19.女王の帰還
僕は生まれたばかりの、ドラゴンに餌をあげていると、城の扉が勢いよく開いた。
「ただいま帰りました!」
ニルナ様のご帰還です。
「お帰りなさい。ニルナ様」
どうやら、クミースとかいう女の子は帰った様子。
茶髪の女の子だけついてきています。
ニルナ様は、僕の傍に駆け寄ってくると、ドラゴンを抱きかかえた。
「うわぁ。可愛いです。これがドラゴンですか?」
「そうですね。翼竜みたいです。何年かかるのかはわかりませんが、大きくなったら飛べると思いますよ。あと、お城の庭に小屋も建てておきました。畜産業にも資金まわしておきましたので、一匹ぐらいならどうにかなると思います。一匹でいいですよね」
「はい! もちろんです」
「なんじゃ、おぬし、ドラゴンは、やりきっておったのか」
茶髪の女の子がなれなれしく話しかけてきます。
なんでこの子、年下に見えるのに、年上みたいに話しかけられるんだろう?
耳がなんだか尖ってるし。
たしか、古代種にそんな特徴がある種族が……。
気づかなかったことにしよう。
「他はどんな感じですか?」
「まあ、なんとか全部軌道にのりましたよ」
「なんじゃと、教会ができて、ドラゴンがいて、アニマルゾンビ動物園つくったとでもいうつもりじゃ……」
「そうですけど、どうしましたか?」
「さすがフィルクです」
「そんな馬鹿な……嘘にきまっておる!」
なんで僕は、こんな良く知らない人に疑われなければいけないんだろう。
どっちにしろ、ニルナ様には報告しなければいけないので、
「はあ、まあ、じゃあ、一緒に見に行きますか」
「いきましょう!」
ニルナ様は頭にドラゴンをのっけると、ルンルン出発しました。
◇ ◇ ◇
まず、僕はアニマルゾンビ動物園という名の研究所に連れてきました。
「うわぁ。見慣れない感じの檻ですね」
「ええ、ちょっと頑丈にしたくて、枠は、鉄を芯にした石を使用しています。あとは、基本ゾンビが見やすいようにガラス張りにしていますよ」
「楽しく観察できますね!」
「楽しいかの……?」
「ここの管理は、カキュルトという方にお願いしました。ニルナ様が雇った方ですよね?」
「はい。そうですが、研究したいといってましたのに、動物園の管理で大丈夫ですか?」
「動物園とは、動物を保護・研究するための施設でもあります」
僕はあらかじめ用意していた、言い訳を提示した。
「そうなんですね! さすがフィルクです」
嘘はついていないが、手放しで、称賛されると、少し心苦しい。
僕らが、ウサギや鶏のアニマルゾンビを見ていると、
奥の部屋から、カキュルトが出てきました。
カキュルトにもう少し説明してもらおうと頼もうとしたところで、
「すみません、先生!」
施設に、子供を連れた母親が駆け込んできた。
「この子、見てもらえますか。ここなら助かるかもしれないって」
母親は、子供を見せます。
子供は、息が荒く、苦しそうだ。
カキュルトは、子供を近くにあった長椅子に寝かせると、傷口を見る。
「む、蛇か、これはいかん。止血はしてあるな」
カキュルトは止血場所を確認する。
「時間が少し経っているな、吸引も難しいか。確か、この辺りの蛇の中で毒を持っているのは……」
カキュルトは手帳を取り出すと、さらさらと蛇の絵をかき母親に見せる。
「噛まれた蛇は、どちらに近いかわかるか?」
母親は、頭が大きくなっている方の、蛇を指さす。
「こちらか、失血毒型の猛毒だな。ただこちらは、ゾンビに繰り返し投与し、作った抗毒素血清があったはずだ、すぐ持ってくる、待っておれ」
カキュルトは、足早に、別の部屋に行くと、注射器を持ってきた。
素早く子供の患部に注射すると、子供の顔が少し穏やかになった。
「よし、これで大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます」
母親は、何度も何度もお礼を言いながら、施設を出て行く。
「しばらくは、近所の医者に毎日、診てもらうといい。どうしてもの時はまたここにくるのだ」
にこやかに、親子を見送るカキュルト。
「ふう」
カキュルトは、ようやくこちらに気が付いた。
「おお、ニルナ様、大臣殿、よくぞいらした!」
「研究は順調のようですね」
「大臣に言われて、この辺りにいる特に毒性が強い動物の治療法の研究はうまくいっていますぞ。人型ゾンビに繰り返し毒物を投与することによって、血清の作成に成功しておる」
