6.英霊召喚『賢王』
ソウは、聖剣を大地に突き刺し、
抱えていた娘をおきながら、ソウは叫びました。
「相棒交代だ!」
そういった瞬間、私のペンダントが光り輝き一筋の光線が放たれました。
聖剣にあたると青い靄が発生し、勇者の体を包み込みます。
ソウは目を閉じ、その靄を受け入れました。
高身長で痩躯の仮初の姿が重なります。
見開いた目は月のごとく澄んだ青い光を放っていました。
英霊召還『賢王』
バサリとマントを翻し、壮麗さを纏った立ち振る舞い。
顔は同じはずなのに凛々しさが際立ちます。
確かに、英霊とはソウ一人のことを指し示しているとはいっていませんでした。
「すべては我が意のままに、森羅万象ひれ伏すがよい」
そう言い放つと、ゾンビたちを睥睨します。
「魔女と亡者はすべて火炙りにしてくれる」
憎悪のこもった声で言いました。
「小娘、聖剣を支えよ」
圧倒的な威厳からの指示。
「は、はい」
私は本能的に悟りました。
逆らってはいけないと。
私は、鉈を腰にぶら下げ、受け取った聖剣を構えます。
魔力解放『秩序宇宙』
ソウの魔力とは違い、魔力が風のない水面のようにピーンと張り詰めます。
神性や絶対の力を持つ英霊が、宇宙の全てを支配しているようです。
膝をつき、頭を下げたくなるのを必死に耐えながら、私は聖剣の構えを保ちます。
聖剣変形「太陽の弓」
聖剣がソウのときと同じように、形状を変えていきます。
聖剣が大地に根を張ったような、大きな横向きの弓になりました。
「一体なんですかこれは⁉」
私は変形した聖剣を必死で支えながら叫びます。
もはや慣習として聞かざるをえません。
「バリスタソードであろう」
律儀に答えてくれます。
だけど、だけどです。
ソードとは?
支えてはいますが、もう手に持っていないのですが?
ただのバリスタでいいのでは?
剣の概念がゲシュタルト崩壊起こしています。
もちろん心の中で思うだけで、恐れおおく、口にだしたりできません。
「狙いを定めよ!」
「はい!」
下女のように間髪いれずに返事をします。
もはや英霊の前に、王女としての自覚はいりません。
素早く迅速に実行に移します。
標準を中央にいるゾンビに合わせます。
キュイィーン。
魔力が収束していって、バリスタソードに矢が形成されます。
「撃て!」
ものすごい反動とともに、矢は一直線に飛んでいきます。
炎の矢がゾンビに当たると、一瞬で炎上してしまいます。
焼けるとかそんなレベルではなくて、骨まで燃やし尽くします。
外した矢は地面に当たると、火柱となり、突撃してくるゾンビを燃やし尽くします。
炎の中で、ゾンビが蠢いているので、この世に灼熱地獄が現れたようなありさまです。
腐った焼き焦げた異臭が異臭が辺り一面に広がっていきます。
木は燃えながらなぎ倒されて、ゾンビをつぶしていきます。
反動はものすごく、暴れ牛のようです。
絶対これ、大人5人とかで扱うものなのではないのでしょうか。
もはや武器に殺されるかもしれないと思った頃に攻撃が終わりました。
「これでよかろう」
英霊は殲滅しつくし灰となったゾンビを満足げに眺めます。
ゾンビだけでなく、森は、焼け野原と化していました。
ソウが交代した理由もわかります。
一対一の戦いならば、ソウに分がありそうですが、殲滅ということならば、圧倒的です。
私は、英霊に向き直り、尋ねます。
「すみません。どちら様でしょうか」
「我が名はウーツ。我を讃え、我に奉仕せよ」
重苦しく威厳ある言葉。
ソウよりもさらに偉そうです。
「私と共に魔女を倒してはいただけないでしょうか」
私は頭を下げながら、全身全霊心を込めていいます。
「ほう? 数年もすればいい女になるであろう。よかろう。我に身も心も捧げるがよい」
身も心も捧げるって
結局私の体目当てなのですか……。
ソウが相棒と言っていただけあって、話し方、戦闘スタイルなどはまったく違っても行動原理は全く一緒です。
確かにソウとものすごく気が合いそうです。
「よし、では我を運ぶがよい」
ウーツは私に命じてきます。
「はい! うん? えっ? どうやって」
反射的に返事してしまったものの、どういうことなのでしょうか。
誰が誰を運ぶ?
私がウーツ様を?
方法は?
考えますが、さっぱりどうしたらいいかわかりません。
「担いでに決まっておるであろう」
担ぐって……私は馬扱いですか……。
体目当てかと思ったら、人扱いですらないんですね。
女の子も運ばないといけないので、気合いとかではなく、物理的に無理です。
ただできないなんてそのまま返せば、ソウのときのように気合いでどうにかしろと言われそうな雰囲気があります。
なんとか代案を考えなければいけません。
「とりあえず、ソウにまた代わってもらえないでしょうか」
とりあえずソウに戻ってもらえば、女の子を担いで歩いてもらえるのではないでしょうか。
「よかろう」
ウーツ様は機嫌を損ねることなく頷くと、赤い靄に包まれて、目の色が赤くなりました。
「よし。じゃあ、行くか」
ソウは、女の子を担ぐと、歩き出します。
私は慌ててそのあとを追いかけました。
「ソウは、担げといわれたらどうしてたんですか?」
「担ぐだけだ」
「普通に担いじゃうんですね……」
今も女の子を軽く担いでいます。
成人男性一人ぐらいどうってことはないのでしょう。
召喚したときに、一瞬だけ見えた、ソウの生前の姿は、明らかに勇者より力強そうでした。
ソウがウーツ様を担いでいる姿を想像するとシュールすぎるのですが。
ソウがくっくっくと笑いながら、言いました。
「ウーツの生前は本物の王様だからな。機嫌を損ねたら大変だぞ。粗相がないようにな」
機嫌を損ねたら大変なのは、あなたも同じなのですがと、心の中で思いながら私はため息をつきました。