き場の隣だろうと、花はどこに咲いたって美しい。
血まみれでも美しいニルナ様みたいに。
「さて行きましょうか」
僕は、自然と手が出ていた。
ニルナ様が、僕の手を取ろうとした瞬間。
ピンポンパンポン。
再びアナウンスが鳴った。
「フィルク。お主に客じゃぞ」
ルーンさんの声が響く。
うん? ニルナ様じゃなくて、僕に客?
なんだろう?
「また勇者かな?」
隣国ではなく、もっと遠方の国が来たのだろうか。
「せっかくお茶にしようと思ったのに。お邪魔虫なんですから」
ニルナ様の言葉に、僕は苦笑いする。
「僕がいればどんな奴が来たって、大丈夫ですよ」
勇者たちの力量は大体わかった。
政治力は、ほとんどないに等しい。
戦いもたいしたことはない。
むしろ戦うしか能がないんだから、もっとまじめに修行してもらいたいものだ。
僕なんか国の政治もしながら、やっているというのに。
「さてさて、次はどんな勇者が来ますかね?」
バン!
僕らは、勢いよく開いた王の間の扉を見た。
開いた扉に立っていたのは、少女が一人。
大きな鍔の帽子に長い銀色の髪と青い瞳。
一晩だけ咲く月下美人のように透明感のある肌。
襟元や袖口には美しい刺繍やレースが施されたワンピースが、彼女の可憐さを一層引き立てていた。
僕にはすごく見覚えがある人物だった。
彼女は、僕を見つけると、胸に飛び込んできた。
「えへへ。フィルク、来ちゃった」
やってきたのは、僕の幼馴染のミーユだった。