「人型なのがいいですね」
「さすが大臣よく分かっておられる。他の動物で作成した場合は、やはり副反応も考えられるが、人型ゾンビで作った血清ならば、ほとんどその心配もいらぬ」
「では、各病院に常備できるように、量産体制を考えておきましょうか」
さらさらとフィルクは、メモを取っていく。
「他の研究はどうですか?」
「今は、ゾンビによる臓器復元研究を進めておる! ゾンビの肉体を、人間に組み込むことによって強化できるのだ!」
「おい。こやつこんなこといってるがいいのか?」
「言い方はあれですけど、要は臓器が弱った病気の方にゾンビの臓器を移植できる技術ということですよ。まだまだ拒絶反応とかの仕組みをもう少し調べないといけないですけど、魔法の発展による、医療の発展は頭打ちなので別のアプローチが必要ですから」
「さすが大臣殿、少し話しただけで、この理解力とは」
「な、なるほどの。親切なのは知っておったのじゃが、あやつ本当に認められていなかっただけなんじゃな」
「私の目に狂いはなかったですね!」
「カキュルトはそうですね」
僕は、含みを持って言いました。
「カキュルトはとは?」
「教会の方行ってみましょうか」
◇ ◇ ◇
妾は、ぽかんと教会を見上げた。
真っ黒な教会には、迫力満点の聖竜ホワイトドラゴンが書かれていた。
「立派ですね」
「誰が、こんな絵を描いたんじゃ」
「僕ですよ。だれも描ける人が見つからなくて」
「神絵師かの……」
言うとこなしの、教会。
ニルナは、目を輝かしている。
中から、仮面をつけた三人組が、出てきた。
「大臣⁉」
一人がフィルクを見ると逃げ出そうとする。
「ああ、また仮面つけて!」
フィルクは、逃げ出そうとした一人の仮面を素早く外すと、懐からメイク道具を取り出し、化粧をして、バンドで髪を綺麗にまとめ上げる。二人目、三人目の仮面を外すと、手で泡たてて、シュルシュルシュルと二人の男の髭を剃り上げる。
「これでよしと」
一瞬で、美女一人と美男子二人が目の前に現れる。
「カリスマ美容師かの……」
「ちゃんと教えた通り、しっかり挨拶しながら、ゴミ拾いしていますか」
「は、はい」
女は申し訳なさそうに答える。
「宗教はイメージ戦略が大事ですからね。お願いしますよ」
こっそり、逃げ出そうとしていた影をフィルクは捕まえる。
「神父様? どこにいこうとしているんですか。今日のお祈りはおわったんですか?」
ドラゴンはつぶらな瞳でニルナの頭から神父を見ている。
「ひぃいいいい」
神父は、幼いドラゴンと目があうと震えあがった。
「竜神教の神父が、ドラゴン怖がってどうするんですか」
神父は、フィルクに目が合うと、さらに震え上がった。
「竜神様は、全てをご覧になっていますよ」
きゅうぅ?
何にもわかっていない幼竜は、不思議そうに見ている。
「ニルナ様、ちゃんと国教にふさわしくなるように矯正しておきますから」
フィルクの青き瞳が月のように輝いていた。
◇ ◇ ◇
「どうなっておるんじゃ」
城に帰り着いた妾は開口一番そう言った。
「お主は、なんで全部できとるんじゃ。万能すぎるじゃろう」
「指示されましたから。失敗したら、どうなるかわからないから、誰だって必死にやりますよ」
フィルクはしれっという。
「指示されたからって普通できんじゃろう……」
「やればできるものですね。僕も自信がつきましたよ」
「ほらぁ。だから、フィルクは優秀だって言ったじゃないですか」
「優秀にもほどがあるじゃろう。それにお前さん、ゼウスキャノン使えるんじゃな」
アステーリ国から見たゼウスキャノンの光あれは確実にここから放たれていた。
「はい? ああ、あれですか。まあ、魔法は得意ですよ。多少は使えます。むしろそっちで雇われたものだと思ってましたから」
「ゼウスキャノンで多少か。ニルナが優秀だというのがよくわかるわい。小僧は大魔導士だったのじゃ」
「大魔導士? 僕は普通ですよ」
「自分のこと普通と思ってるのも、ニルナそっくりじゃの」
似た者同士、本当にお似合いな二人じゃな。
どうやら小僧は、他に好きな人がいるらしいが、どうなることやら。
「約束ですからね。ルーンさんも私の部下ですよ!」
「それはいいのじゃ。あんまりいままでと変わらんからの。それにしてもニルナの部下は」
・大魔導士
・邪神教神父(矯正中)
・マッドサイエンティスト(名医)
・ドラゴン(幼竜)
・ヴァンパイアロードエルフ
「大魔王まっしぐらなんじゃが、いいのかの……」
「なにかいいましたかルーンさん?」
「なんでもないのじゃ」
「それにしても、お城もにぎやかになってきて楽しいですね」
「そんな言葉で締めくくっていいのかの?」
明らかに魔窟と化してきたサンヴァ―ラの未来を憂いてため息をついた。
◇ ◇ ◇
ニルナ様、帰還してから数日後、今度は王妃様が国に帰ることになった。
なにやら、急いで帰りたいとのことだった。
帰りたいなら、帰ってもらった方がいいとは思うんだけど。
「レザ、マリー、セイラ、お姉様をお願いしますね」
「任せてください」
「ちゃんと王妃様を国に届けるわ」
「頑張ります。大丈夫です」
王妃様の護衛は、
ニルナ様の、知り合いの冒険者三人組に任せることに。
しばらくは、国についてから、護衛任務もしてくれるとのこと。
「王妃様、いろいろ勉強になりました」
「は、はい……」
なぜか、僕の魔法を見てから、目をそらすようになってしまった。
どうやら、魔法が怖かったらしい。
結局まともに、言葉も交わすこともできず、王妃様は帰っていってしまった。
「ずっとここにいた方がいいとおもうんだけどな」
僕は王妃様の未来を思うとそう言わざるを得なかった。
◇ ◇ ◇
みんな解散してから、僕とニルナ様はお庭で、休憩することに。
「僕以外にも、ニルナ様の直属の部下いたんですね」
実は、あの三人組は、アニマルゾンビ集めにも積極的に頑張ってくれた冒険者だった。
「お城の部下は、フィルクだけです」
僕だけで十分といわんばかりだ。
できるだけは、頑張るつもりだ。
例えば、
「ニルナ様、指示通り、クラウドラ王国も属国にしておきましたよ」
「指示通り?」
僕の言葉にきょとんとしています。
親書は山のように来ていたので、細かいことはおぼえていないのかもしれません。
「万を超えるほど、兵が攻めてきた場合は、ゼウスキャノンを撃って、属国にしておくようにとのことでしたよね。まあ、一通送っただけで、承諾してきました。他の指令に比べれば、たいしたことはありませんでしたけど」
「そ、そうですか」
なんだか歯切れが悪い。
気のせいかな?
僕は、ついでに気になることを聞いておくことに。
「あと王妃様に本当のことを伝えなくてよかったんですか?」
「本当のこと? なんのことですか? お片付けしてこなかったことですか」
ニルナ様の話だと、城は王やら部下たちの死体がそのまま転がっている。
帰り着いた王妃様を待っているのは、地獄絵図だろう。
それはそれで、伝えておいた方がいい気がする。
「まあ、それもありますよね」
ゾンビ慣れした三人組がいるので、なんとかはしてくれるとは思う。
「他にありますか?」
「王様は巫女に操られていただけですよね?」
「…………どうしてわかったんですか」
「実は僕魔法の解析得意なんですよ。まだ回復魔法は発明されていませんが、精神感応魔法は開発されています」
「つづけてみなさい」
いつもと違い、威厳のある言い方です。
「王妃様には、洗脳魔法がかけられた痕跡がありました。王妃様は魔法はほとんど使えないようですが、耐性はものすごく高いようです。まあ、僕みたいな生粋のムーンヴァ―ナ人は、耐性高いのでかかりません。混血の方は、少し耐性が低いので、ニルナ様が、常時パリィを体にかけているのは、そのためですよね? 巫女の精神感応攻撃を警戒して」
ニルナ様はうつむいて、答えました。
「お姉様を助けてあげたことは本当です」
「わかりますよ。わざわざ最後に殺すことによって、王達の魔法を解除させないようにしてから、殺したんですよね。ニルナ様も人が悪いなぁ」
「これで絶望の中で、味方になったのは私だけ、きっとお姉様はこれからは私のどんな頼みも聞いてくれることでしょう」
「そうですね。きっとそうだと思います」
「誰にも言わないでくださいね」
「僕はこのことを胸のうちにそっと隠そうと思います。僕はニルナ様の部下ですから」
「そうしてくれますか」
泣きそうなニルナ様。
やりたくて、やったわけではないのだろう。
ニルナ様も。
無茶苦茶な人だけど、絶対信じられることがある。
この人は、国民が大好きな人だ。
それこそ自分の命をかけれるほどに。
ニルナ様の悲しそうな顔に
僕の胸は引き裂かれそうだった。




